臨床美術ジャーナル
Online ISSN : 2758-3457
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目次
巻頭言
寄稿
  • 中野 優子, 岡田 猛, Edilia Fantin, 大塚 陽子, 伊藤 萌, 入海 真理, 井上 国太郎
    2024 年13 巻1 号 p. 3-15
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/07
    ジャーナル 認証あり

    本研究の目的は,ドキュメンテーションという手法を用いて,熟達したコンテンポラリーダンサーの日々の創作プロセスを記述し(ケーススタディ1),それを展示というスタイルで共有すること(ケーススタディ2)を通して,人々が自分自身の「アーティスト (the artist within)」を育む仕掛けとその効果を探索的に明らかにすることである。ケーススタディ1では,ダンスの熟達者は日々の創作プロセスにおいて,様々なダンスにまつわる仕事を,「ホンモノ」の表現の探究という軸で有機的につなげながら追究していることが明らかになった。さらに,その熟達者の探究プロセスから,人々の「アーティスト」を育む指針を構築した。ケーススタディ2では,ドキュメンテーション活動の一環として,ケーススタディ1で得られた知見を展示を通して一般の人々と共有するという試みを行った。その結果,熟達者や研究者だけでなく,その展示に参加した参加者も自分自身の「アーティスト」を発見し育む観点を得たことが示唆された。

原著
  • ~アートプログラム「のびるね!」を実施例として~
    池原 裕可里
    2024 年13 巻1 号 p. 17-24
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/07
    ジャーナル 認証あり

    臨床美術のアートプログラムⅰ)は,臨床美術士ⅱ)が現場で臨床美術のセッションを行う際に使用するマニュアルである。本論文は,アートプログラム「のびるね!」を複数の現場で実施し,その作品,アンケート結果及び聞き取り調査から臨床美術の特長をふまえ,多彩な表現を引き出すアートプログラムであることを検証したものである。その結果,「のびるね!」の制作において,木の根の写真を通して得られるイマジネーションは多方面にわたるが,通常,根がのびる様子を描くことは「成長」を意味し,それを感じることから気持ちが前向きとなり,次に色彩を加えていくことで生命力あるいは制作者のエネルギーを促す感情が芽生え,制作者の感性に触れることがわかった。本論文では「のびるね!」が,制作自体が単なる制作にとどまらず,希望が込められた不思議な力のあるアートプログラムであり,制作者から多彩な表現を引き出すアートプログラムであるという有効性を明らかにしたものである。

  • 伊藤 由美子
    2024 年13 巻1 号 p. 25-33
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/07
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,臨床美術士北澤晃の2006年博士論文から2022年特別寄稿までの実践研究を通して,どのような課題をもち,どのように課題解決に至ったのか,研究の足跡をたどり,北澤晃の臨床美術実践学構想の視点を検証することを目的とする。北澤は臨床美術の場でトランスクリプト作成をもとに個性的な文脈を読み取るナラティヴ・アプローチへの転換を試みた。事例研究を通して臨床美術士のナラティヴ・コンピテンス(物語能力)の重要性を自覚した。臨床美術士は〈他者〉との関わり合いによって生成する私たちのかけがえのなさを,意味生成ケア〈つくり,つくりかえ,つくる〉活動を通して,さまざまな現場で実践研究し,個々人の〈ものがたり〉の更新に寄与するならば“実践知”として重要な意味をもつと述べている。2021年原著では,子どもの心の傷つきの修復を目的とするコフートの自己心理学理論を援用した意味生成ケア理論の構造化を位置づけ,新たな視点を得,関係論的人間観に根差した臨床美術実践学視点を示唆してくれた。

研究報告
  • 土門 環
    2024 年13 巻1 号 p. 35-41
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/07
    ジャーナル 認証あり

    政府は,共生と並んで「予防の概念」を新たに取り入れて,認知症施策を加速させる方針を示した。その具体策として,高齢者らの積極的な参加を促すよう「通いの場」の拡大・充実のあり方を検討することが課題となっている。1)本稿は,札幌市南区第2地域包括支援センター・介護予防センターもいわの介護予防事業2)において,2016年度より現在に至るまで導入されている臨床美術が,職員と臨床美術士との連携によって参加者のニーズに応え,「通いの場」つくりを応援し更に,参加者の意欲を高め社会参加に導く活動を提案する。介護予防のために始まった「通いの場」は, 高齢者のみならず誰もが安心して暮らせる地域づくりの場として期待されている。臨床美術は,アートを通して新たな出会いと対話の場をつくり,世代や個人の特性を超え共生の場をつくることのできる活動である。このことを踏まえ,今後の臨床美術の可能性を考察した。

事例報告
  • ―臨床美術アートプログラムを通しての事例報告―
    安齋 章子
    2024 年13 巻1 号 p. 43-49
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/07
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,ASD児とTD児を対象に臨床美術アートプログラムを個別に行い,快の感情の変化と相互交渉における自発的な語りの特徴について,探索的に検討した事例研究である。その結果,感情の変化についてはASD児とTD児も「親和」の感情が増加する傾向が見られた。この結果は,安齋・上村(2023)1)の大学生を対象にした臨床美術アートプログラムを通した感情の変化について対象者すべてに「親和」の感情が増加する傾向が見られたことと同様であった。安齋・上村(2023)では,大学生における語りの内容と快の変化において,1)①自己と他者(家族)の語りのグループにおいて「非活動的快」の増加,2)②自己と他者(友人),③自己と感覚(感じ方・自然など)の語りのグループにおいて,「非活動的快」「活動的快」の増加,3)④自己(好きなこと・考え)の語りのグループにおいては「活動的快」の増加,の3つのグループに分けられた。本研究においては,TD児では,大学生で多く見られたグループである,2)②自己と他者(友人)「非活動的快」「活動的快」の増加が見られた。ASD児では,大学生では稀に見られたグループである,3)④自己(好きなこと・考え)「活動的快」の増加が見られた。尚,ASD児においては継続的な介入により,語りの内容に変化が見られた。

  • 〜造形活動におけるQOL評価を指標に〜
    野口 雅恵
    2024 年13 巻1 号 p. 51-58
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/07
    ジャーナル 認証あり

    本報告では,臨床美術が重い障害のある子どもたちの生活の質(QOL)向上に寄与できるかを明らかにすることを目的とする。本研究では,脳性麻痺などの重い障害のある小中学生3名に対して2022年度に月1回,30〜40分の個別臨床美術講座を実施した。評価方法として,池田(2017)の「重度・重複障害児の造形活動における意欲と能力発揮を基軸としたQOL評価法」を用い,講座中の子どもたちの意欲や能力の発揮をビデオ分析で評価した。QOLを「意欲」と「能力発揮」に基づき6段階で評価し,それを4段階に再分類した。その結果,対象者全員がQOLの維持,向上を示した。特に,絵具の使用など実際に手を動かして制作を行なう際にQOLが特に高まった状態を示した。本研究は,対象者3名の造形活動におけるQOLに対して,臨床美術が有効に働いたということを示し,今後さらに質的な分析を含めた継続的な研究がさらに求められる。

  • 〜造形活動におけるQOL評価を指標に〜
    野口 雅恵
    2024 年13 巻1 号 p. 59-65
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/07
    ジャーナル 認証あり

    本報告は,前報告「臨床美術は重い障害のある子どもの楽しみに寄与できるかⅠ」において明らかになった,臨床美術講座実施時のビデオ分析によるQOL評価に基づいて,臨床美術が重い障害のある子どもたちにとって有効に働く場合の要件を明らかにすることを目的とする。個別の臨床美術講座を受講した対象者3名について,QOL評価によって6段階に評価された場面のうち,QOL評価が向上,もしくは低下した場面を抽出し,その場面の意味内容の分析を行なった。その結果,制作活動において参加者本人が主体的に興味を持つことや,変化に気づくことができる働きかけ,繰り返しにより理解を促した場面でQOLの向上が見られることがわかった。一方で,主体性の持てない状態や環境がQOLを下げることがわかった。これらのことから,重い障害のある子どもたちに対する臨床美術においては,発達段階に合わせた活動や,参加者の生活全体を見通す視点などが重要であることが明らかになった。

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