医療看護研究
Online ISSN : 2758-5123
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20 巻, 1 号
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研究報告
  • -看護系大学の学部生と大学院生を対象として-
    野崎 真奈美, 渡辺 かづみ
    2023 年 20 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル フリー
     本研究の目的は、「文化的気づき」の促進に向けて、異文化を持つ対象が病院で感じる戸惑いや困難を意図的に一人称体験するための360°パノラマ動画教材の学習効果の評価とユーザビリティ評価を行うことである。
     2つの看護大学に在籍する学生37名(学部生19名、大学院生18名)を対象に、動画視聴前と視聴後に質問紙調査を実施した。学習効果は、4つの学習目標の25項目で評価した。前後の変化の分析には、Mann-Whitney U testを使用した。ユーザビリティは、効果、効率、満足度の観点から評価した。学部生、大学院生ともに教材視聴後、目標達成率が有意に上昇した。また、360°パノラマ映像の使い勝手についても、3つの項目すべてで高い評価を得ており、文化的気づきを得る発端となる教材として一定の学習効果が確認された。
  • 菱田 一恵, 藤田 淳子
    2023 年 20 巻 1 号 p. 9-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル フリー
     退院支援看護師が、看取り・医療処置導入以外の事例に対して、訪問看護導入を判断する要因を明らかにすることを目的として、退院支援看護師7名に対し訪問看護の導入を判断した事例の状況と判断の過程に関する半構成的インタビューを行い、質的帰納的に分析した。その結果、看取り・医療処置導入以外の事例において、退院支援看護師が訪問看護導入を判断する要因として、【患者・家族の不安】【医療的視点での介入の必要性】【家族支援の必要性】【将来予測される病状・成長発達・療養上の課題】【疾患や患者・家族の状況に応じたタイミング】【病状変化の早期発見と適切な支援へつなぐ必要性】【患者・家族の関係や生活の把握困難】の7カテゴリーが抽出された。退院支援看護師は、療養者・家族の生活全体をとらえながら訪問看護の必要性を判断し、疾患の特徴をふまえた今後の長期的な予測の中で訪問看護導入の時期やタイミングを見極めていた。今後さらに複数の疾患を持ち療養の場を移行する患者の増加が考えられ、訪問看護導入のタイミングを考慮すべき疾患や疾患ごとの訪問看護導入のタイミングをより明確にしていく必要があることが示唆された。
  • -臨床推論としての考え方の特徴-
    齋藤 雪絵, 野崎 真奈美
    2023 年 20 巻 1 号 p. 19-30
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル フリー
    目的:看護過程を習得中の看護学生が看護過程の「アセスメント」と「看護診断」の段階においてどのようなことを考えていたかの現状の把握と困難であったことについて明らかにすることである。
    方法:初めて患者を受け持つ臨地実習を履修した看護系大学3年生10名を対象に、半構造化面接を実施し、質的に分析した。
    結果:分析の結果、【情報収集するための土台を作る】【決められた視点から観察してみる】【膨大な情報の中から必要なデータを探し出す】【データに裏づけられた個別性のあるアセスメントをする】【妥当な看護問題を抽出する】【妥当な看護計画を立案する】【根拠のある行動を意識する】【自分の行動を振り返り評価する】【学生だから、オンラインだからと言い訳せざるを得ない】【臨床推論を現場に適用するために様々な制約に苦戦する】の10カテゴリーが抽出された。
    結論:看護学生は、観察することや必要なデータを見極め取捨選択すること、データに裏づけられたアセスメントすることに困難を感じていることが明らかになった。看護学生は、臨床推論のサイクルのステップの一部を思考できており、臨床推論の視点を教育することで臨床推論力が育成される可能性があると示唆された。
  • 東森 由香, 湯浅 美千代, 島田 広美
    2023 年 20 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル フリー
    目的:本研究の目的は、介護老人保健施設(以下 老健)の看護管理者が捉えている看取りの課題を明らかにすることである。
    方法:老健に勤務し看護管理の実務を担う者、計10名に半構造化面接を行い、質的記述的に分析した。
    結果:老健の看護管理者が捉えている看取りの課題は、《本人と家族の看取りに関する意向確認の困難さ》《本人の意向を優先できない看取りケア・医療への葛藤》《看取りへ切り替えるタイミングの判断の難しさ》《家族に対する看取り期のケア不足》《老健の特性による看取りの時期に適したケア・医療の不十分さ》の5つのコアカテゴリーで示された。
    結論:5つのコアカテゴリーは、利用者の機能回復と在宅復帰を目指すという従来の老健の特性およびコロナ禍の影響を受け、本人の意向を重視した看取りの困難さや葛藤を意味していると考えられた。これらの課題解決に向けて看護管理者が教育的介入を行い、老健における看取りの質を担保する必要性が示唆された。
  • -質的研究による受講対象者の特性把握-
    山内 麻江, 川上 和美, 野崎 真奈美, 岩渕 和久
    2023 年 20 巻 1 号 p. 40-51
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル フリー
     目的:本研究の目的は、感染症関連スティグマの低減に向けた看護基礎教育用プログラムの開発に必要な受講対象者の感染症関連スティグマについての知識や認識に関する特性を明らかにすることである。
     方法:看護学生10名に半構造化面接を行い質的に分析した。
     結果:感染症関連スティグマにかかわる語りの内容から、『偏見や差別、感染症の疾患に関する前提知識』のグループに【偏見や差別に関する学習経験の時期と方法】【偏見や差別に関する学習内容】【偏見や差別の体験】【感染症の疾患に関する内容】の4カテゴリー、『感染症に関連する偏見や差別に対する認識』のグループに【感染症全般に対する認識】【感染症患者に対する認識】【COVID-19に対する認識】【HIV/エイズ、ハンセン病に対する認識】の4カテゴリー、『感染症に関連する偏見や差別に対する学習ニーズ』のグループに【感染看護の学習内容】【感染看護の学習方法】の2カテゴリーを抽出した。
     結論:感染症関連スティグマの低減に向けた看護基礎教育用プログラムには、感染症疾患の知識や感染症に対する偏見的思考の認識、感染症関連スティグマを抱える患者の理解を教授する内容が求められる。
  • -国内文献のメタ統合の試み-
    松浦 志野, 伊藤 隆子
    2023 年 20 巻 1 号 p. 52-63
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル フリー
     日本の訪問看護師は高齢療養者の「その人らしさ」をどのように捉えているのかを明らかにすることを目的とし、医中誌Web版を用いて、「訪問看護」「その人らしさ」等のキーワードを含む過去10年間(2012〜2022)の文献を検索し、訪問看護師による高齢療養者の「その人らしさ」を尊重した看護実践が豊富に記述されている11論文を選出した。これらの文献から訪問看護師は高齢療養者の「その人らしさ」をどのように捉えているのかに関連する具体的な記述を抜き出し、メタ統合の手法を参考に二次分析を行った。その結果訪問看護師は、【過去の療養者の姿から「その人らしさ」を類推する】【現在の療養者の姿から「その人らしさ」を了解する】【療養者が将来に向けて描く「その人らしさ」を探る】ことで高齢療養者の「その人らしさ」を捉えようとしていた。高齢療養者が自分らしく生き抜き、そして「その人らしく」死ぬことを支援するためには、訪問看護師は、自身の「その人らしさ」の捉え方を自覚し磨き上げ、その人しか生きられない固有の人生により近づけるよう、専門職としての能力を発揮することが必要であることが示唆された。
論説
  • -看護学における対話型AIをめぐる議論の動向-
    寺岡 三左子
    2023 年 20 巻 1 号 p. 64-70
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル フリー
     社会全体のデジタル化や人工知能等の研究開発を推進するわが国の新たな社会構想Society 5.0の実現に向けた動きは加速しており、それらは医療・看護の現場、そして看護学教育の場にも実用可能なレベルで波及することが推測される。とくにAIの進化はめざましい。そこで本稿では2022年11月に公開された対話型AIであるChatGPT®に着目し、看護学における議論の動向から教育における活用可能性を探った。その結果、ChatGPT®のようなAIが看護の教育・研究と統合することによって看護は急速に進歩し、革新的な変化を遂げるという発展的な見方と、技術が急速に進化しているからこそ看護や教育の根源を揺るがす事態が生じるという懸念を示す見解がみられた。議論は始まったばかりであるが、AI活用に対するガイドラインを策定することで、ChatGPT®が有効な教育支援ツールになり得ることが示唆された。
     今後もAIは急速に進化することが予想されることから、看護学教育においてはリスクと懸念事項への対策を講じつつも、教育者と学習者が共にAIに対する理解を深めながら模索することが必要である。AIの普及が進む中、新たなテクノロジーと対峙することは、看護が患者との相互関係を基盤とし、共感や尊厳の重視といった人間的なケアであることをあらためて想起させ、看護の本質について問い直す機会となるであろう。
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