日本緬羊研究会誌
Online ISSN : 2186-1013
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2019 巻, 56 号
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研究報文
  • 田原 岳 , 山口 隼, 高橋 幸水, 野村 こう, 米澤 隆弘, 古川 力
    2019 年 2019 巻 56 号 p. 1-11
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2023/09/20
    ジャーナル オープンアクセス

    マンクス・ロフタンはマン島原産の希少めん羊品種である。わが国ではマンクス・ロフタンは少数個体が導入され,その後も小集団で維持されてきたため近親交配による近交退化が危惧されている。本研究ではマイクロサテライト36 座位に基づく集団遺伝学的解析および血統情報に基づく統計遺伝学的解析により日本におけるマンクス・ロフタン集団の遺伝的多様性や近交配の程度を評価した。遺伝的多様性を算出したところ,日本におけるマンクス・ロフタンの遺伝的多様性は他のめん羊品種と比較して低いことが示された。これは,わが国において小集団で維持されているために起こった遺伝的浮動の影響によるものだと考えられる。遺伝的類縁関係を推定したところ,マンクス・ロフタンは日本で一般的に飼育されている家畜めん羊品種とは大きく異なる系統学的特性を有していることが示された。マンクス・ロフタンは他の家畜めん羊品種と同様にヨーロッパ原産であるが,本品種は特に北方短尾種に属し,他の品種とは家畜起源地からヨーロッパへの伝搬経路が異なっている可能性が示唆された。また,本研究の解析結果は,日本におけるマンクス・ロフタンは遺伝的に離れた個体を積極的に交配させることで近交度の蓄積を効果的に抑制していることが示されたが,同時に近交係数,血縁係数および共祖係数は年々上昇していることも示された。今後,日本におけるマンクス・ロフタンを維持・保存していくためには,各個体の遺伝子型情報も考慮に入れながら現在行っている交配方法を継続するとともに,国内で保管されている凍結精液の活用を視野に入れた交配計画を検討する必要があると提言する。

  • 角田 健司 , 山縣 高宏, 松山 高明 , 余 福紅, 熊 国庭, 秋 守菜, 趙 光, 陳 志, 盧 徐斌, 夏 海磊, 郭 佳, 張 ...
    2019 年 2019 巻 56 号 p. 12-23
    発行日: 2019/12/20
    公開日: 2023/09/20
    ジャーナル オープンアクセス

    中国の雲南高原で飼養されている蘭坪烏骨羊と香格里拉羊の由来・起源を究明するため,血液タンパク・非タンパク型5 システムの遺伝子座位(TF, ES, HB-β, XP, KE)の遺伝子頻度データを基にNei の遺伝的類似性と遺伝距離の評価,クラスター分析(NJ とUPGMA)および主成分分析(PCA)を試みた。タンパク型・非タンパク型システムの分析には各種の電気泳動法およびイオン測定法を使用した。これまでに調査された東・南アジア系の26 種の在来羊種および集団を比較対象にした。両羊種はHB-β座位のX 遺伝子とXP 座位のP遺伝子やHB-β座位のB遺伝子とKE 座位のL 遺伝子の2 つの組合せによる遺伝子相互の特異な頻度分布から北方系羊種に属する特徴が示された。これらの5 座位における蘭坪烏骨羊と香格里拉羊の平均ヘテロ接合体率は,それぞれ 0.3346 と0.4407 で,両者の遺伝的変異性はアジア羊種において通常の範囲に相当した。東・南アジア産の様々な羊種・集団間におけるNei の遺伝的類似性および遺伝距離では,蘭坪烏骨羊はヒマラヤ系の寧蒗黒羊と最も近縁であり,香格里拉羊は同羊との関係が比較的に強く,モンゴル・中国系との類似性の高いことが認められた。Nei の遺伝距離のマトリックスから推定されたNJ 法とUPGMA 法による無根と有根の枝分かれ図において,さらにPCA 法でも,蘭坪烏骨羊は寧蒗黒羊と同じ仲間で,ヒマラヤ系内で分岐していた。 一方,香格里拉羊は,NJ およびUPGMA で,それぞれ,モンゴル・中国系の近くで分岐し,そして,それらの系と共に1 つのクラスターを形成した。PCA においてはモンゴル・中国系とチベット系との間に分布した。よって,蘭坪烏骨羊は寧蒗黒羊と同族であり,香格里拉羊は,モンゴル系が主体で,それにチベット系が関与し,両者の交雑集団の可能性が示唆された。

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