脳死・脳蘇生
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34 巻, 2 号
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総説
  • 永山 正雄
    原稿種別: 総説
    2022 年 34 巻 2 号 p. 58-69
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー
    脳死(全脳死)は,「脳幹を含む脳全体のすべての機能が不可逆的に停止した状態」である。これは重篤な器質的脳障害により深昏睡となり無呼吸,人工呼吸器装着となった例の一部で起こる。いったん脳死に陥ればいかに全身管理を行っても通常1~2週間程度で心停止に至るが,心停止までに数カ月,1年以上要した例もとくに小児で報告されている。わが国では脳死判定は「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)に基づいており,臓器移植を前提とするときに適用され「法的脳死判定」と呼ぶ。法的脳死判定の方法は,いわゆる竹内基準に基づいて作成された『法的脳死判定マニュアル』に従って行われる。2020年8月,脳死判定の標準化の必要性が国際的に指摘されている。本稿では脳死の概念と脳死判定,臓器提供・移植をめぐる歴史,現在,今後の課題と方向性について議論のよりどころ,新たな展開の糧となるべく,最新の進歩をわかりやすく紹介する。
  • 小野 元, 吉田 泰之, 高砂 浩史, 田中 雄一郎, 村田 英俊, 加藤 庸子
    原稿種別: 総説
    2022 年 34 巻 2 号 p. 70-75
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー
    医療現場の負担は軽減したとは言い難いが脳死下臓器提供では法改正に沿ったガイドラインや方法はある程度明確化され,脳死下臓器提供への条件に「脳死とされうる状態」というルールが作成されたため,世界的なレベルに及ばないまでも,わが国の提供数増加に寄与したことは事実である。他方,心停止後臓器提供においては以前よりその取り組みは救急医療現場の倫理的・人的・時間的負担があり臓器提供の一つとされているが,具体的な取り組みや手段は脳死下臓器提供と異なることは知られていない。そのため心停止後臓器提供への取り組みや手段はこれまで各地域での対応に頼り,経験の多い医療機関でなければたやすい提供とはいえない状況である。今回は心停止後臓器提供の自験例を示し臓器提供の中で脳死下臓器提供とは異なる心停止後臓器提供の負担を検討する。心停止後臓器提供においては医療者の知識や対応,終末期の考え方が影響を与えることはあり得るが,さまざまな状況や疾患の異なる患者や家族の提供意思や希望において国民の権利保障からすれば脳死下臓器提供と同格の対応が必要と考えられる。心停止後臓器提供の将来像について考察し提言する。
原著
  • 宮 史卓, 松嵜 美紀, 山本 真由美, 中井 栞里
    原稿種別: 原著
    2022 年 34 巻 2 号 p. 76-81
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー
    臓器提供の現場では,原疾患の悪化から回復不能と診断され法的脳死判定,臓器摘出と時間の経過が早く進むなかで,揺れ動く家族の心情をくみ取り支える体制整備が重要である。一方,臓器提供のみを行う施設の職員において移植医療に対する認識は低く体制整備に難渋する。伊勢赤十字病院では過去に脳死下臓器提供を希望された症例を通して反省点を踏まえて家族支援体制を整備してきた。代表例3例をあげて提供施設における家族支援体制について報告する。救急・急性期治療の現場では,懸命な治療を目指すがゆえに患者が回復不能の状態に陥っても終末期という概念が忘れ去られ生命維持治療が続けられる傾向にある。患者が回復不能に陥ったとき,医療者が考えている以上に臓器提供を考える家族は多い。脳死状態となった患者において人生最後の迎え方の意向をくみ取る体制を整えることが臓器提供における家族支援の第一歩である。また,臓器提供をスムーズに実施するためには家族の心情の変化を確実に把握することが重要である。家族の心情変化をとらえるためには,脳死・臓器提供・移植医療や院内体制についての知識をもった同一人物による家族支援が必要である。そして,臓器提供が始まってからではなく患者が回復不能と判断された時点から介入を開始することで,患者支援における一貫性が保たれ家族との信頼関係をより充実したものにできると考える。
  • 日沼 千尋, 荒木 尚, 種市 尋宙, 西山 和孝
    原稿種別: 原著
    2022 年 34 巻 2 号 p. 82-90
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー
    〔目的〕脳死下臓器提供をする子どもと家族へのケアと支援の実際を明らかにし,体制整備に関して検討すること。〔方法〕小児の脳死下臓器提供を経験し,施設名が公表されている10医療施設の11例のドナーを担当した医療チームメンバーに子どもと家族に行った支援,ケアについてインタビューを行った。インタビューデータの中から子どもと家族に行ったケアに注目してデータを抽出し,質的に分析した。〔結果〕【子どもの尊厳を守りいつもと変わらずていねいに終末期のケアをする】【家族が子どものためにしてあげたいことは,できるだけ叶える】【自由に面会してもらい,ともに過ごす時間を十分にとる】【子どもと家族の物語りに耳を傾け,感情の揺れを受け止める】【家族の意思決定を支える】【きょうだいへのケアと説明を担う】【多職種チームでケアする体制を整え,カンファレンスで情報共有と検討を重ねる】【最期まで大切な子どもとしてケアする】【家族とともに体験を振り返る機会をもつ】の9つのカテゴリーが抽出された。〔考察〕脳死下臓器提供をする子どもと家族のケアにおいては,家族が子どものためにできるだけのことをやれたと思える丁寧な看取りのケアを基盤に,意思決定支援としては,子どもと家族のこれまでと,これからに描いていた物語に耳を傾けることの重要性が示唆された。課題としては,脳死下臓器提供時のケアに当たる医療スタッフの精神的な支援と学習機会の提供があげられた。
症例報告
  • 有松 優行, 渥美 生弘, 諏訪 大八郎, 大熊 正剛, 土手 尚, 石田 惠章, 齋藤 隆介, 古内 加耶, 小林 駿介, 伊藤 静, 德 ...
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 34 巻 2 号 p. 91-94
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー
    【目的】本人,家族に臓器提供の意思があったが虐待の可能性が否定できなかったために臓器提供に至らなかった1例を報告する。【症例】13歳,男性。現病歴:自宅内で首を吊っていたところを発見され,救急搬送された。経過:搬送後に経口挿管を行い,アドレナリンを投与し自己心拍が再開した。入院4日目に脳幹反射が消失し,CT検査で脳浮腫,脳波で平坦脳波を確認した。本人の保険証に臓器提供の意思が確認され,家族にもその意思があった。しかし,来院前日に父親が患者を叱責した事実が明らかになった。警察と児童相談所へ照会を行い,院内の倫理委員会で,虐待の事実は確認できないが可能性が否定できないとされた。「法的脳死判定マニュアル」1)で,脳死判定の除外例に「被虐待児,または虐待が疑われる18歳未満の児童」をあげていることから,脳死判定を行わず臓器提供も行わない方針とした。【まとめ】虐待の否定ができないことが臓器提供を行うことができないことに直結する現制度は,患者本人の意思を尊重できない可能性がある。
  • 小畑 仁司, 川上 真樹子
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 34 巻 2 号 p. 95-100
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー
    症例は9カ月女児。母親が風呂場の浴槽に浮かんでいる患児を発見し,心肺蘇生を実施した。救急隊到着時の初期波形は心静止,覚知から15分後の救急搬入時も心静止で,瞳孔は両側5mmで対光反射消失,体温36.4℃であった。蘇生処置により来院から16分後に自己心拍が再開,心停止時間は38〜83分と推測された。溶血を認め,血液データは乳酸21.9mmol/L,BE-18.9,K 7.1mmol/L,ミオグロビン438ng/mL,尿中ミオグロビンは12,399ng/mLであった。深部温34℃の体温管理を48時間行い,1℃/日で復温した。来院時頭部CTでは特記所見を認めなかったが,その後のCTで両側淡蒼球に小さな低吸収域の出現と脳萎縮を認めた。あきらかな麻痺や不随意運動はなく,第22病日に転院した。転倒しやすかったが,1歳半で歩行可能になった。あきらかな知能発達障害はみられず,10年後の再診時学習習能力は正常で運動機能にもとくに問題なかった。頭部MRIでは両側淡蒼球の病変はわずかに確認できるのみで,脳室は縮小し脳溝の拡大も目立たず,脳萎縮はあきらかではなかった。溺水患者のもっとも有用な予後因子は水没時間とされ,冷水溺水などの例外的な報告があるが,一般に心停止時間が30分を超える溺水の予後はきわめて不良である。本例は,溺水により少なくとも38分の心停止をきたしたが,34℃の体温管理療法を施行し,長期の経過観察できわめて良好な機能予後が確認された。
  • 柴田 あみ, 佐藤 慎, 金子 純也, 北橋 章子, 工藤 小織, 畝本 恭子, 横堀 將司
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 34 巻 2 号 p. 101-104
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー
    症例は1歳4カ月の男児。高さ160cmの滑り台の上より墜落して受傷,頭部単独外傷であった。来院時,意識レベルGCS(Glasgow Coma Scale)-4(E1V1M2)で瞳孔は両側5mmに散大し,対光反射も消失していた。全身麻酔を導入した時点で瞳孔不同(右5mm,左3mm)となった。頭部CT検査では正中偏位を伴う右急性硬膜下血腫を認め,脳挫傷などの実質損傷は軽微と判断し,初療室で直ちに穿頭血腫除去術を行った。硬膜を切開すると漿液性の硬膜下血腫が噴出し,血腫排液後に脳の著明な膨隆はなく,硬膜下ドレーンと頭蓋内圧センサーを留置して手術を終了した。術後は小児集中治療専門病院へ転院し,頭蓋内圧モニタリング下に集中治療を継続した。一時は左上下肢軽度麻痺を認めたものの,受傷34日目に明らかな神経学的異常所見なく独歩自宅退院となった。退院後の認知・運動機能は年齢相応であり,成長・発達にも特記すべき異常はなく経過している。小児の急性硬膜下血腫においては早期の自然吸収例も報告されているが,今回のように来院時に両側瞳孔散大であった症例はまれである。本症例は積極的治療を行った結果,転帰良好であった。両側瞳孔散大症例は救命困難であり手術適応外と判断されることも多いが,本症例のように予後不良と判断される症例の中にも,救命可能さらに良好な転帰症例も存在する。とくに小児の発症まもない症例では可及的速やかに穿頭血腫ドレナージなどの治療を行うべきである。
  • 平川 薫, 堂村 祐太, 名越 秀樹
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 34 巻 2 号 p. 105-110
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー
    【はじめに】当院で経験した小児の脳死下臓器提供において,医療ソーシャルワーカー(MSW)兼院内移植コーディネーター(院内移植Co)として対応した家族支援を振り返り,考察する。【事例紹介】患者は自宅より心肺停止状態で当院に救急搬送となり,低酸素脳症の診断で入院となった10歳以上15歳未満の男児である。集中治療を継続するも脳死とされ得る状態となり,家族からの臓器提供の意向があった。救急搬送直後より筆者がMSWとして介入し,院内移植Coとして臓器提供の院内体制を整え,臓器提供まで家族支援を行った。【結果】家族支援として,①家族の心理的不安の支援,②院内体制の構築,③患児家族と医療スタッフ・日本臓器移植ネットワークコーディネーター(JOT Co)・都道府県コーディネーター(都道府県Co)との調整,④経済的サポート,⑤家族のニーズや希望の把握を実施した。【考察】臓器提供施設では,家族支援に対する院内体制の整備を行う必要がある。平時から院内外の多職種と連携し,家族に介入するMSWが果たす役割は大きいと考える。さらに,家族支援においては「家族ケアチーム」を設置し,各職種のケア・家族支援内容を共有する必要がある。【結語】MSW兼院内移植Coとして小児の臓器提供を経験した。家族・医療スタッフ・臓器提供にかかわる職種と連携や調整を行い,家族支援を円滑に行うことができた。
  • 田中 学
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 34 巻 2 号 p. 111-114
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/26
    ジャーナル フリー
    日常的に気管切開や人工呼吸器管理に依存し,在宅で長期的にケアを受けている超重症心身障害児2症例を提示した。いずれも周産期やそれ以降の時期に生命的な危機を乗り越えた児であり,さらに全身状態が安定したといっても常に急変が生じるリスクと隣合わせにいる。その子どもたちの状態安定のためにはいくつもの前提条件があり,相当な部分を家族に委ねている。医療者は慢性期や急性期の場においても,ベストサポーティブケアを心がける必要がある。
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