抄録
本稿の課題は,J. デューイの『倫理学』における道徳理論の基礎を明らかにすることにある.先行研究では,社会成員としての個人の行為に立脚し,諸個人の置かれているその場その場の具体的問題に対する行為の結果責任が指摘されている.本稿では,その議論を一歩すすめて,デューイのいう個々の具体的状況とは何を指しているのか,結果責任とはいかなるものであるのか,といった問いをたてて検討をおこなった.そこで,デューイによる過去の道徳理論に対する批判,諸個人の行為を取りまく社会的ネットワークへの注目を考察することによって,個人が直面する具体的状況とは,社会全体と関連する「社会的諸条件」だということを明らかにした.デューイの道徳理論は,個人の行為と「社会的諸条件」との相互規定・循環関係を重視する点が特徴的なのである.