本論文は,G.H. ミードにおける「思考(thinking)」の議論を取り上げ,「思考」概念の内実を検討する.これまでのミード研究において,「思考」とは相互行為過程における他者の身ぶりや態度を内面化した結果としてあらわれる,内的会話であるとされていた.しかし,本論文での検討の結果,「思考」とは内的会話であると同時に,内的会話を通じて考えられた事柄を表明する局面をも,ミードは視野に入れているということが明らかとなった.
ミードによれば,内的会話で考えた事柄の表明は,個々人の「思想(thought)」の表明に他ならない.そしてこの「思想」は,言語や身ぶりという形態に限られない.例えば芸術家の作り上げた作品も,その芸術家の持つ「思想」の表明なのである.つまり,作品とはまさに作り手による「思想」の表現であり,ミードによれば,こうした「思想」の表現としての作品は誰しもが作ることができるのであった.その意味で,人間社会とは,「思想」の表明としての作品を通じて互いの「思想」を交換し合う世界なのである.
抄録全体を表示