高齢者のケアと行動科学
Online ISSN : 2434-0553
Print ISSN : 1880-3474
27 巻
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 社会福祉士の視点より
    桑原 一
    2022 年 27 巻 p. 13-20
    発行日: 2022/12/01
    公開日: 2022/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
    成年後見人等活動は財産管理と身上保護の法律行為とされているが,法律行為に伴う事実行為が存在するのである。特に身上保護事務を行う上では,成年後見人等は,成年被後見人等の生活のありように目を向け,生活,療養看護のために必要な支援を決定,準備,手配をし,本人の選択と決定を支援し,必要なサービスを利用したり,生活環境を整えるための手配や契約を行う。これを実施するためには,人と人とが向き合うケアの基本と同様に本人との面会や関係者との相談・調整は欠かせず,コロナ禍での面会禁止は成年後見人活動に大きな影響を与えた。今後もコロナ感染が増加・減少を繰り返すなかで面会制限が生じることを踏まえ,面接技法・技能を点検していかなければならない。加えて様々な場面での情報収集を行い,成年被後見人等の権利擁護を行い,社会福祉士として成年後見人等の活動を行っていくことが大切である。
  • 共分散構造分析による因果モデルの構築
    河野 理恵
    2022 年 27 巻 p. 21-38
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,準限界集落という地方集落に居住する高齢者の生活満足度を指標としたQOLに焦点をあて,それに関連する身体的,社会的,心理的な要因を用いて構造的モデルを検討することであった。愛媛県西宇和郡A町B地区に居住する65歳以上の高齢者に対して悉皆調査を行い,304名を分析の対象とした。前期高齢者は144名,後期高齢者は160名であった。多母集団分析を用いてパス図の検討を行った結果,前期高齢者と後期高齢ともに,主観的健康度が社会的なライフスタイルと他者との関係を介して,生活満足度を高めるとともに孤独感を低めていた。また,生活満足度と孤独感には負の関係が見られた。さらに,前期高齢者では主観的健康度が心理的なライフスタイルを介して生活満足度を高めていたが,後期高齢者では,主観的健康度が心理的なライフスタイルと他者との関係を介して,生活満足度を高めていた。本研究の結果から,準限界集落に居住する高齢者が生活満足度を向上させるためには,主観的健康度を高め,社会的な活動を行い,他者との交流をもつこと,心理的に前向きになること,及び孤独感を低減させることが重要であることが明らかになった。特に後期高齢者においては,他者との交流を実感することが必要であると示唆された。
  • 介護支援専門員へのインタビュー調査を通して
    中島 民恵子
    2022 年 27 巻 p. 39-49
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は独居認知症高齢者の在宅生活継続を困難とする生活上の課題を明らかにすることである。独居認知症高齢者に対するケアマネジメントを調査時点もしくは1年以内に経験している居宅の介護支援専門員9 名を対象にインタビュー調査を行った。調査時期は2019年2月~3月である。11事例の逐語録の分析を通して在宅生活継続を困難とする生活上の課題を検討した。 独居認知症高齢者の在宅生活継続を困難とする生活上の課題として,【生命の安全を脅かしうる危機】【セルフマネジメント能力の低下】【日常生活のほころび】【必要なサービスの直前キャンセルや拒否】【十分に頼れない家族との関係】【脆弱な近隣・友人との関係】が抽出された。独居認知症高齢者の在宅生活継続を困難とする生活上の課題として,認知機能の低下に関連する内容が多くみられた。それとともに,家族や近隣といった本人を取り囲む環境面が本人の在宅生活の継続の困難さに影響を与えている状況も明らかとなった。今後は,本調査結果を踏まえて独居認知症高齢者の在宅継続を困難とする要因の構造理解に向けた指標開発といった量的調査の実施を進めていきたい。
  • 山ノ上 奏
    2022 年 27 巻 p. 50-65
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は, 60歳以上の脳性まひ者が身体の変化に自覚的に対峙し,環境の変化を受け入れる生活の変容プロセスについて明らかにすることを目的とした。60歳代から80歳代の脳性まひ者12名を対象に個別に半構造化面接を行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)により分析を実施した。その結果, 4つのカテゴリーと4つのサブカテゴリー,そして15の概念が生成され, 脳性まひ者が身体の変化に自覚的に対峙しながら, 専門家の介入によりリハビリやマッサージなどのケアを行うことや生活を支えてくれる家族や介助者の支援を受けながら,環境の変化を受け入れる生活の変容プロセスであった。しかし, 自分自身の身体や二次障害の状態,さらには加齢とともに変化していく家族の高齢化など, なかなか厳しい生活の変容がある。そのため自分の身体や生活の変化に折り合いをつけながら, 環境の変化を受け入れる生活であった。
  • 組織公平性,組織からのサポート,役割葛藤および役割のあいまいさに着目して
    堀口 康太
    2022 年 27 巻 p. 66-81
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,組織公平性,組織からのサポート,役割葛藤および役割のあいまいさという3つの職場要因と高齢労働者の仕事への自律的動機づけとの関連を検討することであった。本研究では,組織公平性と組織からのサポートは,自律的動機づけと正の関連を示し,役割葛藤および役割のあいまいさと自律的動機づけは負の関連を示すという仮説を検証した。調査は,企業に勤務する高齢労働者771名に対して行い,558名から回答を得た(Mage=62.00歳, SD=1.35歳,男性93.7%[n=523],女性4.3%[n=24],不明2.0%[n=11])。重回帰分析の結果,組織からのサポートが自律的動機づけ(「内発・貢献・自己発揮」,「獲得・成長」)と正の関連を示し,組織公平性は「内発・貢献・自己発揮」と正の関連を示した。一方,役割葛藤は自律的動機づけと負の関連を示した。したがって,本研究の仮説はおおむね支持された。本研究から高齢労働者の仕事への自律的動機づけの維持・向上のためには,上司からの公平な人事評価,上司・同僚との間の支援的な関係性,そして,業務上の役割を明確にできるようなサポート等,支援的な組織づくりをしていくことの重要性が示唆された。
  • 佐藤 宏美
    2022 年 27 巻 p. 82-97
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/30
    ジャーナル オープンアクセス
    人生の後半の生活の質の維持向上に,創造的音楽活動への参加の有効性が確認されている。一方で,楽器演奏などの経験の浅い高齢者が,音楽活動に参加する際の障壁の大きさが課題としてあげられる。そこで本研究では,伴奏追随機能付きの楽器「だれもピアノ」を用いて,高齢者のためのレッスンプログラムを開発し,実際に参加者を募りその有効性を探索的に確認することとした。6人の高齢者を対象に全8回のレッスンシリーズを実施し,気分の変化と日常生活における変化を質問紙調査により把握した。その結果,レッスンシリーズ参加前後の気分の「活性度」および音楽活動や対人交流に,前向きな影響が示された。これらより,「だれでもピアノ」が短期間で高齢者の自律性と有能感を高めうる有効なツールである可能性が示唆された。
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