我が国で発見, 開発されたnicorandil (15~45 mg/日, 3分服) の狭心症に対する臨床効果をpropranolol (30~90mg/日, 3分服) のそれと比較するため, 多施設二重盲検法を行い下記の成績を得た.
1) 試験の対象として採用された症例はnicorandil群36例, propranolol群44例であった. 観察期間は, 原則として2週間, 第3週はnicorandil 15mgないしはpropranolol 30mg, 第4週はnicorandil 30mgまたはpropranolol 60mgと増量し, 第5週は変量期とした.
2) 狭心症発作回数は両群とも有意の減少を示し, その減少率は第4, 第5週において nicorandil群の方が有意に大であった. 亜硝酸剤消費量も有意の減少を示したが, 両群間に有意差は認められなかった.
3) 全般改善度では, 著明改善率において, nicofandil 群の方が有意に大であり, 第4, 第5週における週別改善度もnicorandil群で有意に大であった.
4) 有用度も nicorandil群が有意に大であった (U-test). 特に, 「極めて有用」に占める比率が有意に高かった.
5) 心拍数は両群で, 血圧はpropranolol群で減少した. その度合は propranolol 群で大なる傾向を示した.
6) ST偏位からみた心電図改善率はnicorandil 群45.8%, propranolol群 56.0%と有意差はなかった.
7) 副作用出現率はnicorandil群13.5%, propranolol群16.7%と有意差はなかった. Nicorandilの副作用としては頭痛が最も多かった. 副作用に基づく投薬中止ないし減量はnicorandil群1例, propranolol群2例であった.
以上, nicorandilはニコチン酸誘導体の亜硝酸エステルではあるが, nitroglycerinなどの亜硝酸剤とは薬理作用が異なるため, 抗狭心症剤分類において新しいカテゴリーに入るとみなされ, 臨床上有用な薬剤と判断された.
なお, 本試験に用いたpropranolol錠は星薬科大学薬剤学教室・永井恒司教授により含量試験, 崩壊試験, 溶出試験のいずれも市販 propranolol錠の条件に適合することが証明されるとともに, 市販propranolol錠と生物学的に同等であることも確認された. ここに付記し, 感謝の意を表する.
抄録全体を表示