Journal of Equine Science
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5 巻, 4 号
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  • 福永 昌夫
    1994 年 5 巻 4 号 p. 101-114
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2011/11/29
    ジャーナル フリー
    1993年にイギリスで初めて馬ウイルス性動脈炎(EVA)の発生があってから,アメリカでも比較的大規模な流行がアーリントン競馬場のサラブレッド馬群にあいついで認められた.過去数10年の間,イギリス,アイルランド,オーストラリア,ニュージーランドそして日本はEVAの数少ない清浄国として考えられていたが,1990年代に入ってから血清学的調査の結果,オーストラリアとニュージーランドがEVAの汚染国と見なされるようになった.最近,繁殖や競技を目的に,多くの馬が国際間を移動しているが,このような状況から,海外伝染病が清浄国に侵入する機会が増えるとともに,侵入した場合は清浄馬群に対して広範な流行をもたらすことが危惧される.そこで,EVAの清浄国に本病が侵入した場合に,その被害を少しでも抑えるための有益な情報となるように,これまでに知られているEVAの臨床所見,診断法そして予防法についてまとめてみた.
    しかしながら,EVAの臨床症状は非常に多様で,臨床鑑別ははなはだ困難である.そこで血清学的あるいはウイルス学的な診断法が用いられるが,一般的には補体添加による中和試験によって診断される.一方,補体結合(CF)反応では,感染後のCF抗体価が早期に低下するため,CF抗体を検出することによって最近の感染を知ることができる.ウイルス分離については,流産発生時の流産材料からは効率良く分離されるが,EVA流行時に採取したその他の野外材料からのウイルス分離は必ずしも容易ではない.この点で,最近開発されたポリメラーゼ・チェイン・リアクション(PCR)法は感度,迅速性ならびに特異性に優れ,大いに期待される診断法である.しかしながら,新たに分離されたウイルスの諸性状を解析するためにも,組織培養によるウイルス分離法の改良が望まれる.現在,EVAの予防のため生ワクチンならびに不活化ワクチンが開発されており,生ワクチンはアメリカで野外応用され,その予防効果が実証されている.しかしながら,両ワクチンとも攻撃試験の結果,短期間の少量のウイルス分離成績ならびに感染部位の限局化などから感染ならびに流行の抑制効果は認められるが,完全に感染防御を果たすものではない.これまでEVAウイルスの遺伝子構造および構成蛋白について多くの研究がなされ,最近はモノクローナル抗体を用いたウイルス蛋白の機能解析が盛んに行なわれている.これらの成績は,今後のEVAの診断法やワクチンの改良に有益な情報を提供するものと思われる.現在のところ,ワクチン接種馬は野外感染馬と同様に血清反応は陽性を示すことから,国際間の馬の移動でEVAの抗体陽性馬の処置について問題となっている.最近,その対応策として生ワクチン接種馬については,実験的に生ワクチン株と野外株を用いた中和試験によって抗体価の差をみて識別することが可能となり,また分離ウイルスについては制限酵素を用いたPCR法によって識別できるようになったが,なによりもワクチン接種馬としての特異的なマーカーを有する有効なワクチンの開発が急がれている.
  • 山下 秀次, 村田 修治郎, 小村 喜久男, 岡本 新, 前田 芳實, 橋ロ 勉
    1994 年 5 巻 4 号 p. 115-120
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2011/11/29
    ジャーナル フリー
    日本在来馬におけるDNAフィンガープリント分析を行い,品種内における遺伝的変異性について検討するとともに,品種相互間の遺伝的類似性について分析を行い,それにもとづいて遺伝的距離を推定した.供試馬には,サラブレッド,トカラ馬および野間馬を用いた.DNAは末梢血より抽出し,制限酵素.Hnf Iにより切断した.DNAフィンガープリント法は,(TG)nプローブをジゴキシゲニン標識し,コールドプローブ法により行った.DNAフィンガープリントの遺伝的類似性の評価には,BS値を算出した.また,遺伝的距離の推定には,BS値より算出したサイトあたりの塩基置換数を用い,さらにこの結果から非加重結合法によってデンドログラムを作成した.各馬種内におけるDNAフィンガープリントの個体一致確率は2.1×10-1(トカラ馬),4.0×10-4(野間馬)および3.6×10-5(サラブレッド)と評価された.また,馬種間のBS値に比べて馬種内のBS値が高く評価された.特にトカラ馬内のBS値は他の2馬種に比べて非常に高いことが示された.さらにBS値にもとづくデンドログラムによる分析の結果,3馬種ともにそれぞれ独立したクラスターを形成し,トカラ馬が他の2馬種から遺伝的に大きく離れていることが示唆された.以上のことより,トカラ馬の遺伝的変異性は著しく低いことは明らかである.このことはトカラ馬集団が少数の小型馬を起源とし,現在までに何度かの集団サイズの縮小を経験しているために,多型的な座位に遺伝子頻度の機会的変動あるいは遺伝的浮動が強くあらわれたためと考えられる.
  • 高井 伸二, 北島 尚志, 玉田 至宏, 松倉 奨, 大和 康夫, 乾 孝則, 加藤 昌克, 瀬能 昇, 椿 志郎, 安斉 了, 兼丸 卓美 ...
    1994 年 5 巻 4 号 p. 121-126
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2011/11/29
    ジャーナル フリー
    北海道日高地方の2つの軽種馬生産牧場において19頭の子馬から経時的に採取した血清を用いて.Rhodococcus equiに対する子馬の体液性免疫応答をELISA法及びウエスタンプロット法で検討した。抗原には強毒株であるATCC33701株を用いたELISA抗体価は60日齢をピークとした一峰性の応答が認められ、漸次成馬の値に減少していった。15-17kDa抗原に対する抗体応答ウエスタンプロット法で検討したところELISA抗体価と同様な応答を示した。呼吸器感染症の症状を示した子馬ではELISA抗体価の顕著な上昇が認められた。また、これら2つの牧場の飼育環境土壌からR. equi強毒株が分離された。これらの成績は感染馬及び健康馬に拘わらず全ての子馬が3ヵ月齢以内に強毒株に暴露され、毒力関連抗原に対する抗体を産生することを示唆していた。
  • 平賀 敦, 山野辺 啓, 久保 勝義
    1994 年 5 巻 4 号 p. 127-130
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2011/11/29
    ジャーナル フリー
    この研究の目的は,競走馬のスタートダッシュ時のストライド幅,ストライド数,隣接した2蹄跡間の歩幅であるステップレングス(Steplength)と速度との関係を知ることであった.ストライド数は最初の数完歩に若干の変動を認めるものの,スタート直後からほぼ最大レベルで一定となったのに対し,ストライド幅は25-30完歩でほぼ最大に達した.このことから,実質的な速度増加はストライド幅の増加によるものの,スタート直後ではストライド数を最大にすることの貢献が大きいものと思われた.ステップレングスについては,Mid step lengthが最初から最大レベルに達したのに対し,Airborne step lengthは最大に達するのに時間を要した.これは,スタート直後にAirborne step lengthを急速に増加させることができないため,Mid step lengthを最大限に増加させることにより,速度の増加を行なっていることを示しているものと思われた.
  • 松井 寛二, 菅野 茂, 沢崎 徹
    1994 年 5 巻 4 号 p. 131-135
    発行日: 1995/03/31
    公開日: 2011/11/29
    ジャーナル フリー
    携帯型電子記録装置を用いて,舎飼い時の成馬の24時間にわたる心拍数(拍/分),R-R間隔(精度:10msec)および顎運動回数(回数/分)を記録した.採食行動は顎運動回数を指標とした.心拍数,R-R間隔の変動と採食行動の相互関係がリアルタイムに把握できた.R-R間隔の解析から第2度房室ブロックの出現が推測された.24時間にわたる観察中に38個の第2度房室ブロックがみられた.この第2度房室ブロックは夜間に多発し(P<0・001),活発な採食時にはほとんど出現しなかった(P<0.001).夜間安静時には呼吸性不整脈と推定されるR-R間隔の周期的な変動が現れたが,この変動は採食時には消失した.また,深夜の安静時にR-R間隔が約10分間にわたり周期的に激しく変動する現象が観察されたが,この時にウマは逆説睡眠(REM睡眠)にあるのではないかと推察された.
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