CAMPUS HEALTH
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57 巻, 2 号
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特集:学生の健康白書
原著論文
  • 工藤 欣邦, 河野 香奈江, 木戸 芳香, 堤 隆, 加隈 哲也
    2020 年 57 巻 2 号 p. 74-80
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    大学生における熱中症の実態を明らかにするため,学部2~4年の全ての在学生を対象としたアンケート調査を実施した。大学入学後に熱中症を発症した学生の割合は2.8 %(男性2.3%,女性3.5%)であった。熱中症の発症頻度は,男女ともに体育系サークル群,文化系サークル群,無所属群との間で有意な差を認めなかった。熱中症を経験した学生(熱中症群)のうち21.9%は複数回発症していた。重症度は57.5%がⅠ度であったが,Ⅱ度以上の熱中症も30.2%認めた。複数回発症した学生や重症度がⅡ度以上の学生の割合をサークル別,男女別に検討したが有意差はなかった。サークルに所属する学生における検討では,サークル活動中以外の時間帯で熱中症を発症した割合が,体育系サークル群40.0%,文化系サークル群64.0%と少なくないことや,発症時の状況別にみた検討において自宅での発症が17.8%と2番目に多いことから,サークル活動中における注意喚起のみならず,日常生活における啓発や注意喚起が重要と考えられた。熱中症対策については,大学入学後,熱中症の講演会に参加した学生は7.0%にとどまり,個人的に何らかの熱中症対策を行っている学生も46.1%と半数に満たなかった。体育系サークル群では,サークル内で何らかの熱中症対策を実施していると回答した学生が57.9%にとどまった。また,暑さ指数(WBGT値)を知っている学生が20.0%と少なかったことから,学内における教育啓発活動の強化が必要と考えられた。
  • 小野 真一, 高野 聡子, 林 宏行
    2020 年 57 巻 2 号 p. 81-88
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    薬学部・薬系大学の臨床実習(実務実習)は,日本環境感染学会のガイドラインの「抗体陽性(基準を満たす)」(enzyme immunoassay;EIA ≧16.0)を満たすことを実質的な受け入れ条件としている。実習前の4年次4月の抗体検査から1期,2期,3期の実習開始日まで本学ではそれぞれ324日,415日,506日の期間がある。そこで実習開始日における免疫状態の推測を試みた。4年次の検査で「抗体陽性(基準を満たす)」(基準)を満たした学生107名(中央値24.2,最大値120.0,最小値16.0)を対象とした。この107名の1年次から4年次の抗体実測値(EIA法)は直線的に回帰(y = 0.925x +1.18またはy = 1.24x +1.11)したことから,その後の実習開始日までも直線的に推移すると仮定し,各人の抗体価を推測した。実習開始日の抗体推測値は中央値25.0,最大値139.8,最小値13.8,実習開始までの平均は410.7日±73.3日であった。1期開始(中央値27.6),2期開始(中央値24.8),3期開始(中央値24.8)の間で有意差は認めなかった。いずれの実習時期も低い抗体推測値ほど度数分布が多い“右肩下がり”を呈し,この傾向は実習開始期が遅いほど顕著で,3期開始で最小値13.8を認めた。基準を満たさなかったのはこの1名のみであった。在学中という限られた条件下における検討ではあるが,4年生4月の時点で基準を満たせば,ほとんどの者はその状態を保ち実務実習開始日を迎える。本結果に基づけば,EIA ≧16.0という数値のみを実習受け入れ条件とする在り方には再考の余地があると思われる。
  • -2008~2018年における医学部新入生のムンプス抗体調査-
    和泉 恵子, 中込 裕美, 守屋 圭子, 篠原 学, 髙山 一郎, 武田 正之
    2020 年 57 巻 2 号 p. 89-94
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    2008年から2018年に山梨大学医学部に入学した18才の学生を対象に,ムンプス抗体陽性率低下要因を検討した。入学時に抗体検査(EIA法)を実施し,かつ予防接種問診票のムンプスワクチン接種歴および罹罹歴の有無が明記してある851名を対象とした。ワクチン接種率,罹患率,抗体陽性率,抗体価中央値,ワクチン歴・罹患歴別の抗体陽性率と抗体価中央値について出生年度毎に推移を示した。抗体陽性率は78.9%(1990年度生まれ)から53.3%(1998年度生まれ)に低下し,1995年度生まれ以降は65%未満であった。罹患有ワクチン接種無(以下罹患歴のみ)の者の抗体陽性率と抗体価中央値は,すべての出生年度において 75%以上,6.0以上であった。抗体陽性率と抗体価中央値は,罹患歴のみ者の方が罹患無ワクチン接種有(以下ワクチン接種のみ)者よりもほとんどの出生年度で有意に高かった。一方で,ワクチン接種のみ者の抗体陽性率と抗体価中央値は,1990年度生まれの75.5%,6.7から年次低下し,1995年度生まれ以降は50%以下,4.0以下となった。ムンプス抗体陽性率低下の一要因として,ワクチン接種のみ者の抗体陽性率の経年的な低下が明らかになった。本結果よりムンプス感染制御のため,ムンプスの2回の定期接種化が必要と思われる。
  • 川原 由佳子, 折戸 智恵子, 好井 健太朗, 橋野 聡
    2020 年 57 巻 2 号 p. 95-100
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    ダニ媒介性脳炎(TBE)ワクチンは不活化ワクチンで,現在国内未承認ワクチンである。北海道大学保健センターでは,かねてから学生・教職員に対して安全に配慮しながら本予防接種を実施してきた。この輸入ワクチンFSME-IMMUN Erwachseneは,輸入代行会社(IMMC)を通じて入手し,補償制度が受けられる制度がある。今回TBEワクチン接種を受けた教職員18名,大学生55名の計73名を対象とし,実施時に使用した診療録や問診表などの記録から,対象者の副反応状況を後方視的に調査した。現在までに接種後の頭痛,倦怠感,注射部位の痛み,腫れ,発赤等の訴えはあったものの,治療が必要となる重大な副反応はなく,また迷走神経反射出現による事故もなく,安全な実施に至っている。この副反応の頻度が低かった理由としては,事前の問診や医師の診察により体調を把握し,ワクチン接種について十分説明を行ってから実施したこと,また接種後の経過観察を慎重に行ってきたことも,安全の担保につながったと考える。フィールドワークを行う教職員からの問い合わせ等ワクチン接種を希望する人は増加傾向であり,今後も要請に応じて更に安全に実施していくとともに,マダニ刺咬症予防対策についても啓発していく必要がある。
  • ‐115か国の学生16年間のまとめ‐
    田中 ゆり, 鈴木 眞理
    2020 年 57 巻 2 号 p. 101-107
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    当大学院大学は官僚などの社会人が在籍し,学生の2/3が留学生である。そのうちの70%以上がアジア諸国,アフリカなどの出身で,2018年現在115カ国4700人の修了生が世界中で活躍している。今回16年間の健康診断(以下健診)結果を分析し,留学生の健康問題と支援方策を検討した。
     対象は2003年から2018年の留学生2228名(平均:男子31.9歳,女子30.6歳)で,学校安全衛生法に則るべきところを労働安全衛生法の定期健診項目に便寄生虫卵(以下便虫卵),尿酸,2013年よりインターフェロン‐γ遊離検査(以下IGRA)を追加した。経過観察以上の有所見者は64.1%(16年間平均)で,有所見率の上位1,2位は肥満(BMI≧25)と脂質異常症で,2007年までの3位は便虫卵,2008年以降は肝機能障害,2012年以降は高尿酸血症であった。要再検の有所見者は学校医との面談で食事療法や運動療法でのセルフケアを指導し,20.8%は高血圧,脂質異常症,肝機能障害など生活習慣病の要精査・要治療者で医療機関を受診させた。IGRA陽性・判定保留者は13.3%~31.6%で,IGRA陽性・胸部X線有所見者は医療機関で精査し,結核と診断された場合は治療を開始して,本学保健管理センターで直接服薬確認療法を実施した。IGRA陽性・胸部X線無所見者は半年毎に胸部X線検査で再検し,最長7年間の経過観察では,判定保留より粟粒性結核の発症が1例あった。
     日本人学生同様,留学生の健康支援は健診で重要なことは,健診での感染症予防,疾病の早期発見である。ただし宗教上の制限や母国での習慣,衛生概念が日本と異なること,日本語が不自由で受診困難を伴うことに配慮が必要である。
  • 臨床心理士,精神保健福祉士および看護師の連携
    長 チノリ, 玉田 里佳子, 早川 雅美, 伴野 梨沙, 服部 優美, 布施 香那, 林 友美, 前田 基成
    2020 年 57 巻 2 号 p. 108-114
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    大学生の悩みの多様化/複雑化に伴い,本学では学生相談室と医務室を行き来する学生が増加している。2018年4~11月,相互に紹介した学生数は54例(医務室から相談室38例,相談室から医務室16例)で,前年の同時期より13例増えた。その際求められるのが,日常的に支援する保健センター内の職種:臨床心理士,精神保健福祉士(学生相談室)および看護師(医務室)の連携である。2018年12月,54例のうち調査可能な15例の学生に対して利用に関する質問紙調査を実施したところ,相談内容によって相談相手を変えるという傾向は弱かった。質問紙調査の結果は,職域を超えた柔軟な対応の必要性と同時に,より効果的な支援のためには各職種それぞれの専門性を意識した連携もまた求められることを示している。ここでは各職種の専門性をそれぞれの倫理綱領から導き出し,相互に紹介した54例を13の連携タイプに分類・整理した上で主な傾向を記述した。本研究の目的は,職種ごとの役割について明確な支援方針が示されていない保健センター内で行った連携のタイプについて明らかにし検討することである。(調査・執筆2018年)
  • 大見 広規, 小坂 紋加, 荻野 大助, メドウズ マーティン
    2020 年 57 巻 2 号 p. 115-121
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    本学では,多くの学生がアルバイトをしている。夜遅くまでの就労のため睡眠時間や睡眠の質を確保することができず学業や健康維持に支障をきたしている。また,スマートフォンなどの過度な使用も,睡眠や健康感に影響がある。アルバイトの労働時間や不快経験,睡眠,インターネット依存の実態を把握し,授業への興味,成績,健康感を保つための対策について考察した。
    2年生192名を対象とし,無記名質問紙法で選択肢から回答させた。質問項目は学科,就労経験の有無,職種,就労時間,就労後の帰宅時間,アルバイト収入が必要な理由,不快経験,大学の授業との関係,睡眠時間と睡眠の質,インターネット依存の程度(K-スケール),授業への興味,1年生の時の再試験あるいは単位が取れなかった科目数,自覚的な健康感とした。
    回収率は87.5%であった。94%とほとんどの学生にアルバイト経験があり,就労時間は週当たり,平均16時間だった。インターネット依存については,学生の約1/3が潜在的なリスクを持っており,約6%がハイリスクであった。様々な要因が,講義への興味,再試験・単位が取れなかった科目数,健康感と関連していたが,より強い独立した要因かをロジスティック回帰分析で検討した結果,アルバイトにかかわる様々な問題,睡眠の質,インターネット依存の3つの要因が,それぞれ個別に関連していることが明らかになった。
  • 〜岐阜大学での質問紙調査から〜
    堀田 亮, 西尾 彰泰, 川上 ちひろ, 佐々木 恵理, 高口 僚太朗, 栗木 由美子, 今村 七菜子, 加納 亜紀, 山本 眞由美
    2020 年 57 巻 2 号 p. 122-127
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    学生のニーズに沿ったグループプログラムを実践するために,プログラム評価研究の手法に基づき,岐阜大学の学生を対象に,大学生にとって重要または在学中に身に着けておきたいライフスキルに関するニーズアセスメントを行った。分析対象者は522名(男性295名,女性226名,不明1名,平均年齢18.86±1.13歳)であった。結果は,コミュニケーションや対人関係,意思決定や計画性といったライフスキルを重要視し,大学生活のうちに身につけたいと望んでいることが示された。また,岐阜大学が教育基本戦略の中で重視している基盤的能力も高い得点を示しており,教育目標が学生のニーズとも合致していることが示された。一方で,感情面に関するライフスキルは重要度,身につけたい程度ともに低い結果だった。以上より,岐阜大学の学生を対象としたグループプログラムでは,対人コミュニケーションや基盤的能力の育成に焦点化した内容を提供することが有効であり,感情面のライフスキルに焦点を当てる場合は,その重要性を学生に気づかせるような工夫が必要であることが示唆された。
  • 堀田 亮, 西尾 彰泰, 川上 ちひろ, 佐々木 恵理, 高口 僚太朗, 栗木 由美子, 今村 七菜子, 加納 亜紀, 山本 眞由美
    2020 年 57 巻 2 号 p. 128-133
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    学生のニーズに沿ったグループプログラムを実践するために,岐阜大学の学生を対象に,“大学生にとって重要および在学中に身につけておきたいライフスキルや知識”と,“大学生が不足していると思うライフスキルや知識”の2項目に関して半構造化面接調査を行った。調査協力者は12人(男性5人,女性7人,うち留学生3人)であった。聴取した内容は,調査協力者の許可を得て逐語録を作成し,心理学,医学,社会学の専門家4名がKJ法におけるグループ分けの手段を用いて分類した。【ライフスキル】の<対処・対応>の[コミュニケーション能力],[対人マナー],[計画性],【知識】の[教養(専攻以外の知識)]は両項目に共通していた。<対処・対応>の[情報収集力],[プレゼンテーション],【知識】の[文化に関する知識],[社会に出る上で必要な知識]は,重要および身につけたいライフスキルや知識でのみカテゴリーが得られた。【知識】の[語学]は不足していると思うライフスキルや知識でのみカテゴリーが得られた。【ライフスキル】の<意欲・態度>は両項目ですべて違うカテゴリーが得られた。今後は,本研究から得られた学生のニーズを踏まえ,大学生が求めるライフスキルや知識の習得を目指した心理教育プログラムを策定,実践することが望ましい。
  • 和山 郁美, 大森 純子
    2020 年 57 巻 2 号 p. 134-141
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】大学生集団における過剰飲酒を助長する要素と抑制する要素,及びその相互関係を明らかにすることを目的とした。
    【方法】フォーカス・グループ・インタビュー法を用いた,質的記述的研究とした。大学3年生16名を3グループに分け,2回ずつ1時間程度のインタビューを実施した。
    【結果】助長する要素は,[たくさん飲んで盛り上げる習慣がある],[集団の中で自分の位置づけを探る],[同世代との関わり方に苦手意識がある],[飲み会で大学生のうまみを味わっている],[すぐに飲み会が開ける環境である]の5つだった。抑制する要素は,[集団全体への気配りをする習慣がある],[集団の中での立ち位置がぶれない],[同世代との適度な距離感をつかむことができる],[飲み会以外で楽しみを持っている]の4つだった。習慣,構成員,対人姿勢,悦楽の領域は,助長する要素と抑制する要素に共通して,環境の領域は助長する境域にのみ見出された。
    【結論】抑制する要素を増やすことが重要であり,大学生集団において過剰飲酒を防ぐために学生自身は,過剰飲酒を助長する要素を理解し見直すことが重要である。大学は,学生の内省や社交のソーシャルスキルの獲得を促し,アルコール健康教育以外の学生支援においても学生生活の実際の姿を把握するよう努め,学生と周囲の大人の両者で今日の大学生集団の文化を理解することが求められる。
  • 田中 生雅, 荒武 幸代, 田中 優司
    2020 年 57 巻 2 号 p. 142-147
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    学生のメンタルヘルス状況と身近な相談環境を把握する為,アンケート調査を行い検討した。
    【対象と方法】2019年度愛知教育大学学生定期健康診断に参加した2~4年次学生,大学院生3067名のうち,調査の主旨について同意の得られた者を対象とし,Ⅰ抑うつ不安尺度調査(K-6),Ⅱ‐1ストレスの有無,2 治療状況,3身近な相談環境や自殺等深刻な悩みの相談状況,4健康セミナーの希望,5相談中の対応についての相談希望,の調査を行った。学生(1727名,男性654名,女性1073名,有効回答率56.3%)の結果を示す。
    【結果】質問ⅠK6の平均値は9.1±3.9点であり,Ⅱ‐1「学生生活のストレスのため体の不調や生活への影響がある」とした学生は64名(3.7%)であった。K6の得点群別の検討で高得点の群でストレスが強い者が多かった。Ⅱ‐3相談環境について,「死にたい等特別な悩み」については相談場所が「無」が318名(18.7%)と特別な悩みを相談できない者の数が少なからずみられた。
    【考察&結論】学生は身近の環境で,「死にたい等特別な悩み」では約2割の学生が相談できず,実際の相談状況については,回答した学生の内「深刻な相談を受けたことがない」とする者は約9割にのぼり,学生が生活の中で他者と関わりながら悩みを解決する環境は整っていないことが示された。相談対応技法等のメンタルヘルス教育を益々進め,学内の相談窓口を適切に機能していくことが重要な課題であると考えられた。
  • 早坂 浩志, 新村 暁, 立原 聖子, 長沼 敦子, 茅平 鈴子, 阿部 智子, 栗澤 優子, 小野田 敏行
    2020 年 57 巻 2 号 p. 148-153
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    ピア・サポートとは学生の手による学生支援であり,本学の障害学生支援部署では増加傾向にある発達・精神障害学生の居場所支援と学習支援にピア・サポートを活用してきた。本研究では,ピア・サポートの実施について報告し,その意義と実施の留意点について考察を行った。居場所支援は,障害学生が自由に休憩や勉強ができるスペースに臨床心理学を専攻する大学院生をサポーターとして配置して学生同士のコミュニケーションの促進を図った。学習支援では,サポーター学生は定期的に障害学生が苦手とする科目の学習の個別支援を行った。どちらのピア・サポートも発達・精神障害学生の援助となり,サポーターとなる学生にとっても教育的意義があることが示唆されたが,今後は効果の実証が必要である。また,サポーターとなる学生には一定の専門性や適性を要することが明らかになった。したがって担当職員はサポーター学生の選定や障害学生とのマッチングに留意する必要がある。
  • 諏訪 絵里子, 金山 大祐, 望月 直人, 樋口 隆太郎, 足立 浩祥, 阪上 由香子, 水田 一郎, 工藤 喬
    2020 年 57 巻 2 号 p. 154-160
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    精神障害学生に対する合理的配慮は,その病状を把握し,治療方針を含めて総合的に検討する必要がある。しかし,現状では唯一の根拠書類となりうる医療機関からの診断書は,根拠としての機能が不十分である。そこで,本研究ではこれまでの困難事例を振り返り,精神障害学生の配慮を検討する際の困難と診断書の問題点との関連を検討した。その結果,根拠書類からは以下を判断できる必要があると考えられた。①精神障害あるいは継続治療が必要な精神疾患があると専門医が認めていること。②配慮が必要な修学上の機能不全があり,それが上記障害に起因していること。③精神的,肉体的に安全に学生生活を送ることができること。④大学生活や修学の維持に必要な機能は保たれている,あるいは特定の配慮があれば保てること。⑤必要な治療を受けており,大学生活の続行が治療の妨げにならないこと。以上の判断を可能にする「主治医意見書」フォーマットを作成し,大阪大学における精神障害学生の根拠書類として運用することで,適切な合理的配慮の提供を目指した。
  • ~「主治医意見書」の在り方から考える~
    諏訪 絵里子, 金山 大祐, 樋口 隆太郎, 望月 直人, 足立 浩祥, 阪上 由香子, 森 千夏, 水田 一郎, 工藤 喬
    2020 年 57 巻 2 号 p. 161-168
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    精神障害学生への合理的配慮を検討する際には,症状や状態に変動があることや修学に最低限必要な機能が阻害されやすいため,学生の心身の安全と修学可能性を考慮に入れた上で,学習目標を達成できるよう長期的な視点から,よりよい配慮内容を考えることも重要である。そのため,現在の詳細な状態像や病状を治療でどう管理できるかを含めた専門医からの情報が必要になる。そこで,大阪大学では合理的配慮を検討する上で十分な情報が得られるよう主治医意見書フォーマットを作成し,根拠書類として精神障害学生に提出を求めている。しかし,主治医が意見書を大学生活の実情に合うように記載するためには,そして大学が意見書を適切に読み取るためには,フォーマットの作成のみならずその運用方法を検討する必要がある。根拠書類は学生の希望する配慮,大学生としてのコア・コンピテンス,そして学生の客観的状態像と治療の見通しに対して,学生・主治医・大学が共通認識を持つためのものという目的意識が必須と考えられた。この意識に基づいた適切な運用方法を考えることで,三者のコミュニケーションを促進するツールとして,建設的対話の論点・枠組みとして根拠書類を用いることが可能になると考えられた。それにより,合理的配慮の合意形成が容易になるとともに,より適切な配慮内容を検討することができると考えられた。
報告
  • ― 交差遅延効果モデルによる検討 ―
    永井 暁行, 中村 和彦
    2020 年 57 巻 2 号 p. 169-176
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,学生の主体的な学修態度と協調性の関連を検討することであった。近年,大学教育において他者との協調性に注目が集まっている。大学教育の中で,協調性等の汎用的能力の向上が期待されているが,協調性の変化はこれまで十分に検討されていない。また,近年のアクティブラーニング型授業への注目から元より協調性の高い学生ほど,大学教育に対して主体的な学修態度を持ちやすいことも考えられる。そこで本研究では主体的な学修態度と協調性の関連を,縦断調査によって検討した。本研究では2018年6月から2019年3月まで,計4回の調査を行った。調査協力は158名の大学生・短期大学部生から得られ,調査協力者には主体的な学修態度尺度と多面的協調性尺度への回答を求めた。得られたデータに対して交差遅延効果モデルによるパス解析を行った。本研究の結果から,部分的に主体的な学修態度と多面的協調性尺度の双方向の影響が見られた。特に主体的な学修態度が高い学生は,その後協調的問題解決が高くなりやすいことが明らかになり,非協調志向が低い学生は,その後主体的な学修態度が高くなりやすいことが明らかになった。以上から,大学での学習への主体性と協調性は相互に影響し合うことが示唆された。
  • -日米共同セッション(Joint Session between JUHA and ACHA)を中心に-
    山本 眞由美, 石見 拓, 中川 克, 調 漸, 足立 由美, 吉川 弘明
    2020 年 57 巻 2 号 p. 177-182
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    第99回米国大学保健管理協会年次集会(American College Health Association; ACHA2019)(5月28日-6月1日,デンバー,CO)において,全国大学保健管理協会(Japan University Health Association; JUHA)とのジョイントセッション(ACHA-JUHA joint session) を開催したので報告する。今回は,ヘルシーキャンパスの取り組みに注目し,日本の4つの大学の取り組みを紹介した。まず,ヘルシーキャンパスに着目した背景を元 ACHA 会長のJennifer Haubenlizer(オレゴン州立大)から,また,ACHA-JUHA ジョイントセッションの経緯を国際連携委員会を代表して山本(岐阜大学)から紹介した。その後,各大学の取り組みを中川(立命館大学),石見(京都大学),調(長崎大学),足立,吉川(金沢大学)が紹介した。大学の保健管理施設は単に疾病管理予防だけでなく,ウェルビーング,健康増進に着目し,キャンパス全構成員の健康を目指すべきだという考えは日米共通であることを確認した。今後とも両協会の友好を継続,発展させ,健康管理体制や質の向上に関する議論を日米で活発になることが期待される。
  • ―国際連携委員会より―
    山本 眞由美, 堀田 亮, 中川 克, 松永 奈央子, 調 漸, 山本 知美, 岡林 里枝, 石見 拓
    2020 年 57 巻 2 号 p. 183-188
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/12/19
    ジャーナル オープンアクセス
    Community College of Denver(CCD)とMetropolitan State University(MSU Denver),そして,University of Colorado Denver(UC Denver)の3つの大学が共同利用する保健管理施設であるHealth Center at Aurariaを2019年5月31日に見学したので報告する。3つの大学がひとつのヘルスサービスセンターを共同利用する例は全米でもめずらしく,質を維持しながら効率化を図る運営形態のモデルケースであった。内科・精神科診療の他,女性専門外来,産婦人科,スポーツ医学,予防接種,各種検査業務にも対応していた。CTやMRIなどの精査や専門的治療は専門医療機関へ紹介しているとのことだった。一方,カウンセリングセンターはキャンパス内に3つの大学が独自に開設し,社会不安や女性特有の悩みなど多岐に渡る相談に対応していた。さらに,学生のための福利厚生施設であるウェルネスセンターも見学した。学習室,キッチン,ジム,温水プール,ジャグジー,バスケットコート,ヨガ・メディテーションルーム,テラス,レッスンルームなどを備え,学生はすべて無料で利用できるとのことであった。本協会や本邦の大学保健管理施設の活動にも大いに参考になる見学であった。
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