脳死・脳蘇生
Online ISSN : 2435-1733
Print ISSN : 1348-429X
32 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 小野 元, 田中 雄一郎, 加藤 庸子
    原稿種別: 総説
    2020 年 32 巻 2 号 p. 46-51
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/08/11
    ジャーナル フリー
    終末期における臓器提供に対する意思確認の際には,医師等による選択肢提示(もしくはオプション提示)が必要であり,少なくともその意義は医療者に理解されつつある。しかし救急現場で多く経験する臓器提供の実際には,多くの医療スタッフの時間や労力を要し,日常業務に支障をきたすことは多い。治療説明を行う医師がそのまま臓器提供への選択肢提示を実施することは「手のひらを返すようなこと」とも言われ,家族からの信頼が失墜するのではないかという疑念や違和感,抵抗感を感ずることも少なくない。さらに,臓器提供の可能性についてどのように説明するかは簡単ではなく,そのためにいくつかの施設では,選択肢提示の工夫や主治医の負担軽減策を実施している。今回は選択肢提示について当施設の方法を含めて文献的考察を行った。
症例報告
  • 沖 修一, 荒木 攻, 荒木 勇人, 鮄川 哲二, 江本 克也, 渋川 正顕, 加納 由香利, 野坂 亮, 太田 雄一郎
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 32 巻 2 号 p. 52-57
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/08/11
    ジャーナル フリー
    【目的】家族の臓器提供承諾にもかかわらず,臓器提供に至らなかった2例を報告する。【症例1】41歳,男性。現病歴:右被殻出血,脳室穿破により意識消失し,救急搬送された。経過:意識はJCS(Japan Coma Scale)200であり,瞳孔は3mm正円同大で,直接対光反射は消失していた。同日両側脳室ドレナージ後に急激な血圧低下,両側瞳孔散大を認めた。入院翌日に家族より臓器提供の申し出があった。提供拒否の意思表示確認ができなかった。心停止下臓器提供を行う方針とし,入院後2日目に臨床的脳死判定を行った。大腿動脈カニュレーション準備中に,会社から臓器提供を行わないと記載した健康保険証が届けられた。【症例2】66歳,男性。現病歴:前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血にて入院した。意識清明であった。経過:入院翌日にコイル塞栓術を試みたが成功しなかった。入院後2日目に腰髄ドレナージを施行した。入院後3日目にクリッピングを行った。術中破裂をきたし,すでに脳血管攣縮をきたしていた親血管を一時遮断した。術後に両側前大脳動脈領域を中心とした脳梗塞をきたし,入院後5日目にJCS300となり外減圧術を施行した。入院後15日目に脳死とされ得る状態を確認した。家族に脳死下臓器提供の選択肢提示を行い,了解された。コーディネーターに連絡後,各種委員会を開催した。脳死判定,臓器摘出の同意書を取得後,感染症検査を提出した。その後HTL-V1抗体陽性が判明した。【まとめ】①意思表示記載可能な書類すべてを,時間をかけても可能なかぎり確認することが重要である。②臓器提供のための感染症検査をコーディネーター到着後に提出したことは適正であった。
資料
  • 山田 哲久, 名取 良弘, 熊城 伶己, 三股 佳奈子, 松元 宗一郎, 香月 洋紀
    原稿種別: 資料
    2020 年 32 巻 2 号 p. 58-61
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/08/11
    ジャーナル フリー
    [Purpose] Our hospital is the only emergency and critical care center in the region serving a population of 420,000. The number of emergency transports is 7,000-7,500 annually, and the number of cardiopulmonary arrest cases is 250-300. Early intervention is necessary to return of spontaneous circulation in patients with cardiopulmonary arrest. Herein, we analyzed the transition of treatment interventions by emergency medical service paramedics annually and examined pre-hospital interventions for return of spontaneous circulation before arriving at the hospital.
    [Methods] We included 2,010 adults with out-of-hospital cardiopulmonary arrest between 2011 and 2018. We conducted an annual review on the following aspects: number of cases per year, rate of return of spontaneous circulation before arrival at hospital, rate of bystander witness, rate of bystander cardiopulmonary resuscitation, rate of cardioversion by paramedics, rate of securing venous access by paramedics, rate of adrenaline administration by paramedics, and rate of advanced airway management by paramedics.
    [Results] The number of cases remained approximately 250, and the rate of return of spontaneous circulation before arrival at the hospital increased. As for treatment by a paramedic, the cardioversion rate remained unchanged at 10-15%, and the venous access rate and adrenaline administration rate increased. There was no change in the rate of advanced airway management, and it remained at approximately 10%.
    [Conclusion] To return of spontaneous circulation before arriving at the hospital, it was considered for the paramedic to perform venous access and administer adrenaline.
  • ─脳蘇生への取り組みを中心に─
    小畑 仁司, 黒田 泰弘, 永山 正雄, 田原 良雄, 菊地 研, 野々木 宏
    原稿種別: 資料
    2020 年 32 巻 2 号 p. 62-67
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/08/11
    ジャーナル フリー
    心停止後患者の救命率と社会復帰率を高めるためには,質の高い救命の連鎖を遅滞なく実践する必要がある。「二次救命処置と心拍再開後の集中治療」の向上を図るため,日本循環器学会・日本蘇生協議会が中心となり,PCAS(post cardiac arrest syndrome)トレーニングセミナーが展開されている。2014年,第17回日本脳低温療法学会に併設して実施された本セミナーは,心拍再開後ケアの標準化とチーム医療をテーマとし,以後,2019年1月末まで計12回のコースが開催されている。受講者は毎回約40名で職種は医師,看護師,臨床工学技士が対象である。学習項目は心拍再開後の「呼吸管理」「適切な循環補助(PCPS)」「適切な体温管理療法(低体温療法)」であり,2016年から新たに心拍再開後の「脳機能モニタリング」「神経所見の評価」が加わった。受講者は,各種の診断・治療機器を操作しながら実習し,心拍再開後や心室細動持続患者に対する集中治療をシナリオベースで体験する。本セミナーにおける心肺脳蘇生に関する取り組みを紹介する。
  • 安心院 康彦, 三宅 康史, 坂本 哲也, 横田 裕行
    原稿種別: 資料
    2020 年 32 巻 2 号 p. 68-73
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/08/11
    ジャーナル フリー
    【目的】2017〜2019年度厚労科研横田班「脳死下・心停止下における臓器・組織提供ドナー家族における満足度の向上及び効率的な提供体制構築に資する研究」で試作した「脳死下臓器提供に関する検証資料フォーマット」改訂案(以下,改訂案)について,2014年の同フォーマット(以下,2014年版)と比較した。【方法】WordTMファイルによる2014年版とExcelTMファイルによる改訂案について,フォーマットのデフォルトにおける,救急隊による病院前対応から脳死とされ得る状態までの診断の,①ページ数,②項目数,③総文字数を比較した。改訂案において検査値はカルテデータのコピー添付とした。【結果】2014年版,改訂版はそれぞれ,①ページ数が16:2,②項目数が70:81,③総文字数が9,600:2,500であった。【考察】改訂案では,検査データをカルテコピーとし,ExcelTMの表形式とすることにより,2014年版に比べて大幅にページ数と総文字数を減らすことができた。ExcelTMの利点として,①表にすることで,同時進行する項目同士の関係把握が容易となる,②縦横枠の項目により各セルに意味が付与され,入力文言の単純化が可能になる,③プルダウンメニュー等が利用できる,があげられた。【結語】本改訂案により,脳死下臓器提供施設による検証資料フォーマットの作成,ならびに厚生労働省の脳死下での臓器提供事例に係る検証会議の負担軽減が可能になると考えられた。
特別寄稿
  • ─移植医から見た臓器提供・摘出の現状─
    杉谷 篤
    原稿種別: 特別寄稿
    2020 年 32 巻 2 号 p. 74-85
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/08/11
    ジャーナル フリー
    「脳死は人の死か」という命題は,1968年の和田心臓移植によってもたらされた臓器提供・移植に関する最大課題であった。医学界の自らの手で解明されることはなく曖昧なままで,払拭し難い医療不信を国民に抱かせることになった。移植医と移植医療に対する批判は峻烈を極め,1997年の臓器の移植に関する法律(臓器移植法)成立,13年後の同法改正のときも,法学,倫理学,宗教学,文化人類学にわたる専門家をはじめ,患者とその家族から一般国民を巻き込む論争になっている。
     医療行為は患者・医師の信頼関係に基づく裁量権の行使で成立している。わが国における法的脳死判定後に「生き返る」事例は限りなくゼロに近い。私は移植医として,臓器摘出手術の執刀をするのは「ドナーが死んでから」である。「人はいつ死ぬか」という命題を議論するとき,医療にかかわる問題は,法律,宗教,文化などの人間の営みにかかわる深い造詣が必要であるが,最終的には医師というプロ集団で決定されなければならないと思う。
     臓器提供システムの整備や提供シミュレーションも重要であるが,医療分野の専門家がこの最大命題に対する答えを見出す努力をして移植医に教えていただきたい。医学界が真相究明に一致団結できなかった和田心臓移植の悔恨を二度と繰り返さぬことを希望する。
座談会
feedback
Top