日本毒性学会学術年会
第51回日本毒性学会学術年会
セッションID: S18-4
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シンポジウム18: 腸管毒性を考える
疫学データに基づいた臨床消化管毒性
*伊熊 睦博
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抄録

消化管は広大な臓器であり、その機能も消化吸収に留まらず幅広いものであり、神経系や免疫系との繋がりも深い。生ずる病変は様々であり、薬剤の有害事象/副作用も同様に多彩である。薬剤性障害の成因も、消化管粘膜への直接的な障害、神経系や免疫系などの他の臓器系統を介する作用、管腔内に共生する腸内細菌への作用など様々であり、これも病態生理の多彩さに繋がる。

アスピリンの胃粘膜障害は古くから知られいるが、既に1950年代半ばには小さな疫学的な研究も出現している。疫学研究の進展は、非ステロイド性抗炎症薬による消化管粘膜障害、抗凝固療法に伴う消化管出血、ビスフォスフォネートの食道粘膜障害、抗生物質起因性腸炎・偽膜性腸炎などで診療現場や安全対策に大きな貢献をもたらしてきた。最近の疫学的知見の例としては、免疫チェックポイント阻害薬による消化管障害に関するデータの急速な蓄積が挙げられる。

疫学研究は医薬品の有害事象を評価するための有用なツールであるが、その運用(試験デザイン・実施)および結果の解釈には慎重な注意が必要である。例えば、有害事象の用語選択はデータマイニングの結果に影響を与える。不均衡の検出のみでは、薬剤と有害事象の因果関係の推論には至らない。また、不均衡データを薬剤間で比較する際には大きな注意が必要である。そのような比較は、薬剤のライフサイクルの段階、報告の偏り、全体的な安全性プロファイルの違いなどのバイアスが関わり、一般には、信頼できる結論には繋がらない。不均衡分析から得られた結果の解釈は、関連する情報源から得られた他の安全性データとの関連も踏まえて、慎重に取り扱われるべきであり、安全性対策は有効性とのバランス(risk & benefit balance)において語られるべきものである。

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