2015 年 10 巻 p. 103-115
本稿では,中国東北地方の瀋陽市に本社を持つ東軟集団を事例として,同社が,大学発ベンチャー企業が抱えがちな諸課題を克服し,ソフトウェア受託開発・IT ソリューションの分野では中国有数の企業にまで成長した背景について検討した.同社の特徴として,大学発企業でありながら,技術力以外の側面,すなわち顧客サービスや営業・販売戦略を重視する経営理念を採っているという点や,起業当初から取引先である外資系企業等からも多くの出資を受け,資金を確保することができた点が挙げられる.加えて大学が持つ教育機関としての側面を活かし,従業員への教育・トレーニング制度が充実している点をアピールすることで,中国東北地方の大学を卒業した新卒IT 人材を比較的安い賃金で採用することにも成功している.同社の事例からは,経済発展の速度が比較的遅れているとされてきた東北地方の都市において,大学発ベンチャー企業を創出・育成していくためには,技術開発に特化した企業を目指すだけでなく,大学発企業が有する教育機関としての強みをより活かす方向での発展戦略を採ることも有効である点が示唆された.