本稿では,「理解」に着目し,日本の教科の学習指導要領で出現状況等を確認するとともに,教科教育学コンソーシアムの加盟学協会の事典・用語集等における意味内容を比較した。その結果,次のような特徴が明らかになった。1)教科によって学習指導要領内での用語「理解」の登場回数,活用および研究者の「理解」という用語への問題関心には顕著な差異を確認できる。2)「理解」については,事典・用語集の次元で見るとブルームのタキソノミーに登場する「理解」の定義と同じ活用をする教科と,あえてドイツの精神科学から「理解」の考え方を重視する教科があり,前者は理科・保健体育科など自然科学系,後者は社会科など人文・社会科学系の教科に見られる傾向にある。 3)事典・用語集においてドイツの精神科学の「理解」の考え方を参照した教科では,その教科の学習指導要領において、人間への「共感的理解」を通して何らかの態度形成を求めるというアプローチが採用される傾向にある。特に社会科においてそれは顕著である。4)「共感的理解」が学習指導要領内で重視されていない教科では,事典・用語集においても「理解」はブルームの定義がそのまま採用される傾向にある。理科などがその典型である。
本稿では,「探究(探求)」と「批判(批評)」に着目し,日本の教育分野の主要な法律および学習指導要領で出現状況等を確認するとともに,教科教育学コンソーシアムの加盟学協会の用語集等における意味内容を比較した。その結果,次のような特徴が明らかになった。1)「探究」は問題解決学習の一連の過程を経て本質を見極めようとする知的営みとして説明されている,2)「探求」は自己の在り方生き方を模索する文脈で使われる,3)「批判」は学習指導要領での扱いは少ないが,加盟学協会の用語集等では多く出現し,様々な角度から根拠に基づいて論理的に考え判断する「批判的思考」として説明されている,4)「批評」は作品の受容を重視する教科において根拠をもって判断する社会的営為として説明されている,5)「探究(探求)」と「批判(批評)」の双方を明示的に関連するものとして扱った教科・領域は社会科,家庭科,環境教育などである。
本稿では,高校生によるアートライティング(美術について体験したことを,言葉に書いて人に伝えること,またその文章)について,主に語彙・構文分析を通して明らかになった言語的特性を示し,美術教育におけるその可能性を検討した。特に本稿では,アートライティングに関するコンテストである第7回高校生アートライター大賞(2017年開催)に応募された551編のテキストデータを主な研究対象とし,形態素解析ツールを使用して高校生の文章に出現した言語形式の計量的データを算出し,実際の用例を取り上げて質的な観察と分析を行った。その結果,コンテストで高く評価されたライティングの傾向として,指示詞と体言止めの使用に特徴があり,それはこれらの表現形式の効果により生じる,体験共有への志向を示唆するものであることを指摘した。
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