湿地研究
Online ISSN : 2434-1762
Print ISSN : 2185-4238
河川流域管理に湿地のワイズユースを統合することの可能性と必要性-渡良瀬遊水地を例に-
保屋野 初子
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2017 年 7 巻 p. 17-23

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抄録
ラムサール条約湿地に登録された渡良瀬遊水地の湿地保全・再生についての議論とモニタリング調査が,さまざまな関係者の積極的な参加のもとで行われている.これは,湿地の統合的管理に向けた挑戦である.一方,渡良瀬遊水地は渡良瀬川の一部であり,かつてこの渡良瀬川流域は足尾鉱毒事件の深刻な被害に苦しみ,また土砂災害および水害を繰り返し被ってもきた.ラムサール条約は,生態系機能に基礎づけられた手法を用いることにより,湿地の保全およびワイズユースを河川流域管理に統合するよう求めている.渡良瀬遊水地湿地保全・再生基本計画では,遊水地内の貯水池の浚渫のみが焦点となっているが,渡良瀬遊水地の湿地と渡良瀬川を再接続するという選択肢についても検討すべきである.水の流れも含めて生態系のもつ多機能性を活かすような順応的管理をすれば,洪水調節と湿地保全・再生とのバランスを取ることができる可能性がある.渡良瀬川の流域管理の一環として渡良瀬遊水地管理を位置づけることで,統合的流域管理(IRBM)導入の可能性が生まれ,またそのための有利な条件も有しているのである.その理由としては,①流域のさまざまな関係者が積極的に参加する協議体がすでにいくつも存在していること,②渡良瀬川流域に住む人々は共通の歴史的・地理的背景を共有しており,その人々が流域管理を必要としていること,③広範な流域にさまざまな市民活動が展開されていること,などが挙げられる.述べてきたような統合が可能となれば,湿地のワイズユースのよきモデルとなると同時に,我々自身にとっても,開発途上国に対しても,貴重な歴史的教材となりうるだろう.
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© 2017 日本湿地学会
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