不動産市場において, 供給者と消費者の情報の非対称性によって市場の失敗が起きるとともに, 消費者に得たい情報を収集するために大きな費用負担を強いられることもある。これらの情報提供面の問題を解消するために, 不動産の価格を構成する要因を解明する必要があり, また, このような情報を不動産の供給者, 消費者および政策決定者の間で共有するのも大切である。そのために, 不動産価格の実証分析が重要な研究課題となる。とりわけ, 日照, 周辺における老朽住宅の有無, 緑の充実度などミクロな住環境情報の提供は不十分ではあるが, 消費者には重視されており, これらの住環境要因が価格に与える影響を同定することが望ましい。本稿では, Gao and Asami (2001) の研究成果を紹介する。この研究は, 東京都世田谷区の一戸建て住宅地を対象に, 取引価格と詳細な環境要因情報を用いてヘドニック分析を行った。その結果, ミクロな住環境属性の多くは不動産の取引価格を影響していることを示し, 各有意となった環境要因の経済価値を同定した。さらに, その結果は様々な都市計画政策に応用できることも例示した。不動産の情報提供体制の整備, 特にミクロな住環境属性を提供することは市場機能の改善や消費者の情報収集コストの削減に有益なだけではなく, 都市計画に関する政策の研究にも大きな示唆を与えると言える。
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