日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: S3-5
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シンポジウム3
酵母における染色体分配阻害と核形態変化に及ぼす糖代謝関連毒物の影響
*井上 善晴
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抄録

 ゲノムを安定して正しく継承することは、すべての生物にとって最も根幹的な生命活動の一つである。何らかの原因によりDNAに損傷が生じると、細胞はそれを修復するまで細胞周期を停止させる。正しく修復が行われない場合、それは変異としてDNAに固定され、誤った遺伝情報が次世代へと受け継がれてしまう。DNAに損傷を与える原因は紫外線などの外的要因に加え、細胞内でのエネルギー代謝により生じる代謝物が遺伝毒性を示す例も知られている。その一例として、解糖系酵素の一つであるトリオースリン酸イソメラーゼ反応の中間体から生じるメチルグリオキサール(MG)は、DNAのグアニン残基とadductを形成する。

 筆者の研究室では、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)をモデル生物として、MGの生理機能について研究を行なっている。高濃度のMGは酵母だけに限らず全ての生物に対して致死的に作用するが、亜致死濃度のMGは酵母の核形態を球からjellybeansのような扁平な形に変形させることを発見した。真核生物の核は通常、球形である。高等真核生物と異なり、酵母は核分裂の際に核膜が消失しないclosed mitosisを行う。そのため、核分裂が起こるanaphaseの核は母細胞と娘細胞の間で成長軸に沿って引き延ばされるが、それ以外の細胞周期では基本的に球形である。酵母をMGで処理すると、サイクリン依存性キナーゼCdc28のTyr19のリン酸化が起こる(G2/Mアレスト)とともに、核はbud neck(母細胞と娘細胞の間)近傍の母細胞側で、成長軸に対して横に押されたような扁平な形状(jellybeans型核形態と命名)に変化し、娘細胞が核を受け入れるのに十分なサイズになっているにもかかわらず、核は母細胞に留まり核分裂が停止する。本シンポジウムでは、MGによる核分配阻害に関与するマシナリーの探索と、そのメカニズムについて考察したので紹介したい。

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