心理学研究
「心理学研究」は1926年に創刊され,隔月刊行(年6冊,4,6,8,10,12,2月)1年1巻とし,総頁約600頁で,原著論文,研究資料,研究報告,展望論文,会報欄があります。

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収録数 5,280本
(更新日 2024/10/11)
Online ISSN : 1884-1082
Print ISSN : 0021-5236
ISSN-L : 0021-5236
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優秀論文賞授賞論文
94 巻 (2023) 5 号 p. 402-412
成功時の誇り・羞恥経験の文化差に対する関係流動性の媒介効果 もっと読む
編集者のコメント

2024年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文
本論文は,他者の面前での成功時に喚起する感情の文化差の理由を社会生態学的アプローチの観点から捉え,検討したものである。先行研究において,西洋文化では他者の面前での成功時には誇りを,東アジア文化では羞恥を感じやすいことが示されているが,文化的自己観の違いに基づいたその説明には感情の適応機能への言及がなく,他の文化差研究との理論的一貫性が欠如していた。本研究では,対人関係の形成や解消の自由度を意味する関係流動性に注目し,この知覚の違いが成功時の羞恥と誇りの日米差を媒介するか,さらに成功者に社会から与えられる報酬や罰の信念がこの関係性を媒介するかを検討した。その結果,成功時の羞恥の日米差は,関係流動性の低さとそれに伴う成功罰信念によって媒介されることがわかった。一方で,誇りの日米差を関係流動性の高さと成功賞信念によって説明する間接効果は,正の相関を示したが有意傾向であった。これらは,自己意識的感情の機能と社会生態学的環境の両面に注目した理論に対する実証的証拠として,感情研究及び文化心理学への理論的な貢献を持つ。本研究は明快な論理展開に基づいており,研究の意義とともに,限界点や今後検討すべきことについても体系立てて言及されている。これらの点で論文としての完成度が高く評価され,本論文が優秀論文賞に相応しいと判断された。なお,本研究で作成された誇り・羞恥の仮想的場面や,成功賞罰信念尺度には妥当性の検討が不足している点も指摘され,これらについては今後の研究が俟たれるところである。

94 巻 (2023) 6 号 p. 462-472
組織におけるチームワークの影響過程に関する統合モデル もっと読む
編集者のコメント

2024年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文
本研究は,企業組織におけるチームワークの過程を,チームレベルで検討したものである。著者らは,チームワークについての基礎的なモデルであるInput-Process-Output (IPO) モデルと,課題遂行機能と関係維持機能の相乗効果というリーダーシップ行動論の古典的モデル(三隅のPM理論)の両方を実証的に検討した。分析対象は,21の企業組織に所属する812チーム,計5,728名のデータという大規模なものであり,マルチレベル分析を用いてチームレベルの分析が行われた。まずIPOモデルに基づき,チーム・リーダーシップを先行要因,チーム・プロセスを媒介要因,チーム・パフォーマンスを結果要因としたチームワークのモデルを検証し,その妥当性を確認した。さらに,課題志向と関係志向というリーダーシップの2側面がともに高い場合,チーム・プロセスやチーム・パフォーマンスが高くなるという相乗効果が見られた。本研究で検証された古典的なモデルは非常に影響力がある一方で,実際の企業組織の現場における,チームレベルでの実証的論拠は限られていた。本研究は,これらの古典的な理論を実証的に検討していることが,特に高く評価できる。これを可能にしたのはチームレベルでの大規模データである。ネット調査技術の進展もあり,数千人規模の調査データは心理学でも珍しくなくなりつつあるが,本研究は企業組織・チーム・個人というネスト構造を保有するデータを収集している。これにより,古典的理論の新たな(そして適切な)検証が可能となった。また,著者らの研究チームはこれまでにチームの影響過程についての研究成果を蓄積してきており,本論文ではそれらの知見を踏まえた上で,リーダーシップを先行要因として加えることで,新たな発展を遂げている点も評価できる。これらの理由から,本論文は優秀論文賞にふさわしいと判断した。

92 巻 (2021) 1 号 p. 12-20
態度が相反する他者への過度なバイアス認知を錯視経験が緩和する効果 もっと読む
編集者のコメント

2022年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文
近年は,SNS等を通じて,多くの他者の意見を目にすることができる。意見の異なる他者への攻撃が目に触れることもある。本論文は,自身と態度の異なる他者に対して,「バイアスがかかった見方をする人だ」と考えやすいというバイアス認知を扱っており,社会的にも広く関心を集める研究であるといえよう。このようなバイアス認知の緩和策としては,当該の現象や態度についての理解を深めるなどの方法が思い浮かぶが,著者は,錯視を見せるという独創的な方法を用いている。自分の認知が客観的事実を反映していると信じる傾向が,バイアス認知の原因の1つとされているためである。実験では,参加者が関心を持つ社会問題について,自身と同一態度あるいは相反態度の他者を想起させ,その他者についてのバイアス認知を測定した。その前に,静止画が動いて見える錯視を紙上で見せる条件,錯視をモニター上で見せる条件,錯視ではない画像を紙上で見せる統制条件を設定した。実験の結果,錯視を紙上で見せた場合にのみ,自身と態度の相反する他者についてのバイアス認知が低かった。モニター上で見せる条件ではこの効果が得られなかったことも興味深い。モニター上で画像が動いて見えても,自分の知覚が不確かであるとは感じにくいためである。これらの結果を併せると,自身の知覚の不確かさに直面する体験がバイアス認知を緩和させたと解釈できる。このように,本論文は,他者に対するバイアス認知という現象を扱いつつ,一見,それとは関連を想像しにくい錯視を緩和策として用いるというユニークな着想,そして,それを実証する精緻な実験計画が高く評価され,優秀論文賞にふさわしいと判断された。

91 巻 (2020) 1 号 p. 23-33
指先が変える単語の意味 もっと読む
編集者のコメント

2021年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文
本論文は,スマートフォンの日常的な長期使用が,フリック入力の反復を通して,文字,無意味単語,実在する有意味単語の感情価を変化させることを報告している。著者は,フリック入力における下向きと上向きの親指の動きが,それぞれ手前へと奥への運動であることに注目し,下フリックは接近,上フリックは回避の運動として捉えることができると考えた。接近運動はポジティブな感情と,回避運動はネガティブな感情と結びつくと論じた先行研究に基づき,入力時に下フリックを多く含む単語はポジティブな感情価を,上フリックを多く含む単語はネガティブな感情価を相対的に帯びることになると仮定し,このフリック効果の存在を5つの研究によって検証した。まず,フリック入力が実際に1.5cm以上の指の空間移動を伴うことを確認し(研究1),続いて,ひらがな清音46文字(研究2),782の無意味単語(研究3,研究4),978の単語(研究5)の感情価の評定を計1,500名以上の参加者に求めた。その結果,一貫して,フリック効果が確認され,また,この効果がスマートフォン未使用者には見られないことから(研究4,5),フリック入力と感情価変動の関係が強く示唆された。俄には信じ難い興味深い結果が,膨大な刺激数と十分なサンプルサイズの研究によって繰り返し再現される様は,科学的探求の醍醐味を教え,「良くも悪くも人間の心理は道具依存的でもある」という最終段落の一文を導く論考の精緻さは,爽やかな知的興奮を読後に残す。たとえ小さな影響でも,日常的に何百回と繰り返されることで蓄積され,検出可能となること,このような過程を経て,新しいテクノロジーが人間の心に影響を与え得ることを示した本論文は,新規性,独創性,研究手法の厳密さ,丁寧な考察が高く評価され,優秀論文賞にふさわしいと判断された。

90 巻 (2019) 3 号 p. 252-262
なぜ非行集団に同一化するのか もっと読む
編集者のコメント

2020年度 心理学研究掲載 優秀論文賞受賞論文
少年犯罪において,非行集団への同一化は非行リスクを高める一因となる。そのため,非行集団への同一化を規定する要因を検討することは,非行の抑止にとって重要である。本論文は,非行集団への同一化を規定する要因として,非行少年の差別経験と集団境界透過性(個人が社会的カテゴリー間を移行可能であると期待する程度)に注目した。少年鑑別所に入所していた男子少年を対象とした調査が行われた。その結果,同級生,教師や警察,地域住民から差別を受けたことがあると感じている少年は,差別を受けたことがないと感じている少年よりも非行集団への認知的同一化が高くなっていた。また,教師や警察から差別を受けたことがある場合,集団境界透過性が低い(非行集団から別な集団への移行可能性がない)少年は,集団境界透過性が高い少年よりも,集団への同一化が高くなっていた。本研究の特筆すべき点として,少年鑑別所に入所していた男子少年を調査対象者としているというデータの貴重さが挙げられる。また,非行少年の属性や内的要因ではなく,差別や集団境界透過性といった非行少年を取り巻く環境に注目している点も特筆すべき点である。そのため,考察で述べられた非行への再統合的な非難の表明や少年の居場所づくりといった非行抑止の対策が説得力を持ち,大きな実践的示唆を提供するものとなっている。本論文はこれらの点が評価され,優秀論文にふさわしいと判断された。

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