15年以上にわたって循環器疾患予防対策を行っている地域住民で, 前期 (1983年~1986年) に循環器検診を受診した35~75歳男女4,046人, 及び後期 (1994年~1997年) に受診した35~75歳男女2,789人を対象として, 地域における循環器疾患予防対策に伴う血圧値の推移を分析し, 血圧管理に問題のある職業の存在について検討することを目的とした。受診者を職業に応じて 1) 中小企業経営者・自営業, 2) 会社員, 3) 農業, 4) 無職の4つに分類し, 前期, 後期それぞれの時期で職業別に最大血圧, 最小血圧, Body Mass Index, 一日あたりの飲酒量, 及び尿中食塩排泄量の平均値を年齢調整して比較検討した。また, 前期から後期にかけて, 職業別に上記の変数の推移, 及び良好な血圧のコントロールが得られている服薬者の割合の推移を分析した。前期においては, 男性では職業間に血圧の平均値に差を認めなかったが, 女性では中小企業経営者・自営業従事者はその他の職業と比べて最小血圧値が有意に高かった。後期においては, 男性では中小企業経営者・自営業従事者は無職と比べて最大血圧値が有意に高かった。女性では前期と同様の結果であったが, 職業間の血圧値の差はやや小さくなった。血圧値の推移をみると, 男性では全般的に前期から後期にかけて最大血圧値の低下がみられる中で, 中小企業経営者・自営業従事者のみは低下が認められなかった。また, 最小血圧値については, いずれの職業においても明らかな変化はみられなかった。女性では, すべての職業で有意に最大血圧値が低下し, 最小血圧値については会社員を除いて有意に低下した。男性の中小企業経営者・自営業従事者は前期においてBody Mass Index, 及び飲酒量の平均値が他の職業に比べて高く, 前期から後期にかけてさらに上昇傾向を示した。また, 良好な血圧のコントロールが得られている服薬者の割合は男性の中小企業経営者・自営業従事者では他の職業に比べて低く, かつ前期から後期にかけての上昇も少なかった。一方, 女性の中小企業経営者・自営業従事者は他の職業に比べて Body Mass Index, 及び尿中食塩排泄量の平均値が高かったが, 前期から後期にかけて有意に低下し, 他の職業との差は小さくなった。以上より, 循環器疾患の予防対策を長期間実施している地域において, 男性では職業間で最大血圧値の低下に差がみられた。すなわち, 男性の中小企業経営者・自営業従事者では他の職業と異なり, 最大血圧の平均値の低下は明らかではなく, その背景には, 肥満, 飲酒量, 及び高血圧の薬物療法に対するコンプライアンスが関与していると考えられた。
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