主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
S1Bガイドラインの改定案が2021年に提出され,rasH2-Tgマウスを用いたがん原性試験の実施が具現化してきた.しかし,現状はrasH2-Tgマウスに関する認識が乏しく,背景データや実施経験の不足を理由に実施を躊躇することが少なくない.そこで今回,rasH2-Tgマウスへの理解を深めるため,病理学的背景と特徴的病変について紹介する.rasH2-Tgマウスを用いた26週間がん原性試験は,1群雌雄各25匹で,3用量群に加え,陰性対照群(NC)と試験系の有効性確認のためMNUやウレタンなどの既知の発がん物質を投与する陽性対照群(PC)を置くことが標準である.弊社背景データ(雌雄各50例)では,26週時点の生存率はNCで98% / 94%(雄 / 雌),PC(MNU)で6% / 22%であった.体重の推移についてはNCとPC間に顕著な差はなかった.
剖検では,NCの少数例で皮膚の乳頭状腫瘤,脾臓及び肺の腫瘤が観察された.PCではほぼ全例で前胃の腫瘤,半数以上で皮膚の乳頭状腫瘤及び胸水の貯留,胸腺,リンパ節及び脾臓の腫大が観察された.また脾臓及び肺の腫瘤も少数例で観察された.
病理組織学的には,NCで脾臓の血管腫及び血管肉腫,肺の腺腫及び腺癌,皮膚の扁平上皮乳頭腫,角化棘細胞腫及び扁平上皮癌が少数例で観察され,これらがrasH2-Tgマウスの自然発生腫瘍の特徴と考えられた.PCではほぼ全例で前胃の腫瘍(扁平上皮乳頭腫又は扁平上皮癌)がみられ,次いで,リンパ造血器系の悪性リンパ腫が高頻度に観察された.また,半数程度で皮膚の腫瘍(扁平上皮乳頭腫,角化棘細胞腫又は扁平上皮癌)が,さらに少数例で膣の扁平上皮乳頭腫及び子宮の腺腫が観察された.一方.脾臓の血管腫及び血管肉腫,肺の腺腫及び腺癌の発生数はNCとPCの間にほとんど差はなかった.講演ではこれら背景データについて詳細に報告する.