主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
質量分析イメージングはその質量を基に生体内の分子分布を可視化する方法の一つであり、既知の分子だけでなく未知の分子も検出できることから、毒性病理学分野においても新たな研究ツールとして期待されている。質量分析イメージングに用いられるイオン化法にはマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)や脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI)が知られており、測定の目的や対象とする分子により使い分けられている。DESIは、マトリックス塗布などの複雑な前処理が不要であることや、イオン化機構が質量分析装置で一般的に用いられるエレクトロスプレーイオン化法(ESI)と類似していることから、ESIでイオン化可能な低分子化合物は本法により比較的容易に質量分析イメージングが得られること、さらに、レーザーを使用しないため非破壊的であり、イメージング後の試料そのものを染色して病理組織学的解析と比較できるといった利点があることから、我々はDESIによる質量分析イメージングの安全性研究への応用に取り組んでいる。これまでに、ラット腎臓の髄質外帯外層に発がん性を示すアカネ色素をモデルに、混合物であるアカネ色素投与後のラット腎臓における構成成分及び代謝物の分布解析による発がん原因成分の検索と、その発がん原因成分が引きおこす腎臓の病理組織学的変化、DNA損傷及び遺伝子変異と分布との関連について検討した。本講演ではこれらの研究結果を紹介し、化学物質の安全性評価における質量分析イメージングの有用性と今後の展望について考察する。