多文化関係学
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14 巻
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
論文
  • ミャンマー祭りを事例として
    猿橋 順子, 岡部 大祐
    2017 年 14 巻 p. 3-21
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー
    大都市の公共空間で週末に開催される、外国名や地域名を冠した祭り(総称して「国フェス」)の活性化はグローバル化に伴う社会現象のひとつと言えよう。本論は、様々な国フェスの共通点である、「その国らしさへの接近」がどのように実践されているかをディスコースの視点から探求することを目的とする。これまで実施した15 の国フェスでの実地調査から、本稿では東京都の増上寺で開催されたミャンマー祭りを取り上げる。ミャンマーのモノ・コトについて肯定的な評価を含む2つの事例(写真展、スキンケア体験)について、発話出来事間のつながりに着目するWortham & Reyes(2015)版のディスコース分析を行った。その結果、「自然」と「不変性」というミャンマー像のディスコースに重複が見られた。この重複により、「自然、不変性」のディスコースを安定させ、強化する側面が見出される。他方で、スキンケア体験において「美容」のディスコースが、「不変性」から「変化」へと動的なディスコースを呼び込む転換点として機能していることが見出された。ここから、国フェスの場は、「今、ここ」にはないディスコース(静的なディスコース)の共有と、その場で流通しているディスコース(動的なディスコース)が接点を作り出すことで活気を生み出していることが示唆された。
  • 中等教育における実践と課題
    柿原 豪
    2017 年 14 巻 p. 23-40
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー
    本論文は、ニュージーランドの中等教育の現場において、英語を母語としない生徒に実施されているESOL(English for Speakers of Other Languages)の実践を調査し、それが移民・難民生徒の社会的包摂に果たしている役割を明らかにする。ウェリントンで行った教育省職員へのインタビューでは、ESOLを通じて移民・難民生徒をニュージーランド人として受け入れていく政府の姿勢と、彼・彼女らの在籍している学校に対する資金援助のあり方が示された。そして海外出身者が人口のおよそ3分の1を占めるオークランドでは、2つの中等学校においてESOLの参与観察を行った結果、X 校は政府の資金援助を用いてティーチャーエイド(Teacher Aide, 以下TA)などの補助的職員をESOL科に配置し、生徒の授業や学校生活、さらには日常生活における支援を行っていることが明らかになった。補助的職員には移民・難民出身者も多く、家庭と学校といった、出身地の文化とニュージーランドの文化の2つの間で文化を橋渡しする媒介者としての役割も果たしていることも明らかになった。たしかにESOLによって移民・難民生徒の社会的包摂が図られているが、調査から得られた課題もまた明らかになった。主要な課題は、第1 にESOLをメインストリームの授業を補完するものと位置づけ、政府が意図する移民・難民生徒の社会参加に向けた支援という側面をもたない学校があること、第2 に同化主義的な英語による言語教育、第3に英語偏重の教育制度が英語を母語としない生徒を排除する可能性をもっていること、に関する検討である。本論文で言及した、生徒の包摂を目指す政府のリーダーシップや支援を行うTAは、日本の国際教室を検討する上での示唆となろう。
  • 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによるモデルの構築
    石黒 武人
    2017 年 14 巻 p. 41-57
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、日本国内に存立し3 ヵ国以上のメンバーが協働する多文化研究チームを機能させ、チームにおいて「コミュニケーションの問題が少ない」と認識している日本人リーダーの認知的志向性(cognitive orientation)をモデル化して示すことである。研究方法は、モデルを構築するうえで有用な修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(木下,2003)である。調査結果として、多文化研究チームの日本人リーダーは、まず、所属組織の特徴・限界(「制限付きのダイバーシティ促進」)を理解していることが示された。同時に、リーダーは、日本語中心のシステムや年功型評価システムの運用といった組織的な特徴・限界とそれらに対する外国籍メンバーの否定的な見解との間にある溝を埋めるうえで有効な「緩衝体」となる認知的志向性を備えていることが明らかになった。その認知的志向性は、「移動性の高い認知」、「寛容型の情動」、「メンバー尊重型の行動」という3つのプロセスで特徴づけられる。その志向性を介して、リーダーは「コミュニケーションの問題が少ない」状態を認識し、経験している。
  • 関係の形成・維持の工夫と葛藤に関する事例的研究
    中野 祥子, 田中 共子
    2017 年 14 巻 p. 59-77
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー
    本研究では、日本人とムスリム留学生との関係形成を、日本人側の視点から実証的に探索した。具体的には、ムスリム留学生と親しい関わりを持つ、日本人6名に半構造化面接を行い、交流時の葛藤や戸惑い、関係形成・維持のための工夫を尋ねた。その結果、交流時の葛藤及び戸惑いは、4つにまとめられた「: 宗教的な実践への戸惑い」、「宗教的価値観を用いた応答への戸惑い」、「宗教的な議論への戸惑い」、「宗教的な禁忌への不安」。また、関係形成・維持のための工夫は、5つにまとめられた「: 宗教的実践への配慮」、「宗教的実践への不干渉」、「共通点への注目」、「率直な自己表現」、「積極的な働きかけ」。本研究の日本人ホストは、文化差への戸惑いを抱きつつも、「適度な距離感」を保ちながら場の共有が可能になるよう努めて、交流を楽しんでいた。良好な関係形成・維持を可能にする鍵となる、双方にとっての「適度な距離感」は、最低限でさりげない配慮、過度に干渉しない姿勢、宗教的価値観を受け入れたうえで率直な意見を述べようとする態度のバランスによって創出されるものと考えられた。
  • NPOにおける医療通訳コーディネーターへのインタビューから
    灘光 洋子
    2017 年 14 巻 p. 79-97
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー
    本論は、これまであまり注目されてこなかった医療通訳コーディネーターの役割について考察することを目的としている。NPO の医療通訳コーディネーター4人にインタビューを実施し、通訳者をニーズのある人たちと繋ぐ実践についての語りをシャーマズ (Charmaz, 2006 抱井・末田 監訳 2008) の社会構成主義的グラウンディド・セオリー・アプローチを用いて分析した。浮上した5つの主要カテゴリーのうち、特に語りの多くを占めた「繋ぐ」というカテゴリーを取り上げ、4人に通底する中心的概念について詳細な分析を試みた。「繋ぐ」対象は、「内部」(通訳者同士、通訳者とNPO)と「外部」(通訳者と患者、NPO と病院)であった。「内部」関係では「モティベーションの維持・向上」が中心概念として抽出され、その下位概念は「相談」、「連帯」であった。「外部」との関係では「調節」が抽出され、下位概念は「人との交渉」、「情報の交渉」、「トラブル対応」であった。分析を通して医療通訳コーディネーターの多面的な役割と求められる能力の多様性が明らかになり、外国人医療を考える際に、コーディネーターも視野に入れて検討することの必要性が示唆された。
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