日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: P1-045E
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優秀研究発表賞 応募演題 口演 2
錯体形成を起点とした研究展開-未知の細胞機能解析と環境汚染の浄化に資する基剤開発への新規応用-
*中村 武浩緒方 文彦川﨑 直人
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抄録

 錯体分子は優れた合成・触媒試薬として知られ,その有用性を活用した化学研究の発展が目覚しい。一方で,異なる研究領域における有効活用は十分に見出されていない。錯体には有機物同士あるいは金属同士では起こり得なかった結合が生まれるだけでなく,錯体分子が特異な活性を発揮し,次の現象を導く鍵反応となる。即ち,アウトリーチの方向性を最適化すれば,既存のフィールドにおいても有益な活用手法に転換できると考えた。そこで,「有機物と金属が錯体を形成することで起こる変化」に着目し,様々な異分野領域における研究での応用を実施した。

 一つは血管内皮細胞を標的として,微量元素である亜鉛の活性を引き上げる錯体を創出し,分子機構を解析した。亜鉛は内皮細胞に対して増殖促進能があるが,特定の配位子構造で錯体形成した亜鉛錯体が無機亜鉛より強力な増殖促進能を有することを見出した。また,そのメカニズムが既存の増殖シグナルの下流を介在する新たな経路であることを明らかとした。本結果は,錯体分子が生体内機能分子として代替可能であることを示す有用な知見である。 

 二つ目は水質汚濁の改善に寄与する基剤への応用である。吸着法による水処理は扱い易い処理法であるが,活性炭などの高効率な基剤はコストが高く継続的に採用し難い。そこで,低コストな基剤として茶粕廃棄物に着目した。茶粕には有機物が多く残されており,排水中の有害金属と錯体形成することで,吸着除去が達成できると考えた。吸着パラメータおよびモデル,寄与因子を解析し,茶粕がカドミウム,鉛,水銀の吸着除去に有用であることを明らかとし,さらには染料除去にも活用できることを示した。茶は世界中で広く消費されるため,茶粕がボーダーレスに利活用可能なバイオマスとして,高い実用性を有することを明らかとした。 

 本発表では上記2例の解析結果を報告すると共に,錯体を活用した研究の有効性について展望を示す。

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