日本毒性学会学術年会
第49回日本毒性学会学術年会
セッションID: S7-1
会議情報

シンポジウム7
ICH S1ガイドラインの改定とrasH2-Tgマウス
*小川 久美子西村 次平西川 秋佳
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

2012年2月のトピック化によって開始されたICH S1改定の議論が、2013年8月−2017年12月のがん原性評価文書(CAD)募集及び2020年12月までのがん原性試験結果募集に基づく前向き評価を経て2021年5月にICH S1B(R1)の補遺案が作成され、パブリックコメントを受けた最終化に向かっている。

前向き評価では、開発中の低分子医薬品を対象に「証拠の重み付け (Weight of Evidence;WoE)」に基づいた2年間ラットがん原性試験の結果予測に関するCADが募集され、各CADに対する5つの規制当局の見解及び実際のがん原性試験結果と比較された。収集された45件のCADについて、提出企業及び全ての規制当局が「WoEから、ヒトにおける発がん性がない可能性が高いと結論できるため、2年間ラットがん原性試験の実施意義はない」と結論し、2年間試験の結果も矛盾のなかった品目、提出企業及び全ての規制当局が実施意義はないと結論したものの2年間試験の結果に矛盾のみられた品目、並びに意見の一致が見られなかった品目に分けて精査し、2年間ラットがん原性試験結果の予測に重要なWoEを抽出した。本補遺は、当該薬物、類薬のデータ及び文献情報などのWoEから統合的にがん原性の懸念がないと評価できる場合は、2年間ラットがん原性試験が実施免除となる可能性を提案するものである。ただし、今回の前向き評価はラットの検討結果に基づいていることから、WoE 評価によって2年間ラットがん原性試験は免除可能と判断されても、マウスのがん原性試験は従来のICH S1Bで規定される2年間試験またはトランスジェニックモデルを用いた短期試験の何れかが推奨されている。

今回の改定(案)によって、マウストランスジェニックモデル、中でも、背景情報が蓄積されつつあるrasH2-Tgマウスを用いた短期試験の実施が検討される可能性がある。本シンポジウムでは、rasH2-Tgマウスを用いた試験の特性について情報共有し、適切な応用に繋がることが期待される。

著者関連情報
© 2022 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top