動物園などにおける動物の飼育環境をより良いものとするためには, かれらが本来持っている行動を発現できるような施設作りが不可欠である。野生チンパンジーは, 樹木が作り出す三次元空間の中で生活し, 日中の約半分の時間を木の上で過ごす。しかし, 一般に飼育下では三次元空間が少なく, チンパンジーが地上で過ごす時間が多い。日本モンキーセンターでは, 環境エンリッチメントとしてチンパンジー屋外運動場に高さ4mと8mの木製三次元構築物を導入した。本研究では, ここで飼育されているチンパンジー7個体が, 導入された構築物をどのように利用するかを行動観察し, 環境エンリッチメントとしての評価をおこなった。調査は, 木製構築物導入前, 4m構築物導入後, 8m構築物導入後の3期間にわたっておこなった。その結果, 構築物上にいる割合は29.1%から, 34.9%, 64.3%と増加した。新しく導入された構築物は全個体により使用され, 「上に登って眺める」など高さを利用した行動や, 「腕わたり」など立体的な空間を利用した行動, 「樹皮でベッドを作る」など素材を利用した行動が新たに観察された。木製構築物導入はチンパンジーの1日の行動の時間配分にまでは大きな影響を与えなかったが, 構築物上にいる時間割合は増加し, 新しい行動レパートリーがひきだされ, 環境エンリッチメントとしての有用性が確認された。
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