敬心・研究ジャーナル
Online ISSN : 2434-1223
Print ISSN : 2432-6240
4 巻, 2 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
  • ―既存の枠組みからいかにして脱出するか―
    薗田 碩哉
    2020 年 4 巻 2 号 p. 1-13
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    ジャーナル フリー

     2020に世界中で荒れ狂ったコロナウィルスは、すべての国の社会生活と個人生活に深刻な影響を与えた。国と国の関係が断たれ、経済は縮小し、人々は自宅に閉じ込められ、生活の楽しみを失い、旅に出ることもできなくなった。

     それによって私たちは、これまで何の疑問も抱かなかった多くの事柄を見直す必要に迫られた。夫婦関係や親子関係はこれでよかったのか、近隣の生活環境は充実しているか。学校教育は今のままでよいのか。コロナ禍で仕事を失った人たちをどうやって救済するのか。高齢者への福祉サービスを豊かにするためには何が必要か。森林を伐採し、排気ガスをまき散らし、温暖化を放置しておいていいのか。

     これまで「働き過ぎ」中毒だった多くの日本の勤労者は、仕事と家庭とレジャーのバランスを取った新しいライフスタイルを求め始めている。ホームワークを充実させ、個人の時間を楽しむための読書やアートや音楽への関心を高め、オンラインを活用した新しい人間的コミュニケーションを開拓しようとしている。

     警戒しなければならないのは、コロナに対処するために中央政府の権力を強化しようという動きが世界中で広がっていることである。必要な社会統制は、市民の自主的な協力を土台に作りあげなくてはならない。政府を強くするのではなく、市民の連帯を強化することがコロナ後の世界が追及すべき目標である。

  • ―保育者のまなざしの二つのモード―
    安部 高太朗, 吉田 直哉
    2020 年 4 巻 2 号 p. 15-25
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    ジャーナル フリー

    本稿は、小川博久の保育方法論において、保育者の子どもに向けるまなざしが持つ意味を明らかにする。小川は、保育者が子どもを見るまなざしには、二つのモードがあるという。一つは「かかわりの目」であり、保育者が子どもを援助するモードを指す。もう一つは、「観察の目」であり、保育者が子どもを援助することから離れ、遊びや子どもの集団の関係性を見極める非-援助的モードである。小川は、これら二つのモードを自在に切り替えられるようになることを保育者に求めている。こうした切り替えが容易に行える場所が、保育室内における製作コーナーである。製作コーナーでモノを扱う保育者の行為に触れ、子どもは遊びを触発される。さらに小川は保育室の中央に広場を設定するが、これは製作コーナーにいる保育者が「観察の目」で子どもを見ることを可能にすると同時に、コーナー間が見通されることで子ども間の遊びの観察学習を生じさせるための工夫である。

  • ―コンピテンスと資格枠組みに着目して―
    杵渕 洋美
    2020 年 4 巻 2 号 p. 27-38
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    ジャーナル フリー

    本稿は、ドイツの職業教育におけるコンピテンスおよびEU諸国との制度共通化に向けた国内制度の整備と職業教育の高度化の動向を捉えたものである。EU全体の動きとして、資格・学位を共通の視点で理解するための仕組みである欧州資格枠組み(EQF)が策定され、ドイツは資格枠組みDQRを運用しているが、高等教育に重点が置かれる高度化の動きは労働市場との不適合を起こしている。またDQRはコンピテンスを軸に構成されており、そのレベルが能力指標となっているが、EU共通の学位制度の導入により、単位を取得することで学位が得られ、それがDQRのレベルを表し、相応の能力認定が容易になった。この動きは、「能力」が「資格」と同じように「所有」するものとして扱われること、すなわち能力の等価交換性を生むものである。さらにその「能力」は個人の責任において獲得すべきという技能形成の「自己責任」「個人主導」への方向転換である。

  • 髙山 晃作, 阿嘉 優, 田村 めぐみ, 久保 明人, 澤田 乃基, ブリュノ モンシャートル, 澤田 真奈美
    2020 年 4 巻 2 号 p. 39-49
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    ジャーナル フリー

    本報告は、学校法人敬心学園が平成30年・令和元年度の2年間文部科学省委託事業として介護福祉士養成校を対象に実施したPDCAサイクル研修に参加し、教職員の改善意識が大きく変わった成果を報告するものである。研修は、講師の出前研修という形式で行われ、1年目はPDCAサイクルの概要の説明の後、KJ法により重点課題を抽出すると共に実行計画を立てるというものである。2年目は計画の実行状況を報告するというもので、合計5回の研修が行われた。ここでは、研修の結果、改善意識は大きく変わり、自分たちで自主的に取り組まなければ成功はないことを意識するようになり、また、実際に取り組んでみると現場が変わる体験をしたことを報告する。

  • ―ソーシャルワーカーの費用対効果を算出する試みを通して―
    橋本 夏実, 川廷 宗之
    2020 年 4 巻 2 号 p. 51-58
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    ジャーナル フリー

    生活保護法における最低限度の生活保障と自立を助長する(=well-being・QOLの向上)というソーシャルワークの位置づけについて、今日まで様々な論考がなされている。

    今回の実践報告では、福祉事務所における(ぐるぐる病院)退院促進事業を実施するために、地方自治体の非常勤公務員であった筆者を4年間(平成25年から平成29年度)一人配置したことにより、どのくらいの費用対効果をもたらすことができたのか、筆者自身が携わった事業を通して、年度毎の生活保護費の決算から算出したものを報告する。

    そして、社会福祉士の平均年収から、仮に月1回、定期訪問を行った場合、どの程度の人数を受け持つことが可能なのか試算し、常勤のソーシャルワーカーの配置が可能かどうかの検討を行った。

    最後の考察において、支援計画の策定や支援のプロセスの煩雑さ、目標達成した場合の評価方法も含め、専門職のポテンシャルを維持することができる報酬の上乗せと常勤での雇用の必要性を述べた。

  • ―一般向け解説書における解釈の雑多性―
    吉田 直哉
    2020 年 4 巻 2 号 p. 59-67
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    ジャーナル フリー

    本稿は、一般向けの解説書において「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」(通称「10の姿」)がどのように語られているか、その言説の態様を明らかにすることを目的とする。まず、公式解説および改訂の当事者であった無藤隆の「10の姿」への解説を検討した上で、無藤以外の論者による「10の姿」に対する論及を検討し、公式解説やその執筆主導者であった無藤の根本意想が、他の論者によっていかに多様に変質させられ「解釈」されつつあるかを示し、両者の間にある懸隔を確かめる。

  • ―吉田松陰の女子教育観―
    中島 広明
    2020 年 4 巻 2 号 p. 75-81
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    ジャーナル フリー

     障害者総合支援法上のサービス提供責任者をしていて、女性と教育の問題について関心を持った。すなわち、女性であるというだけの理由で学業達成が困難であった女性や、学業達成ができなかったために経済苦になりながらも育児をしているシングルマザー等の社会問題に関心を持った。

     本研究では、女性と教育等の社会問題を論じるための基礎として、日本における女性の自立の源泉を探究する。特に、吉田松陰の女子教育を中心に論じることで、儒教的な「良妻賢母」思想は古きを温め、新しきを知るという意味において女性と教育の問題は普遍的な問題なのではないかと考えた。また、現代日本においても「賢母」思想は吉田松陰の時代と通底しているのではないかとの試論を試みた。

  • ―既存の幼児表現指導への批判と領域「表現」への期待―
    吉田 直哉
    2020 年 4 巻 2 号 p. 83-89
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    ジャーナル フリー

    本稿は、幼児音楽教育学者・小林美実による、子どもの「表現」、特に領域「表現」指導に関する所論に焦点を当て、その今日的な意義を明らかにしようとするものである。小林は、幼児教育の場における音楽を含む表現の指導が、子どもの感性の特性、表現能力の発達の過程を無視し、大人中心の極端な活動主義に陥っている現状を批判しながら、1989年幼稚園教育要領において登場した新領域「表現」の新規性を訴えてきた。本稿は、小林の新領域「表現」に込めた思想を明らかにするため、彼女による幼児教育における技能主義的傾向への批判をまず検討し、その上で、大人の側からの評価のまなざしを一時停止させた上で子どもの側からの「自己表現」に座標軸を置く新領域「表現」の意義づけを見る。特にそこにおいて、自己表現の震源であり同時に媒体でもある「身体」への着目がなされていることを確認する。

  • 大谷 修
    2020 年 4 巻 2 号 p. 97-101
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    ジャーナル フリー

    授業の一環として日本福祉教育専門学校における留学生クラス36名の体格指数(BMI)を算出した。20代女子留学生のやせの割合は20.0%で、わが国のそれとほぼ同じであった。痩せた若い女性は月経不順や無月経になりやすく、生活習慣病に罹りやすい。さらに、低出生体重児を出産する頻度が高くなる。低出生体重児は成人病に罹りやすい(DOHaD仮説)。このように若い女性のやせは次世代の健康にも影響する。適切な量のエネルギー摂取を指導する必要がある。肥満1度の女子留学生は16.0%、男子は33.3%であった。これらの学生に対しては過剰なエネルギー摂取を避けることで、生活習慣病の発症を抑えるよう指導すべきである。極度に痩せた男子1名と極度の肥満(4度)1名は、何らかの疾患の可能性があるので、精査が必要である。「健康日本21(二次)」が推奨しているように、すべての学生が毎日、主食、主菜、副菜からなる3食を適量摂取し、10000歩の歩行などの有酸素運動行い、健康増進に努めることが期待される。

  • 松永 繁
    2020 年 4 巻 2 号 p. 103-107
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    ジャーナル フリー

     社会福祉士及び介護福祉士の国家試験(以下、国家試験)の学習の基本は、自己学習であり、自己学習の成果が国家試験の合否を決めるといってもよい。この自己学習で重要となるのが学習方略の修得である。

     本稿では、自己調整学習理論の枠組みに拠りながら、筆者のこれまでの国家試験に向けた教育実践を踏まえ、社会福祉士及び介護福祉士の国家試験の学習支援について検討していく。

     学習者のニーズは、自分の「知らない」「わかっていない」ことの把握以降の学習方略の獲得である。つまり、具体的にどの教材を、どのように使用していけばよいかという条件的知識の獲得・発達に向けた支援が求められる。

     結論として、自己調整学習が行えるように具体的なスキル獲得を目的とした学習支援が必要である。

  • 高橋 明美
    2020 年 4 巻 2 号 p. 109-118
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/01/29
    ジャーナル フリー

    本研究は、韓国における社会福祉士の養成とその実践現場を明らかにすることを目的とする。韓国では2018年の社会福祉事業法改正により社会福祉士養成科目と実習時間の増加が行われるとともに、それまで各職能団体の認定資格であった医療社会福祉士、学校社会福祉士、精神健康社会福祉士が国家資格化されることが決まっている。また、韓国の社会福祉士は110万人以上養成され、約1割が社会福祉施設を中心とした現場実践を行っている。韓国の社会福祉士の特徴としては日本と比して数が多いこと、領域別の資格も社会福祉士が基盤であること、補修教育と呼ばれる現任教育が必修であることが挙げられ、これはそのまま日本への示唆と言える。また一方で、2級資格保持者が多いために質の確保を図ること、総合的な対応力を図ることが課題と考えられる。

feedback
Top