基礎理学療法学
Online ISSN : 2436-6382
最新号
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原著
  • 米野 萌恵, 野木 康陽, 伊藤 貴紀, 宇佐美 優奈, 国分 貴徳
    原稿種別: 原著
    2025 年28 巻1 号 p. 1-11
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/12
    [早期公開] 公開日: 2025/01/07
    ジャーナル フリー

     アキレス腱断裂後は損傷側の底屈筋力低下が残存し対側同等には戻らないことが最大の課題である。この要因は,腱の瘢痕治癒による力伝達機能低下,腱延長に伴う筋張力低下が挙げられるが,これらと腱のメカノバイオロジー機構との関係性は未解明のままであり,理学療法戦略の確立を阻んでいる。本研究では,関節固定と筋麻痺により腱が受容するメカニカルストレスを制御したマウスモデルを用い,アキレス腱断裂縫合術後における腱への伸長負荷を減らすことが腱延長や強度回復,コラーゲン成熟にもたらす影響を検証した。筋収縮が維持されたマウスは術後4週で腱長比率・強度が,非術側と同等に戻る一方,筋収縮が阻害されたマウスでは,腱の強度が劣ったままであり,腱長比率が非術側より延長することが明らかとなった。アキレス腱断裂術後早期における腱への除荷,特に筋収縮の制限が腱の構造変化をもたらし,永続的な筋力低下の要因となることを示唆した。

  • 桑原 大輔, 國木 壮大, 梅原 拓也, 木藤 伸宏
    原稿種別: 原著
    2025 年28 巻1 号 p. 12-22
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/12
    [早期公開] 公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,内側広筋(以下,VM)と外側広筋(以下,VL)における運動単位の活動パターンが,性別で異なるか検証することとした。17名の若年健常者(男性9名,女性8名)に対して,等尺性最大膝伸展筋力の60%を目標とした台形収縮課題を実施した。課題中のVMとVLから得られた筋電図波形を,個々の運動単位由来の活動電位に分解し,活動電位振幅(以下,MUAPAMP)と発火頻度(以下,MFR)を求めた。また,膝伸展トルクデータから各運動単位の動員閾値(以下,RT)を求めた。MUAPAMPは,4つの各電極から,整流化されたテンプレート波形の最大振幅を平均した値を使用した。MFRは台形収縮課題中のプラトー期間前半1/4(5.0秒)における発火間隔の逆数を用いた。運動単位の活動パターンは,縦軸にMUAPAMPまたはMFR,横軸にRTを被験者ごとに散布して得られた回帰直線の傾きと切片で示した。MUAPAMP-RTの切片の値は,女性よりも男性,VMよりもVLで高く,性別要因と筋別要因で有意な主効果を示した。MUAPAMP-RTの傾きは,女性よりも男性で急であり,性別要因で有意な主効果と大の効果量を示した。MFR-RTの切片は,男性よりも女性,VLよりもVMで高く,性別要因と筋別要因で有意な主効果を示した。MFR-RTの傾きは,男性ではVM,女性ではVLで緩やかな傾向にあり,性別で異なるVMとVLの運動単位の活動パターンを示し,性別要因と筋別要因による有意な交互作用を示した。これらの結果は,若年健常者における健全な運動単位の活動パターンを示すとともに,病態特異的な運動単位の活動パターンの違いについて把握するには,性別や個々の筋の違いに考慮する必要があることを示唆するものである。

  • 髙木 武蔵, 中尾 健太郎
    原稿種別: 原著
    2025 年28 巻1 号 p. 23-31
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/12
    [早期公開] 公開日: 2025/06/14
    ジャーナル フリー

    【目的】全介助患者の状態の変化を反映できる評価表を開発し,その妥当性と信頼性および褥瘡リスク予測への有用性について検証すること。【方法】開発した評価表を用いて当院入院患者の評価を行い,STAPとFIMの相関分析,3ヵ月後の評価結果の変化の分析および因子分析,検者間信頼性の検討,褥瘡の有無に対するロジスティック回帰分析を行った。【結果】3ヵ月間でFIMでは18点から不変だった症例の63.7%にSTAPの点数の変化を認めた。因子分析ではSTAPは「四肢可動域」「肢位変化の介助量」「覚醒状態」を評価していると解釈された。また検者間信頼性は級内相関係数0.86,カッパ係数0.95~0.99と高値を示した。ロジスティック回帰分析の結果はオッズ比0.83(p=0.04)であった。【結論】STAPは全介助患者の心身機能や介助下での動作能力の変化を鋭敏に反映することや,検者間信頼性が高いことが明らかになった。またSTAPの合計点は褥瘡リスクの予測に有用である可能性が示唆された。

短報
  • 杉本 諭, 坂戸 孝志, 中山 知之, 古山 つや子, 古井田 真吾, 尾嵜 亮
    原稿種別: 短報
    2025 年28 巻1 号 p. 32-38
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/12
    [早期公開] 公開日: 2025/04/01
    ジャーナル フリー

    【目的】緩消法による筋緊張の緩和効果を検証し,緩和に最適な押圧力と押圧面積および個人特性との関連について分析すること。【方法】健常成人39名を対象とした。緩消法は対象者に端座位での随意的な体幹の側屈運動を5分間指示し,運動中に右腰背部に押圧棒を当てて行った。押圧力条件は,押圧なし,250g,500g,750g,1,000gとした。押圧面積条件は,押圧棒の押圧部の先端の直径が1cm,2cm,3cmとした。腰背部の筋硬度を運動前後で測定し,測定値および前後比を用いて条件内および条件間で比較した。加えて性別,BMI,運動前の筋硬度の影響についても分析した。【結果】押圧力条件別の前後比較では,押圧なしを除く4条件において運動後の測定値が有意に低下し,条件間の比較では,500gおよび750gの前後比が250gよりも有意に低下した。押圧面積条件別の前後比較では,いずれの条件においても運動後の測定値が有意に低下し,条件間の比較では,1cmおよび2cmの前後比が3cmよりも有意に低下した。性別,BMIおよび介入前の筋硬度は前後比と関連がなかった。【結論】緩消法による筋緊張の緩和効果がもっとも得られる条件は,押圧力が500~750g,押圧部の面積が直径1~2cmの場合であり,性別や体型の影響を受けなかった。

総説
  • 廣野 哲也
    2025 年28 巻1 号 p. 39-43
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/12
    [早期公開] 公開日: 2025/11/05
    ジャーナル フリー

    最大筋力や力の制御に関与する因子として,骨格筋の形態特性の他に神経特性も重要な因子である。高密度表面筋電図と特殊数理アルゴリズムを用いることで,神経系の最終経路として骨格筋に指令を伝達する運動単位のふるまいを調べることができる。地域在住高齢者の運動単位の特性と1年後の筋力変化がかかわることや,運動単位の発火特性が骨格筋量の減少と関連することなどが明らかとなってきている。低負荷トレーニングの効果を調べた際,骨格筋で適応変化を検出できなくても,運動単位の発火特性には軽微な適応変化を認め,運動による神経系への影響も詳細に検証できるようになってきた。さらに運動単位のふるまい変化を調査することで,骨格筋収縮特性の日内変動や収縮様式による急性変化など,詳細な神経筋系の機能を明らかにすることが可能となってきている。運動単位のふるまいを評価することが,筋力増加や筋力制御など神経筋機能を紐解いていくことを可能としてきている。

  • 伊藤 祐規, 森下 竜一, 武田 朱公
    2025 年28 巻1 号 p. 44-49
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/12
    [早期公開] 公開日: 2025/11/06
    ジャーナル フリー

    糖尿病はアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)の発症リスクを高めることが知られている。ADを特徴付ける脳内病理像の1つである神経原線維変化は,主にリン酸化タウ蛋白から構成され,その蓄積量が認知機能障害の重症度と相関する。そのことから,リン酸化タウ蛋白はADの発症において重要な役割を果たすと考えられている。筆者らはこれまで,糖尿病合併ADマウスモデルを用いて,糖尿病によるADの発症リスク増加の基盤にある分子メカニズムについて解析してきた。その結果,糖尿病合併ADマウス脳内におけるタウ蛋白の特徴的なリン酸化パターンや,それに関与する可能性のある6種類のキナーゼが明らかになった。これらの結果は,タウ蛋白のリン酸化が糖尿病とADをつなぐメカニズムの1つであることを示唆する。本総説では,タウ蛋白のリン酸化に焦点を当てて,糖尿病によるADの病態修飾メカニズムについて概説する。

  • 大津 創
    原稿種別: 総説
    2025 年28 巻1 号 p. 50-55
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/12
    [早期公開] 公開日: 2025/11/07
    ジャーナル フリー

    歩行は日常生活に必要不可欠だが,加齢に伴い歩行中の転倒リスクが増加する。特に,高齢者の転倒は重症につながる可能性が高いため,高齢者の転倒防止は,現代社会における喫緊の課題である。高齢者は若年者と比較して蹴り出し力が低下し,その背景には足関節底屈筋のパワー低下を下肢近位筋の動員増加で補う神経筋代償が存在する。しかし,この代償が歩行の不安定化を招く要因となる可能性が指摘される一方で,その力学的メカニズムは十分に解明されていない。この問題に対して,コンパス型モデルや膝付きモデルなどのシンプルモデルは,複雑な筋骨格系を単純化することで歩行運動の本質を直感的に捉え,蹴り出し力の低下やminimum toe clearanceに関連するつまずきリスクの力学的基盤を説明するうえで有効である。本稿では,これらの抽象化モデルから得られた知見を概観し,高齢者の歩行研究における学術的意義と今後の展望について論じる。

  • 八木 優英
    原稿種別: 総説
    2025 年28 巻1 号 p. 56-60
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/11/12
    [早期公開] 公開日: 2025/11/08
    ジャーナル フリー

    腸脛靭帯(ITB)の硬さは多くの膝関節疾患でみられるが,その病態特異性や治療法には不明な点が多い。本稿では,超音波せん断波エラストグラフィを用いた一連の研究に基づき,変形性膝関節症(膝OA)および膝蓋大腿関節痛(PFP)におけるITBの硬さの特徴を明らかにし,スタティックストレッチングによるITBの硬さへの治療の可能性を論じる。研究の結果,膝OA患者ではITBが硬化し,歩行時の外部膝関節内反や股関節伸展モーメントと関連することが明らかとなった。PFP患者ではITBの過剰な張力が膝蓋骨の外側偏位と関連することが示された。また,5分間のスタティックストレッチングがITBの硬さを急性に低下させ,膝蓋骨アライメントを改善し得ることが示された。ITBの硬さは膝関節疾患で特徴的で,ストレッチングは治療選択肢となり得るが,今後は患者を対象とした長期的な効果検証や,より汎用性の高い客観的評価指標の確立が課題である。

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