CAMPUS HEALTH
Online ISSN : 2432-9479
Print ISSN : 1341-4313
ISSN-L : 1341-4313
58 巻, 2 号
選択された号の論文の37件中1~37を表示しています
特集:新型コロナウイルス感染症とキャンパスヘルス
原著論文
  • 菊地 創, 富田 拓郎
    2021 年 58 巻 2 号 p. 105-110
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    わが国の大学におけるキャリア支援は,社会的・職業的自立に関する指導等に取り組むための体制整備を求めた2011年4月施行の大学設置基準の改正を受け,学生支援において中心的な位置づけとされる。そして大学生のキャリア探索(career exploration)を促進する要因を明らかにすることはキャリア教育,キャリア形成支援を考える上で重要な研究課題の1つである。本研究では,キャリア探索を促進する要因として行動活性化に焦点をあて,構造方程式モデリングによるパス解析を用いて行動活性化が直接,あるいは自己効力感を媒介してキャリア探索に与える影響に関するモデルの検討を行うことを目的とした。大学1~3年生208名(男性87名,女性121名)が質問紙調査に参加した。パス解析の結果,活性化が直接的に,また,自己効力感を媒介してキャリア探索に影響を与えるとともに,回避が自己効力感を媒介してキャリア探索に影響することが示された。本研究の知見は,大学生を対象としたキャリア教育やキャリア形成支援に行動活性化の視点を導入できる可能性を示している。
  • ― 精神医学モデルからみた学生対応 ―
    高橋 徹, 榛葉 清香, 山﨑 勇, 山岡 俊英, 野村 華子, 大場 美奈, 下平 憲子, 金井 美保子, 森光 晃子, 今野 雅隆, 長 ...
    2021 年 58 巻 2 号 p. 111-117
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    信州大学総合健康安全センターにおける学生のメンタルヘルス対応を,常勤精神科医の視点から報告した。2019年度の診察学生を対象に,来所経路,転帰,学年,在籍学部,性別,精神科診断を調査した。転帰は,短期終結(43%)と医療機関紹介(29%)が多く,在籍学生構成との比較では,学部は人文学部が,性別は女子割合の高さが目立った。精神科診断は,修学や対人関係などをストレス因とした適応障害(神経症性障害:F4)がもっとも多かった。時間経過とともに病状は消退もしくは軽減するケースが多かったが,精神科薬物治療を必要とする事例があり,また一部で精神科入院を必要とした。精神科診療と学生相談には共通点と相違点があるが,精神科治療の適否やリスク管理においては医学モデルの視点が必要と考えられた。大学保健において精神科医が貢献できる余地は大きいものと考える。
  • 高橋 徹, 金井 美保子, 下平 憲子, 大場 美奈, 野村 華子, 山岡 俊英, 山﨑 勇, 榛葉 清香, 森光 晃子, 今野 雅隆, 長 ...
    2021 年 58 巻 2 号 p. 118-124
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    信州大学総合健康安全センターにおいて,2019年度に来所した学生のうち,発達障害に関連した事例を調査対象とした。対象学生を短期介入で終結した「短期介入群」,来所時すでに精神科で発達障害と診断されていたか,あるいは早期に当センターから精神科に紹介したものを「精神科連携群」,発達障害を疑い当センターで心理検査を実施した「心理検査実施群」の3群にわけた。発達障害関連学生は21人(男15人女6人)で,短期介入群が5人,精神科連携群が10人,心理検査実施群が6人であった。精神科連携群では,危機対応事例や合理的配慮申請事例が含まれた。心理検査実施群では,全例で言語性知能指数が動作性知能指数に比して有意に高かった。心理検査実施群は,その多くが非障害性自閉スペクトラムと考えられ,個別の特性と環境に応じて,現実的な助言が重要と考えられた。
  • 大見 広規, 村中 弘美, 平野 治子, 宮﨑 八千代, 赤沼 美郷, 荻野 大助, メドウズ マーティン
    2021 年 58 巻 2 号 p. 125-132
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    2008年度以降,4期,3期,2006年度以降,2期麻疹・風疹定期予防接種制度(対象は高校3年相当年齢,中学1年次相当年齢,就学前)が導入された。2012年度以降,本学では原則,新入生全員の麻疹・風疹抗体価測定を開始した。したがって,新入生のほとんどがいずれかの2回接種の対象者である。
     入学時の抗体検査結果で,4期,3期,2期の順で抗体価の低下が確認された。抗体価が低い学生には追加の接種を勧めたが,3,4年次の確認検査で,4期対象学生は,3期対象学生に比べ,抗体価の上昇が得られる割合が有意に低かった。
     入学時の抗体価の低下の背景には接種から検査までの期間の長さ,すなわちsecondary vaccine failure(2次性ワクチン不全:接種により一度上昇した抗体価が減弱すること)があると推測された。しかし,一部にはワクチンによっても免疫の獲得が不十分なprimary vaccine failure(1次性ワクチン不全:接種しても抗体価の上昇を得られないこと)の傾向があると推測される学生も存在することが示された。
  • 川上 ちひろ, 堀田 亮
    2021 年 58 巻 2 号 p. 133-138
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    発達障害の特性がある看護学生への教育的支援は,看護教育においても行われている。そこで看護教員の「発達障害およびその特性がある学生を支援・教育する際に困難を感じることは何か」と「発達障害のイメージ」を調査した。看護教員はそのような学生を直接教育や支援する際に,どのように説明したらいいのか,学生をどう理解すればいいのかなど,多くの困難を感じていた。さらに職場で同僚教員との意見の違いや,保護者への対応でも困難を感じていた。発達障害のイメージは「できない」「難しい」「苦手」などネガティブな単語が多く回答され,それらは「コミュニケーション」「対人関係」と結びついていることが分かった。看護教育において発達障害の特性がある学生の教育や支援することはさまざまな困難が伴うため,発達障害の特性がある看護学生への理解促進や教育・支援方法の構築が望まれる。
  • 大島 紀人, 渡辺 慶一郎
    2021 年 58 巻 2 号 p. 139-146
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    【背景】日本では,社会生活に必要な健康の知識は学校教育の中で学ぶ一方で,生活習慣病やメンタルヘルスの問題など若年者の健康課題が指摘されている。本調査では,大学生の保健学習状況について調査し,大学での保健教育のあり方について考察した。
    【方法】大学生を対象に自記式アンケート調査を実施した。学習指導要領をもとに,高校までに習った保健体育の学習項目を尋ねた。健康に良い生活習慣(食事,運動,睡眠)が現在できているかどうか等についてVisual analog scale(VAS)を用いて尋ねた。
    【結果】学習項目により「習った」とする回答の割合にばらつきが大きかった。また回答者間の個人差も大きかった。健康的な生活習慣は「習った」とする回答が多かったが,規則的な睡眠など,実生活で「できていない」(VASスコア39.1)とする回答が多かった。
    【考察】調査結果より,大学生の保健学習状況には個人差があり,知識を習得してもそれを普段の生活の中で活かすことはできていなかった。大学で行う保健教育では,高校までの保健学習の学び直しと,学習で得た知識を生活に活かすような学びが必要であると考えられた。
  • ―学部1年から修士1年までの健診・問診データの縦断的解析―
    高山 佳子, 山本 裕之, 内藤 有美, 鈴木 唯, 太田 裕一, 古橋 裕子, 森 俊明, 松本 百合子, 加治 由記, 野上 愛里子, ...
    2021 年 58 巻 2 号 p. 147-154
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,男子学生における大学生活が生活習慣病リスク因子に及ぼす影響を統計的に明らかにすることを目的に,個々の学生の5年間にわたる健診・問診データの経時的な動向を分析した。2009~2014年度に静岡大学浜松キャンパスの2学部(工学部・情報学部)に入学し,大学院修士課程に進学した男子学生1779名の学部1年から修士1年までの健診・問診データを用い解析を行った結果, BMIは学年が上がるに伴い僅かな微増傾向を示した。体脂肪率は学年次別にみた変動においても,また個々の縦断データを用いたクラスター分析においても明らかな増加傾向を示した。また,生活習慣に関する8項目(「飲酒」,「喫煙」,「運動」,「夕食時刻」,「睡眠時間」,「朝食摂取」,「TV/PC時間」,「アルバイト」)の問診データについて学年次別変化を分析した結果,約半数の学生に夜型の生活習慣への移行が認められた。最後に,生活習慣(問診8項目)と体重増減量ならびに血液検査5項目(ALT,γ-GTP,HDL-C,LDL-C,尿酸)との関連について数量化Ⅰ類を用いて分析した結果,尿酸を除くすべての項目において5%有意の説明力を示し,男子学生の生活習慣が生活習慣病リスク因子に影響していることが示唆された。特に影響力の大きい生活習慣は「TV/PC時間」と「運動」であった。
  • 佐藤 弘恵, 田中 典子, 田中 智美, 神主 京子, 橘 輝, 七里 佳代, 黒田 毅, 鈴木 芳樹
    2021 年 58 巻 2 号 p. 155-161
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    B型肝炎ワクチンは本邦では2種類が使用可能であり,本学では製剤Aのワクチンを使用していた。2016年の熊本地震により製剤Aの供給がなくなったことから一時的に製剤Bに変更した。本研究は,B型肝炎ワクチンの種類による抗体陽転化率と接種後抗体価の違いを明らかにすることを目的とした。2014年度から2019年度に本学でB型肝炎ワクチン接種と血液抗体検査を実施された医学部・歯学部の学生について後ろ向きに検討した。2016年度1シリーズ3回のうちの2回目から2017年度3回目まで製剤Bのワクチンを使用し,それ以外は製剤Aのワクチンを使用していた。抗体陽転化率は製剤Bを使用した2016年度と2017年度は83 %,84 %で,すべて製剤Aを使用した年度の95%以上と比較して低かった(p<0.001)。接種後抗体価も,製剤Bを使用した2016年度,2017年度はすべて製剤Aを使用したいずれの年度より低かった(p<0.001)。B型肝炎ワクチンの種類により抗体陽転化率およびワクチン接種後の抗体価に差があることが明らかになった。2020年12月時点で製剤Bは製法変更により本研究で使用したワクチンより免疫原性が改善されている。より高い有効性を得るために製剤によっては皮下注射から筋肉内注射に変更することも考慮される。
  • ―精神的健康と自殺予防の観点から―
    山﨑 勇, 金井 美保子, 榛葉 清香, 下平 憲子, 野村 華子, 山岡 俊英, 大場 美奈, 高橋 徹, 高橋 知音, 森田 洋
    2021 年 58 巻 2 号 p. 162-168
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    1996年から日本における大学生の死因第1位は自殺であり,学生の精神的なケアは重要な課題である。信州大学では2007年から開始された学生支援GPを契機として,学生相談の支援体制を拡充させてきた。本研究では当大学における学生支援体制の変遷と,その効果を検討した。結果,本大学の学生支援体制の整備と拡充は2012年度までに基礎が整えられ,その後も改善が継続して行われている。特徴的なのはコーディネーターを配置することにより,ネットワーク状の支援体制が構築されている点である。工学部におけるUPI-RSの得点は,学生支援体制の拡充に伴い改善が認められた。支援体制の整備は,学生の精神的健康の改善に寄与している可能性が示唆された。一方,自殺者数は減少しているのものの,年14.1/10万人と全国平均と比べ介入の効果は明らかにできない。自殺の実態把握と予防対策の継続,自殺発生時のポストベンションに関する研究が今後の課題である。
  • 金井 美保子, 山﨑 勇, 榛葉 清香, 下平 憲子, 野村 華子, 山岡 俊英, 大場 美奈, 高橋 徹, 高橋 知音, 森田 洋
    2021 年 58 巻 2 号 p. 169-175
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    信州大学は長野県内の5キャンパス全てに常勤カウンセラーを配置しており,学生相談体制は比較的充実している。本研究では,信州大学の学生相談体制拡充の過程を明らかにし,充実した学生相談機関を持つ大学組織の変革要因を検討するために,信州大学総合健康安全センター年報,その他会議資料等をレビューし,学生相談体制の構築と充実の過程を調査した。その結果,学生支援GP(Good Practice)の後,部署横断的な学生支援体制を構築する必要性や学生の自殺数増加への危機感が高まり,全学的な支援体制構築に至っていたことが明らかになった。学生支援GPでは,専任のコーディネーターを活用し,「発達障害学生に対する支援」「ライフスキルを高めるワークショップ」「支援ニーズ把握質問紙の開発」などを行っており,その活動の多くが学生支援GP後も活用されていた。学生支援GPにおける部署横断的な取り組みを経験し,大学組織の変革があったことが,学生相談体制の拡充をもたらしたと考えられ,この組織の変革を「進化型組織(ティール組織)」の概念を用いて考察した。変革後,充実した学生相談体制が維持されているが,社会の変化に対応し今後も学生相談体制を維持・発展させる必要がある。
  • 鈴木 のり子, 潤間 励子, 吉田 智子, 生稲 直美, 田中 麻由, 北橋 美由紀, 鍋田 満代, 寺山 多栄子, 千勝 浩美, 丸山 博 ...
    2021 年 58 巻 2 号 p. 176-181
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,大学内での新型コロナウイルス感染拡大防止に有効な学生・教職員健康観察システムを構築し,大学における健康観察の意義と課題を考察することである。アンケートツールであるMicrosoft Forms®を活用し,個人は番号化することで匿名化,日々の健康観察ができるシステムを構築した。本学の学生・教職員のうち風邪症状を有する者,海外からの帰国者,感染者との濃厚接触者の健康観察を実施した。2020年3月11日から10月15日までに健康観察を実施した336名(学生199名,教職員137名)を対象に検討を行った。新規健康観察者数が多かったのは,3月下旬から4月上旬の2週間で79名(全健康観察者の23.5%),9月末からの3週間で49名(全健康観察者の14.6%)であった。学生の入構制限解除前後で,風邪症状を有する学生の健康観察者数が週平均3.8名から9.3名と増加した。健康観察者の症状発現日から報告日までの日数は平均3.5日(中央値2日)で,総合安全衛生管理機構に連絡を入れ健康観察が開始されていた。10月15日現在,新型コロナウイルスPCR検査陽性となった者は,検査した39名中1名で大学内でのクラスター発生は見られていない。感染症流行時における学生・教職員の健康観察システムを構築し健康観察を実施することにより,学生・教職員の健康状態を効率良くリアルタイムに把握することができた。また,学生・教職員の感染予防意識を高め,学内の関係部署との連携を通して感染拡大防止に繋がったと考えられる。
  • 石井 映美, 堀 正士
    2021 年 58 巻 2 号 p. 182-189
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    今日精神疾患は国の定める五大疾病の一つであり,健康上の重要な課題である。本学でも「精神医学概論」講義が開設され,2020年度春学期はオンライン形式で実施された。
    受講学生の「授業への感想」と「興味をもったテーマ」についてのレポートから,「科学的な視点」,「偏見」等に関わる記載を中心に抽出し,受講への関心・反応について調査した。
    約半数がレポートに受講動機を明記しており,興味・関心の他,自身や周囲の精神的不調を挙げていた。「科学的視点」,「偏見への認識」については肯定的記載も多く,受講の影響が推察された。COVID-19や自殺予防など,社会的問題についての記載もみられた。4割がメンタルヘルス教育の意義について記載し,義務教育でも取り上げるべきとの意見もあった。
    9割以上が受講の有益性について記載したが,これには「受講動機」と「自殺予防講義」の記載が有意に関わっており,受講に明確な動機があり自殺予防講義に必要・有効性を感じた学生が,この授業コースを評価していた。
    興味の対象として「自殺予防」を挙げた者が多く,主要な疾患がそれに続いた。
    授業前アンケートにより精神疾患には今尚スティグマが伴うことも明らかになったが,病態を科学的に説明することで偏見が払拭され,援助希求や受診行動がスムーズになると期待される。今回学生からも一定の評価が得られ,このような「精神医学概論」講義は有用と思われた。
  • ―健康診断質問調査からみる実態とその変化―
    足立 由美, 吉川 弘明, 藤原 智子, 藤原 浩
    2021 年 58 巻 2 号 p. 190-196
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大による大学生への影響を健康調査で把握し,パンデミックになる前の前年度と比較して分析することを目的とした。分析対象は健康調査に回答した2019年度8,407名(回答率82%),2020年度7,733名(回答率75%),合計16,140名である。2019年度はマークシートを配布・回収し,2020年度はWeb調査でデータを集めた。2020年度は全体としては2019年度より朝食の欠食が有意に多かった。1ヶ月間に体重が3kg以上減少するようなダイエット経験をしている人が2019年度より有意に多く,女性において月経に関するトラブルや悩みが増えていた。また,1年女性,3年女性,4年女性は前年度と比較して運動の増加が見られた。学生生活のストレスを感じている学生が増え,不安・うつ傾向は有意に高かった。2020年度は大学への相談や支援へのニーズは前年度より有意に少なかったが,大学との距離ができ,引きこもり状態になっている学生や,調査に回答できないほど健康状態が悪化し,学業から離脱している学生に対する介入を視野に入れる必要がある。
  • 小田 真二, 高松 里, 福盛 英明, 舩津 文香, 松下 智子, 吉良 安之
    2021 年 58 巻 2 号 p. 197-203
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    2020年,新型コロナウイルス感染症の感染拡大は全国の大学に様々な影響を及ぼし,九州大学の学生相談も深刻な影響をうけている。特に,これまで学生相談室の主務であった学生を対象としたカウンセリングへの影響は大きく,大学全体の活動が制限される中で,従前の形での対面相談は実施困難となり,様々なツールを活用した遠隔相談の導入と展開が求められた。本稿では,特にWeb会議システムを用いた遠隔相談についてその導入と展開を述べるとともに,実際の相談データに基づき遠隔相談の特徴や実務上の留意点を論じた。新型コロナウイルス感染症を取り巻く状況は依然として予断を許さず,対面相談と遠隔相談を適切に組み合わせたハイブリッドな形での新しい学生相談のあり方が必要と考えられた。
  • 小田 真二, 高松 里, 福盛 英明, 舩津 文香, 松下 智子, 吉良 安之
    2021 年 58 巻 2 号 p. 204-210
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    新型コロナウイルス感染症の影響は甚大であり,九州大学キャンパスライフ・健康支援センターでは急遽Web相談受付フォームを設置し相談対応する必要があった。そこでは,ワンストップ機能を担うコーディネート室が相談内容を精査し適切な相談窓口へ紹介する相談体制が敷かれ,学生相談室もその一翼を担った。本研究の目的は,2019・2020年度の学生相談データを比較し,併せて今回設置したWeb相談受付フォームの精査を行うことである。結果,2020年度は新規受付が減る一方でWeb相談受付フォームは新規事例で多くの窓口となり,特に自主来談の学生がアクセスしやすいと考えられた。また2020年度の学生相談の事例は内容的に対応が難しいケースが多い傾向が認められた。この難局を乗り越えるためには有機的な連携が必要であり,学生の多様なニーズに応えアクセスを保障する相談体制の構築が必要と考えられた。
  • ―時間的展望の変化に焦点を当てたパイロット研究―
    勝又 陽太郎, 川瀬 藤吾
    2021 年 58 巻 2 号 p. 211-218
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    大学生を含む青年期のメンタルヘルスに影響する要因の一つとして,時間的展望の形成が挙げられる。本研究では,大学生を対象とする新たなキャリア教育ゲームを開発するとともに,そのゲームへの参加によって大学生の時間的展望に肯定的な変化をもたらすことができるかについて,実証的に検討を行った。本研究において新たに開発したキャリア教育ゲームである「未来の物語」は,個々人の人生やキャリア形成に関連した国内外のゲームを参考にしながら,中央教育審議会答申で示された「全生活的で包括的なキャリア観に基づくキャリア教育」の実践に利用可能なツールとなるよう内容の構成が検討された。また,本研究では,この「未来の物語」を実際に12名の大学生にプレイしてもらい,質問紙調査を用いてゲーム実施前後における時間的展望の変化について評価を行った。その結果,時間的展望の下位概念の一つである時間的連続性が,介入によって肯定的に変化することが示唆された。本研究はパイロット段階の研究であり,方法論的限界が数多く存在するものの,キャリア教育ゲームの効果を実証的に検討した初めての研究であり,わが国の大学生向けキャリア教育に新たな知見をもたらすものであると考えられる。
  • ―チェックリストを用いたアプローチ方法の検討―
    三好 智子, 後藤 伸彦, 藤川 洋子
    2021 年 58 巻 2 号 p. 219-226
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,発達障害に関連した困り感とメンタルヘルスの項目からなる調査票のデータ(大学1年次生655名)を分析し,発達障害と関連した困り感とメンタルヘルスの関連性および発達障害に関連した困り感を抱える学生へのチェックリストを用いたアプローチ方法について検討した。分析の結果,発達特性と関連した困り感のうち,特に周囲の状況や他者の感情理解をめぐる困り感が,希死念慮をはじめ,深刻度の高いメンタルヘルスの問題に関連していること,また,こうした性質の困り感に関しては,説明というアプローチが有効である可能性が示唆された。学生の自己理解を目的としたチェックリストの活用は,発達特性をもつ多様な学生の支援になると考えられた。
  • 石川 宜子, 松永 奈央子, 片山 陽枝, 山本 じゅん, 簑原 文子, 永田 裕子, 中山 薫, 森 みずき, 中平 亜矢子, 鷲見 長久 ...
    2021 年 58 巻 2 号 p. 227-233
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    新型コロナ感染症の感染拡大防止のため,人と人とのいわゆる社会的距離が制限され,大学においても通常の対面による保健(健康支援)活動が困難となった。コロナ禍下で学生に生じた様々な健康課題に対し,参加型の生活習慣改善企画「春の生活応援‼脱,ぐーたらキャンペーン」,早起きに特化した「朝活応援‼早起きでGO‼」,情報発信企画「教えて‼〇〇のプロ‼」,Web会議システムを活用した「おうちから相談会」の4つの健康支援を行った。企画後に実施したアンケート調査からは,参加型の生活習慣改善企画は対面せずとも学生の健康習慣にアプローチができることがわかった。また,学生が容易にアクセスできるようオンラインを活用し積極的に健康支援を実施した事によって,これまでよりも多くの学生にアプローチすることができた。オンラインを活用した健康支援について,どれほどの効果やリスクがあるか今後さらなる検討が必要であるが,コロナ禍下のみの一時的な次善策ではなく,アフターコロナにおいても対面支援に加えて活用していくべきだと考える。
  • 加来 春日, 面髙 有作, 松田 優里奈, 佐藤 武, 丸山 徹
    2021 年 58 巻 2 号 p. 234-239
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本学では,学生支援の一つとして,学部1年生を対象としたアンケート(健康生活支援調査票)調査結果を元に,修学上の支援を必要としている学生に面談を行っている。メンタルヘルスや修学上の問題に対しては,早期対応や学内連携が重要となるが,支援につなげていくために,メンタルヘルスや発達障害の症状及び障害特性のどのような点に注目すると良いのかについて明らかにした研究は少なく,検討の余地があると考える。
    そこで,本研究では,2018年度と2019年度に実施した健康生活支援調査票の結果を元に,学生の入学時のメンタルヘルス状況及び発達障害傾向とその後の単位取得状況について解析し,低単位学生への支援のあり方について検討することを目的とした。そして,学生のメンタルヘルス状況及び発達障害傾向が単位取得状況に及ぼす影響について,ロジスティック回帰分析にて解析を行った。その結果,発達障害傾向については見通しの持つことの苦手さ(p <0.05)(オッズ比:1.137,95%信頼区間:1.017~1.272)が関連を示した。なお,メンタルヘルス項目においては,関連を示す項目は見られなかった。
    見通しを持つことが苦手な学生や計画的に物事を進めることが苦手な学生は,新しい環境に不安や戸惑いを感じやすく,その後,修学面において,不適応の状態となり,低単位状況へと移行する学生が多いことが示唆された。
    また,見通しを持つことに苦手さの項目が高い学生は心理的なサポートだけではなく,修学のサポート(見通しの提示・スケジュール管理)も併せて行うことが有効な支援となるため,学生の困り感や心理特性等を踏まえて支援を検討することが重要であると考えられた。 今後の課題として,2年次以降の修学にどのような影響を及ぼすのかについては検討できていないため,縦断的な調査が必要であると考える。
  • 大里 貴子, 稲垣 中, 五味 愼太郎, 塩澤 友規, 小薗 康範, 松本 さゆり, 松本 由佳, 数野 香苗, 丸山 由衣, 松廣 綾
    2021 年 58 巻 2 号 p. 240-247
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    睡眠障害は生活習慣病と関係があることが明らかになっている。今回われわれは本学教職員定期健康診断対象者1,246名にアテネ不眠尺度(AIS)を施行し,睡眠障害と生活習慣病の関連を検討した。431名から有効回答が得られ(男性246名,女性188名,平均年齢45.3歳),このうち「睡眠障害なし(AIS合計点3点以下,なし群)」が241名,「睡眠障害軽症(同4~5点,軽症群)」が85名,「睡眠障害重症(同6点以上,重症群)」が105名であった。HbA1c値5.6%以上の者はなし群25.9%,軽症群35.2%,重症群50.5%で,睡眠状態が悪化するほど HbA1c高値の割合が多かった(Cochrane-Armitage検定,p=0.0000324)。高LDLコレステロール血症の者はなし群20.4%,軽症群43.7%,重症群39.6%と,睡眠状態が悪い方が高LDLコレステロール血症の割合が高かった(同,p=0.00011)。 低HDLコレステロール血症の者はなし群4.2%,軽症群2.8%,重症群13.2%で,睡眠状態が悪い方が低HDLコレステロール血症の割合が高かった(同,p=0.00649)。以上のことから,睡眠障害が悪化するほど糖尿病,および脂質異常症のリスクが高くなることが示唆され,生活習慣病の保健指導の際には睡眠障害についても調査し,併せて指導することが重要と考えられた。
feedback
Top