2020 年 4 巻 2 号 p. 15-25
本稿は、小川博久の保育方法論において、保育者の子どもに向けるまなざしが持つ意味を明らかにする。小川は、保育者が子どもを見るまなざしには、二つのモードがあるという。一つは「かかわりの目」であり、保育者が子どもを援助するモードを指す。もう一つは、「観察の目」であり、保育者が子どもを援助することから離れ、遊びや子どもの集団の関係性を見極める非-援助的モードである。小川は、これら二つのモードを自在に切り替えられるようになることを保育者に求めている。こうした切り替えが容易に行える場所が、保育室内における製作コーナーである。製作コーナーでモノを扱う保育者の行為に触れ、子どもは遊びを触発される。さらに小川は保育室の中央に広場を設定するが、これは製作コーナーにいる保育者が「観察の目」で子どもを見ることを可能にすると同時に、コーナー間が見通されることで子ども間の遊びの観察学習を生じさせるための工夫である。