主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
胎児期の分化発生機構は厳密に制御されているため、母親の栄養状態や化学物質暴露といった体内外の環境ストレスの影響を胎児は受けやすい。実験動物を用いた実験からは、母獣が農業殺菌剤(ビンクロゾリンなど)に暴露されると、数世代にわたって、子孫の表現型に影響することが知られている。一方で、最近の研究からは、父親の受けた環境ストレスもまた、次世代の表現型に影響することが示されている。例えば、遺伝的背景が一致した同一系統の雄マウスを通常餌または低タンパク質餌で飼育した後に交配させると、低タンパク質餌の子供マウスでは、肝臓におけるコレステロール代謝系遺伝子の発現が上昇する。こうした現象は、DNA配列変化を伴わない遺伝様式が存在することを示しており、精子に含まれる何らかのエピゲノム要素が環境ストレスによって変化し、それが子孫へと継承されたという可能性が考えられる。
環境ストレスによって誘導される精子エピゲノム変化を詳細に捉えるため、独自に我々は成熟精子の高純度分画法、そして精子ヒストンのマッピング手法を確立した。実際にこの手法を用いて、マウスの低タンパク食や宇宙環境での飼育によって誘導される精子エピゲノム変化を検出し、次世代個体の表現型変化を誘導する分子メカニズムの一端を明らかにしている。本講演では、父親ストレスの遺伝の分子メカニズムについて、我々が最近見出した、ストレス応答性の転写因子ATF7を中心に解説する。