JAMSTEC Report of Research and Development
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13 巻
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原著論文
  • 三澤 文慶, 木下 正高, 山下 幹也, 佐柳 敬造, 三澤 良文
    2011 年 13 巻 p. 1-15
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/30
    ジャーナル フリー
      相模湾は,フィリピン海プレートの沈み込み境界であり,伊豆弧の衝突域に隣接するため,非常に複雑なテクトニクスを持つ地域である.特に相模湾西部・初島沖は,比高約1000 mの海底崖の東麓に化学合成生物群集が分布している.本論文では,2005年5月および2006年1月に海洋研究開発機構の海洋調査船「かいよう」によるKY05-06航海およびKY06-01航海で実施された初島沖相模トラフの反射法地震探査の結果から,相模トラフ,特に初島沖化学合成生物群集周辺の地質構造を明らかにした.今回の探査では,初島沖で最大往復走時1.5秒までの海底下構造を捉えることができた.その結果より,初島沖相模トラフは3層の堆積層とその下位の伊豆半島の白浜層群に対比される音響基盤層に区分した.音響基盤層の白浜層群が2 Maまでに形成された地層であることから,本地域のトラフ充填堆積層は2 Ma以降に堆積したことになる.このトラフ充填堆積層中で,流体・ガスの存在を示す2つの逆位相反射面の存在が認められた(Horizon AおよびB).また,トラフ充填堆積層中で連続的な変形構造の存在が認められた.この変形は,基盤層深部に分布する断層の伏在,もしくはマグマの貫入などに起因すると考えられる.加えて,トラフ充填堆積層中で音響的に透明な柱状構造が認められた.この柱状構造は,堆積層中で認められた負の極性を示す反射面と総合的に考えると,流体やガスから構成されるダイアピルと結論づけた.また本研究で明らかになった本地域の地質構造および柱状構造は冷湧水域での高熱流値と関連性があることが示唆された.
総説
  • 有吉 慶介, 松澤 暢, 矢部 康男, 加藤 尚之, 日野 亮太, 長谷川 昭, 金田 義行
    2011 年 13 巻 p. 17-33
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/30
    ジャーナル フリー
      同じプレート境界面上にある複数の断層セグメントが連動して地震が発生した場合,一般にはスケーリング則に従うと考えられている.しかし,スマトラ島沖地震のような超巨大地震となると,走行方向に長い形状となり,アスペクト比一定の前提条件が破綻するため,活断層調査などからは諸説に分かれているのが現状である.そこで本稿では,摩擦構成則に基づく地震サイクルの数値シミュレーション結果について,単独地震と連動型地震のすべり量を比較するという新たな観点から,特徴を見出すことにした.その結果分かったことは以下の通りである.断層セグメント間の距離と破壊遅れの時間差が共に短い場合には,地震時すべりが断層サイズに比例して大きくなるが,プレスリップは単独地震とほぼ変わらない.一方,断層セグメント間の距離と破壊遅れの時間差が共に長い場合には,地震時すべりは数割程度しか増幅しないため,マグニチュードに換算するとほぼ変わらないが,プレスリップは単独地震に比べて数倍程度増幅することが分かった.これらの知見を活かして,スマトラ島地震でみられた短期的・長期的の連動型地震を考察し,東北地方太平洋沖地震に伴う長期的な時間遅れを伴う連動型地震の可能性について調べた.その結果,東北地方太平洋沖地震の周辺で後続する大規模地震の発生可能性を判断・予測するためには,三陸はるか沖地震・十勝沖地震の震源域や,太平洋沖でのフィリピン海プレート北限に沿った房総半島沖において,海底観測をする必要があることを指摘した.
  • 松岡 大祐, 荒木 文明
    2011 年 13 巻 p. 35-63
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/30
    ジャーナル フリー
      シミュレーションデータや観測データを画像に変換する科学的可視化は,データに含まれる科学的な特徴や意味を直感的に理解するための効率的な手法の一つである.本論文では,可視化パイプラインにおけるプロセスの効率化,時系列データ可視化,遠隔可視化,および最先端の環境を用いた大規模データの可視化研究について調査を行い,報告する.大規模シミュレーションによって生成される大量のデータの可視化処理には膨大な時間がかかり,一台の計算機で行うのは容易ではない.そのようなデータを効率的に可視化するための典型的な手法として,可視化パイプライン中のプロセスの並列化およびデータ構造の最適化が用いられている.また,時系列データの可視化においては,データI/O処理がステップ毎に生じる.そのため,時系列データ可視化のための効率的なデータI/O手法として,プリフェッチングや並列I/O,およびパイプライン並列処理が開発されている.特に,パイプライン並列処理は,I/Oのボトルネックを除去し,高フレームレイトを実現するための手法として広く用いられている.ネットワーク環境を用いた遠隔可視化は,遠隔環境にある使用可能な計算資源を利用するための手法である.とりわけ,地理的に分散した複数のデータを取り扱うために,遠隔可視化の一形態である分散可視化が提案されている.同じく遠隔可視化の一手法である協調的可視化は,様々なレベルの可視化プロセスにおいて複数の解析者が参加できるものである.最後に,最先端の環境を用いた可視化について述べる.より大規模なデータをより高速に可視化するためには,スーパーコンピュータおよびマルチGPUシステムの利用は有効な手法である.また,大規模シミュレーションの結果をより直感的に理解するための,高度なインタラクティブ性を持つバーチャルリアリティシステムを用いた可視化についても報告する.
報告
  • 田村 肇, 荒木 英一郎, 木下 正高, 浜野 洋三, 柏瀬 憲彦, 川田 佳史
    2011 年 13 巻 p. 65-74
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/30
    ジャーナル フリー
      海底および海底掘削孔内に設置するセンサーの長期安定性評価を行なうことを目的として,長期にわたり安定した温度・圧力を維持できる環境シミュレーターOOVEE(Oil Operated Virtual Environment Equipment)を製作した.OOVEEは,2台の温度安定性±10 mKの恒温槽,安定稼動時の圧力安定性±3 kPaの圧力天秤,容積6.6 Lの圧力容器からなっている.設定できる温度の範囲は-2∼175℃,圧力範囲は1∼100 MPaである.評価試験を行い,22時間にわたり,圧力容器内の圧力を60±0.05 MPa,温度を2±0.008℃に保つことに成功した.圧力の変動は圧力天秤のピストン回転加速によるものであり,2時間程度であればより安定した圧力を連続して供給できる.恒温槽の温度均一性は,深さ10 cm以上の部分で±15 mKである.
  • 吉岡 直人, 堀 高峰, 阪口 秀
    2011 年 13 巻 p. 75-87
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/30
    ジャーナル フリー
      室内実験において,ガウジ層を挟む模擬断層にせん断力を加え,ガウジ層のせん断強度を測定する実験を行った.使用したガウジ層を構成する物質は,石英砂と大理石を粉砕して作成した方解石砂である.粒径はいずれも,0.125-0.250 mmであり,ガウジ層の厚さは2 mmまたは3 mmである.剛性の低いバネを用いて断層の上盤に力を加えたため,ほとんど例外なく,スティックスリップが発生した.その最終的なすべりの前には,前兆的なゆっくりとしたすべりと,これに伴うダイラタンシーが発生した.すなわち,上盤は持ち上がり,ガウジ層が膨張(ダイラタンシー)しているように見えた.この実験とは別に行った光弾性物質を用いた実験結果を考慮すると,せん断力の増加によってガウジ層内部には応力鎖(強い応力でつながった柱状の粒子群)が発生し,次第に斜めの方向に発達するようになり,最終的にこれが回転してダイラタンシーが発生するのではないかと推察された.せん断強度はガウジ層が薄いほど大きく,また石英砂より方解石砂の方が大きい値を示した.これらの事実はガウジ層内部に強力な柱状の応力鎖ができ,この柱の強度がガウジ層のせん断強度を決定することを示唆している.実際の断層のガウジは粒径がフラクタル分布をしていることもあり,このモデルがどこまで適用できるかは今後の課題である.
  • 町田 嗣樹, 松浦 由孝, 阿部 なつ江, 石井 輝秋
    2011 年 13 巻 p. 89-105
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/30
    ジャーナル フリー
      ドレッジを用いた海底岩石の採取の際,ドレッジを目的の場所に確実に着底させることが重要である.しかし,これまでのドレッジオペレーションでは,ドレッジの位置(緯度・経度)を具体的に把握することが困難であった.我々は,海洋地球研究船「みらい」のMR08-06Leg-1b航海において,観測ワイヤーに小型トランスポンダーを取り付け,ドレッジ位置のリアルタイムモニタリングを試みた.船に搭載されている音響航法装置のモニター画面にトランスポンダーの位置を表示させることによって,事前の調査で岩石の露出が予想された測線に沿ってドレッジが曳航するように的確な操船を行うことができた.以上のシステムによって,安全かつ確実に岩石試料を採取することに成功した.さらに,その後の解析により,曳航時のドレッジの具体的な動き方も明らかになった.
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