主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
環境中には様々な化学物質が含まれ、体内で生体分子と相互作用することで様々な疾患の原因となることが推定されている。我々はその一端を明らかにすべく、化学物質が蛋白質と共有結合した蛋白質アダクトに焦点を絞り、その同定を目指した解析技術の開発を進めている。
アルキン(炭素-炭素三重結合)はコンパクトかつ生体内で安定である一方で、ラマン分光法で生体分子がシグナルを持たないサイレント領域に強いシグナルを示す。我々はこの特性を利用し、低分子化合物にタグとしてアルキンを導入し、ラマンイメージングによりその細胞内局在を明らかにするAlkyne-tag Raman Imaging(ATRI)法の開発に成功している。さらにATRI法を蛋白質アダクトの解析に応用することを考案し、アルキン標識化合物が共有結合したペプチド断片を検出する手法を検討した。その結果、銀ナノ粒子上での表面増強ラマン(Surface Enhanced Raman Scattering: SERS)を利用することで、100 fmol程度の感度でアルキン修飾ペプチドを検出し、Alkyne-tag Raman Screening(ATRaS)法の開発に成功した。さらに、最近我々は銀とアルキンの間の相互作用を利用することでアルキン修飾分子を捕捉・濃縮する技術Alkyne-tag enrichment on Silver-immobilized Solid support(ASiS)法の開発も進めている。さらにASiS法をATRaS法と組み合わせることで、蛋白質アダクトを検出し、効率的に質量分析装置による解析につなげることも計画した。本発表では、アルキンタグを用いたこれら3つの解析手法を紹介し、ASiS-ATRaS法を蛋白質アシル化部位の同定に応用した結果に関して報告する。
参考文献
1) H. Yamakoshi, K. Dodo, M. Okada, J. Ando, A. Palonpon, K. Fujita, S. Kawata, M. Sodeoka, J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 6102.
2) H. Yamakoshi, K. Dodo, A. F. Palonpon, J. Ando, K. Fujita, S. Kawata, M. Sodeoka, J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 20681.
3) J. Ando, M. Asanuma, K. Dodo, H. Yamakoshi, S. Kawata, K. Fujita, M. Sodeoka, J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 13901.
4) K. Koike, K. Bando, J. Ando, H. Yamakoshi, N. Terayama, K. Dodo, N. I. Smith, M. Sodeoka and K. Fujita, ACS Nano, 2020, 14, 15032.