日本老年療法学会誌
Online ISSN : 2436-908X
2 巻
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
総説
  • ―評価と介入に対する考え方―
    田中 寛之
    2023 年2 巻 p. 1-8
    発行日: 2023/02/13
    公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

    認知症を呈す多くの疾患は進行性である。そのため,支援者は疾患の進行経過を理解し,対象者の今のステージを把握する必要がある。現在の医学では,アルツハイマー病をはじめとした認知症を呈する変性疾患の根治的治療は困難なため,いずれは中等度・重度の段階に至る。中等度・重度の段階は,軽度や軽度認知障害の段階と比較して,病態は複雑化し評価・介入が難しくなることもあるため,これまでは支援者の経験値に委ねられたものとなり,根拠に基づいた支援が行われていなかったように思われる。認知症者に適切なリハビリテーション・ケアを行うには病状を重症度ごとに,目的に合わせた評価法を用いて,その結果を解釈し,個別性のある介入戦略を立てる必要がある。しかし,中等度・重度の段階で使用できる各種評価法や介入のために活用できる概念モデルについては,これまであまり知られておらず,特に国内では浸透していなかった。本稿では,中等度・重度認知症者で用いることができる認知機能,日常生活活動(Activities of Daily Living; ADL),行動心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia; BPSD)の各種検査・評価法や介入の際に参考にできる概念モデルについて概説する。今後,この段階における研究がさらに進むことが望まれる。

  • 鈴木 瑞恵
    2023 年2 巻 p. 1-6
    発行日: 2023/02/14
    公開日: 2023/02/16
    ジャーナル フリー

    加齢に伴い,摂食嚥下とコミュニケーションに関わる機能・能力は低下する。摂食嚥下の加齢性変化は「オーラルフレイル」と呼ばれ,健康有害事象との関連が明らかになっている。比較的新しい概念であるが,評価方法,そして予防介入に関する知見が集積されつつあり,今後のさらなる検証が期待される。一方,コミュニケーションについても,加齢に伴って機能および環境が変化し,その変化が高齢者にさまざまな影響を与えることが示されている。コミュニケーションは社会的要素を併せ持っており,加齢に伴う変化が必ずしも病的な低下を表さない可能性がある点に注意が必要である。これら2つの活動は主に言語聴覚士が関わる領域であるが,日常的に誰しもが営む重要な活動であり,職種に関わらず把握し,対象者のリハビリテーションに活かす必要があると考えられる。本稿では,地域在住高齢者の摂食嚥下とコミュニケーションにおける現状を整理し,課題についてまとめた。今後も高齢者の摂食嚥下とコミュニケーションに関する検証を進め,高齢者の健康寿命延伸に向けた一助となることを期待したい。

  • 久米 裕
    2023 年2 巻 p. 1-6
    発行日: 2023/02/17
    公開日: 2023/02/20
    ジャーナル フリー

    睡眠,食事,仕事,余暇活動を含む一日を通した生活リズムを整えることは,人の健康を保つために周知の事実である。認知症高齢者に観察される夜間せん妄や徘徊などの不穏行動には,生活リズムの障害が背景にあると指摘されており,毎日の生活にリズムをもたせ,そのリズムに沿って休息をとり活動することは,認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia, BPSD)を軽減させるのみならず,心身の健康を維持または改善するために重要である。しかしながら,日々の活動や休息を自力では管理が難しい認知症高齢者に対して,周囲が認知症における生活リズムの特徴を捉えて支援しなければならない。近年のInformation and Communication Technology(ICT)が応用されたウェアラブル技術は,認知症の生活リズムをより定量的に把握する上で有用であることがわかってきた。特に,腕時計型ウェアラブル端末Actigraphを応用した国内外の研究知見は,認知症における休息・活動リズム(Rest-Activity Rhythm)の特徴を明らかにしている。認知症の生活リズムを適切に理解することによって,専門職による治療的介入の発展につながるだけでなく,対象者本人とその関係者の健康を保つ一助となることを期待する。

  • 井上 達朗
    2023 年2 巻 p. 1-6
    発行日: 2023/05/29
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル フリー

    現段階で,栄養サポートチーム(NST)での理学療法士の役割に関する最適解は存在するのだろうか。高齢化,病態の多様化,医療技術の高度化等に特徴づけられる現代医療の変革の中で,その役割を現在進行形で確立していく必要がある。手がかりはある。「リハビリテーション・栄養・口腔の三位一体」に代表されるキーワードは,我々がこの新領域で他職種と協働するためのヒントとなる。本稿では,未だ確立されていないNSTでの理学療法士の役割について,決して最先端とは言えない筆者の経験を基にあえてナラティブに解説,紹介する。

  • 永見 慎輔
    2023 年2 巻 p. 1-6
    発行日: 2023/07/27
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル フリー

    摂食嚥下リハビリテーションにおいて,先端技術の活用が進んでいる。超高齢社会における摂食嚥下障害患者の増加に対応するため,コンピュータ断層撮影(Computed Tomography: CT),超音波検査(ultrasonic examination: US),仮想現実(Virtual Reality: VR),ウェアラブルデバイスなどの医用画像やセンシング技術を用いた介入が注目されている。また,音響解析や電気刺激療法などの分野も発展している。先端技術の導入により,より正確な評価や効果的な治療,医療に参画する人々の拡大,そして患者のQOL向上などが期待されている。具体的な機器を紹介し,摂食嚥下リハビリテーションにおける先端技術の活用について概説する。今後,先端技術の効果的な活用が,摂食嚥下リハビリテーションの発展に寄与すると予想される。

  • 永井 宏達
    2023 年2 巻 p. 1-6
    発行日: 2023/08/21
    公開日: 2023/08/23
    ジャーナル フリー

    いわゆる介護予防(要介護化の予防)のニーズの向上に伴い,近年は地域リハビリテーション活動支援事業や保健事業と介護予防の一体的実施の事業等を通して療法士が地域で活動する機会が増えている。地域での介護予防に関わる上では,療法士に求められている役割を正しく把握し,自身の関りで個人や地域にどのような好影響を与えることが出来るかを常に考えることが求められる。事業形態に合わせて対象者の状態を適切に評価するとともに,対象者の状態に応じて他の専門職との連携や他部門への接続を積極的に検討する。通いの場は互助に位置づけられることから,専門職が主導することなく,住民の主体性を支援する関りを心掛ける必要がある。一方,療法士が専門職として関わることによる介護予防のエビデンスは発展途上であり,専門性の強みを示していくことも併せて求められる。

原著
  • 釜﨑 大志郎, 大田尾 浩, 八谷 瑞紀, 久保 温子, 大川 裕行, 藤原 和彦, 坂本 飛鳥, 下木原 俊, 韓 侊熙, 丸田 道雄, ...
    2023 年2 巻 p. 1-8
    発行日: 2023/01/06
    公開日: 2023/01/07
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,プレフレイルからロバストへの改善に関連する基本チェックリスト(kihon checklist: KCL)の各領域の特徴を検討することとした。【方法】対象は,半年に1回の体力測定会に参加した地域在住中高年者とした。改訂日本版cardiovascular health study基準(改訂版J-CHS)でプレフレイルの有無を評価し,半年後に同様の評価を行った。ベースラインから半年後にプレフレイルからロバストに改善した群と変化がなかった非改善群の2群に分けた。また,KCLで生活に関連する機能の評価を行った。改善群と非改善群を従属変数,KCLの各領域の点数を独立変数とした2項ロジスティック回帰分析を行った。また,有意な関連を示したKCLの下位項目に回答した割合を比較し,特徴を検討した。【結果】分析対象者は,地域在住中高年者60名(71.9±7.8歳)であった。2項ロジスティック回帰分析の結果,プレフレイルからロバストへの改善の有無にはKCLの社会的孤立(OR: 0.04, 95%CI: 0.00-0.74, p=0.031)が関連することが明らかになった。また,ロバストに改善した群は,社会的孤立の中でも週に1回以上外出している者が有意に多かった。【結論】プレフレイルの地域在住中高年者へ外出を促すことで,ロバストへ改善する可能性が示唆された。

  • ―項目反応理論による尺度特性の検討―
    田中 寛之, 梅田 錬, 黒木 達成, 永田 優馬, 石丸 大貴, 天眞 正博, 中井 俊輔, 鍵野 将平
    2023 年2 巻 p. 1-8
    発行日: 2023/07/28
    公開日: 2023/08/01
    ジャーナル フリー

    【背景】我々は,中等度・重度認知症における活動に対する取り組み方(Engagement)に対する評価尺度であるAssessment Scale for Engagement in Activities(ASEA)を開発した。本研究の目的は項目反応理論(Item Response Theory; IRT)を用いて,ASEAの各項目の難易度や識別力などの項目特性,構造的妥当性を検証することである。【方法】対象者は精神科病院入院中に作業療法が処方されたClinical Dementia Rating(CDR)の2(中等度)または3(重度)の認知症患者とした。年齢,性別,認知症の原因疾患,Mini-Mental State Examination(MMSE),ASEAを評価した。統計解析として,ASEAの一次元性を確認後,IRTにてサメジマの段階モデルを実施し,識別力,困難度を推定した。統計解析ソフトは,IRTはExametrika Version 5.3,その他の記述統計はSPSSver28.0を用いた。【結果および結論】分析対象者は195名(男性43名,女性152名)であった。IRTによる項目の識別力は0.357~1.419,困難度は-3.317~2.614の範囲で,全ての項目が基準内であった。ASEAは,中等度・重度認知症患者におけるEngagementの評価尺度として構造的妥当性を満たした尺度である。

  • ―医療介護職を対象としたオンラインアンケート調査―
    齋藤 崇志, 矢田部 あつ子, 松井 孝子, 清水 朋美
    2023 年2 巻 p. 1-9
    発行日: 2023/09/14
    公開日: 2023/09/22
    ジャーナル フリー

    目的:ロービジョンケア(LVC)は,視機能低下を有する人々の生活の質の向上を目指すサービスであり,LVCに関わる医療や福祉の有資格者(LVC専門職)によって実施される。本研究の目的は,高齢者介護の専門職(医療介護職)とLVC専門職の間の連携の実施状況,ならびに,医療介護職による視機能把握の実施状況とLVCに関する認知度を明らかにすることである。方法:調査会社にモニター登録している医療介護職(介護福祉士,介護支援専門員,看護師,理学療法士,作業療法士)を対象としたオンラインアンケートを実施した。LVC専門職との連携経験,高齢者の視機能の把握状況,LVCに関する認知度の3項目を調査した。解析として,記述統計の算出と,職種間の差異を検討するためz検定を実施した。結果:1,011名から有効回答を得た。眼科医との連携経験を有する者が73.59%,視能訓練士との連携が45.1%であった。78.93%の対象者が高齢者の視機能を「把握している」と回答し,57.86-63.40%の対象者が各LVC専門職の名称を「聞いたことがあり意味も知っている」と回答した。介護職は,リハ職・看護師と比べ,連携経験(ある)と視機能の把握状況(把握している),LVCに関する認知度が有意に高かった(p<0.05)。結論:両専門職の連携の現状,医療介護職の視機能の把握状況とLVCに関する認知度が明らかとなった。連携の発展に向けて関連知見の蓄積が必要である。

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