本研究では,ストレッチ(以下,STR)が,脱神経(以下,DEN)後早期における骨格筋の興奮性低下に及ぼす影響を検討した。Wistar 系雄性ラットをDEN 群およびDEN+STR 群に分け,それらの左側の坐骨神経を切離した。また,DEN+STR 群においては,DEN 側の足関節を背屈位60 度で固定することで,底屈筋に対しSTR を負荷した(0.5 あるいは12 時間/ 日,計2 日間)。DEN 群では,底屈筋のクロナキシーが著しく増大するとともに,運動終板面積の低下,アセチルコリンエステラーゼおよびペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ 共役因子-1α のmRNA 発現量の減少,スキンドファイバーにおける脱分極誘発性張力の低下が観察された。一方,STR は,これらの内,クロナキシーおよび運動終板面積の変化を抑制した。したがって,STR によるメカニカルストレスは,DEN 後早期に生じるシナプス後部の機能障害を抑制することで,骨格筋の興奮性低下を軽減することが示唆された。
【目的】高齢者の転倒の特徴を明らかにするために,高さに対する認識能力の加齢変化を,課題を認識する段階での認識誤差と,動作時の自己の身体位置の認識誤差の2 つの観点から検討することとした。【方法】対象は若年者10 名と高齢者12 名とした。15 cm,20 cm,25 cm の3 種類の高さをそれぞれ注視させ,認識した高さを下肢挙上運動で再現する課題(以下,LEG 条件),検者が床面から上げていくバーを口頭指示で止めて高さを再現する課題(以下,STICK 条件)を用いて高さの認識能力を評価し,これらを条件間,若年者と高齢者間で比較した。【結果】15 cm,20 cm,25 cm それぞれの高さで,若年者,高齢者ともにSTICK 条件よりLEG 条件の誤差が有意に大きかった。若年者と高齢者間では,すべての高さで高齢者はLEG 条件の誤差が有意に大きく,STICK 条件では有意差を認めなかった。【結論】高齢者も若年者も,高さの認知は問題ないが,下肢での高さ再現課題で誤差が生じ,加齢によりその影響が大きくなることが明らかとなった。
メカニカルストレス,特に荷重は関節軟骨の組織学的および機能的維持にとって必要不可欠とされる。しかしながら,臨床では様々な疾患の治療に付随して安静臥床が強いられ,下肢の荷重関節に対するメカニカルストレスが減少する。不動や不活動が骨格筋および骨に対して廃用性の組織学的変化を引き起こすことは広く知られている。同様に,関節軟骨においても非荷重環境が廃用性の組織学的変化を引き起こすことが基礎および臨床研究において報告され,2019 年には「関節軟骨の廃用性萎縮」として提唱された。この廃用性萎縮の主たる組織学的変化は菲薄化と基質染色性の低下であり,我々はラット後肢非荷重モデルを使用し,4 週間の非荷重環境が脛骨の関節軟骨に廃用性萎縮を引き起こすことを報告した。本稿では我々の研究グループが取り組んできた関節軟骨および変形性関節症に関する知見と現在進行中の研究経過について紹介させていただく。
変形性股関節症は股関節痛に加え,関節可動域・下肢筋力・日常生活動作能力・生活の質の低下を伴う代表的な整形外科疾患である。しかしながら,変形性股関節症の進行を遅延させるエビデンスは十分には確立されていない。我々は,動作中の股関節の負荷の指標として股関節モーメントインパルスに着目し,歩行中の股関節内・外転モーメントインパルスと立ち上がり動作中の股関節伸展モーメントインパルスを検討した。歩行に関して,対側杖の使用により股関節内・外転モーメントインパルスが減少すること,および歩行速度の低下に伴い股関節内・外転モーメントインパルスが増加することを明らかにした。また,立ち上がり動作に関して,立ち上がり時間の減少に伴い股関節伸展モーメントインパルスが減少することを明らかにした。我々の知見は,股関節内・外転モーメントインパルスが低い(または高い)歩行パターン,および股関節伸展モーメントインパルスが低い(または高い)立ち上がり動作パターンを理解するために役立つと考える。さらに,我々の知見は変形性股関節症の進行を遅延させるために将来役立つ可能性があると考えられる。
筋力トレーニングによる筋力向上効果には特異性が存在する。その中でもトレーニングを実施した関節角度に限局して筋力向上効果が得られることは関節角度特異性として知られている。この法則については多くの先行研究で検証されてきたが,その全てが高負荷を用いたトレーニングであった。我々は低負荷トレーニングにおいても同様に関節角度特異性が成立するかどうかを検証するために,足関節底屈等尺性,足関節底屈等張性,股関節外転等尺性の低負荷トレーニングを実施した。トレーニングの結果,筋力向上効果は関節角度特異性には従わないことが明らかとなった。一方で,超音波診断装置を用いて測定した筋束長はトレーニング条件と筋力が向上した条件で同等であることが明らかとなった。これは筋力が関節角度ではなく筋束長に特異的に向上したことを示唆する結果と考えられた。筋力が筋束長に依存して向上するという新たな仮説を我々は筋束長特異性として提唱した。
脊髄相反性抑制(以下,RI)は円滑な関節運動や歩行を行うための重要な機能であり,3 つの抑制経路(Ia 相反抑制,D1 抑制,D2 抑制)が関与している。これらの抑制経路を介して,RI は拮抗筋の過剰な筋収縮を抑制し,協調運動を可能にする。上位運動ニューロン障害患者と高齢者(加齢)では,RI の機能低下を引き起こし過剰な同時活性を引き起こす。そこで,近年,過剰な同時活性を抑制し協調運動や歩行の機能を向上させるために,RI を増強させる研究が多く報告され注目されている。その中で,脳刺激と末梢刺激はRI を増強させる効果的な介入法である。本研究では,補足運動野刺激と反復的他動運動に着目した。各介入法において,RI 増強は以前の研究よりも短い介入時間で観察することができ,介入後効果も持続した。これらの介入法は簡便で安価であり,過剰な同時活性を減少させることから,波及効果が高く,リハビリテーションに適用できると信じている。
2 つの課題を同時に行うと課題成績は低下する。二重課題干渉と呼ばれるこの現象は,転倒の一因にもなっており,我々理学療法士にとって解決すべき問題の1 つである。二重課題干渉の発生を抑える方法としてこれまで,二重課題を反復する「二重課題トレーニング」が一般的に用いられてきた。しかし,この方法では,反復した二重課題以外で二重課題干渉の抑制効果を生じにくいことも示唆されており,使用には注意を要する。本稿では二重課題トレーニングが抱える問題点を踏まえたうえで,二重課題トレーニングの効果的な実施方法を検討する。さらに,二重課題干渉を抑制する新たな方法として「経頭蓋直流電気刺激」と「特定の認知課題を反復する方法」を紹介し,これらの方法の可能性について言及する。
Medial tibial stress syndrome(以下,MTSS)は脛骨内側骨膜と筋膜の結合部の微細損傷と考えられており,MTSS 好発部位には長趾屈筋がヒラメ筋よりも高い割合で付着する。したがって,MTSS の発症には足趾底屈筋の機能や筋の硬さなどの力学的特性が関連する可能性があると考えられる。また,MTSS のリスク因子としてMTSS 既往歴が挙げられることから,既往者には再発を起こしやすい何らかの身体的要因がある可能性がある。我々は新規に開発した足趾底屈筋力測定装置およびせん断波エラストグラフィを用いて,下肢に疼痛を有さないMTSS 既往者の筋力および筋硬度の特徴を横断的に検討した。その結果,MTSS 既往者では長趾屈筋および後脛骨筋が硬く,第1 MTP 関節底屈筋力が大きいことが示された。これらの結果はMTSS と長趾屈筋および後脛骨筋の硬さの関連と,それに伴う代償的な第1 MTP 関節底屈筋力の増加を示唆している。
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