本研究では、一組の自閉スペクトラム症児と母親とのシャボン玉遊び場面で観察された「吹く+見る-見られる」に着目し、対象児が「交替的やりとり」をするようになる過程、ならびにそれを通して自他が分化する過程を検討した。その結果、対象児の「交替的やりとり」は、自己主張や拒否と連関して成立することが明らかになった。一方、その過程は定型発達児とは異なり、「同時的二重性」を基盤に「役割交替」が成立した後に「継時的二重性」が成立することが示された。この結果を踏まえて、第一に「同時的二重性」が成立したことで、やりとりに手ごたえを感じるようになった母親が「誰が今、あるいは今度、吹くのか」を意識させる働きかけを強め、それにより対象児が役割交替を可能にしたと考察した。第二に、こうしたやりとりの経験は、対象児に行為主体として自分を、意図をもつ行為主体として母親を認識する契機となったと考えた。第三に、それが対象児の「継時的二重性」を増大させることにつながったと論考した。
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