東海公衆衛生雑誌
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自治体保健師が災害フェーズ0・1期に経験した保健活動の困難と課題 -DRC類型を用いた分析より-
若杉 早苗川村 佐和子
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2021 年 9 巻 1 号 p. 114-123

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抄録

目的 東日本大震災(多重災害)を受け,平時の行政機能が崩壊した被災直後の混乱期(災害フェーズ0・1期)において直面した, 保健師が平時の経験では対応しきれず困難と課題となった保健活動(以下, 困難と課題)を明らかにし, 災害時の保健活動に関する示唆を得ることを目的とする。

方法 本研究は,地震,津波,福島第一原子力発電所の事故(以下,原発事故)の多重災害を受けた地域を調査対象とし, 行政機能が崩壊した被災直後の混乱期(発災後3日間以内)に,保健師が保健活動を行なう際に直面した, 困難な状況と課題について半構造化面接法による調査を行った。調査期間は, 2016年2月~2018年12月。全文の逐語録を意味ある文節ごと切片化し,コミュニティーの組織的機能DRC(Disaster Research Center Typology)類型1) 2)(以下, DRC類型)のタイプ別に分類した。平時にはやっていない新たに発生した業務:Emergent(Type4)に着目し,“困難と課題”を質的帰納的統合法により分析した。

結果 多重災害を受けた6地域のうち3地域から調査協力を得た。研究参加者は女性保健師11名。経験年数は26.4年(10年~30年)。抽出された1018文節のうち,DRC類型Type4:Emergentは424文節(41.7%)。課題解決過程の“困難と課題“が155文節で36.6%,“保健活動”が269文節で63.4%であった。保健活動を行なうにあたり保健師が直面した“困難と課題”の内訳は, 「計画外避難所の対応」が287文節中75文節で26.1%, 「原発事故」が89文節中54文節で60.6%,「津波被害の対応」が48文節中26文節で54.2%であった。保健師が直面した困難と課題には, 津波被害の影響による低体温症や泥水の汚染対応,原発事故の発生による国の強制力のある避難指示に対する被災住民の不安と恐怖の広がりに対するストレス対応, 計画外避難所での崩壊した医療の再構築の難しさに直面するなど, 平時の業務では対応経験のなかった困難が確認された。保健活動の困難と課題は, 時間の経過とともに質や量が重層化し継続していたこと, 行政の指示命令が極めて少ない中で平時の経験や範囲を超えた先見性を求められ困難を感じていたことであった。

結論 今後起こり得る大規模災害に備え危険回避能力を高めていく為にも,フィジカル・アセスメント等の看護技術(臨床判断)を含め,経験年数が少ない保健師でも何を優先して活動すべきか見定め, 先見性を持ち行動していけるような卒後教育や初学者教育の充実が必要である。

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