本論文は、ニュージーランドの中等教育の現場において、英語を母語としない生徒に実施されているESOL(English for Speakers of Other Languages)の実践を調査し、それが移民・難民生徒の社会的包摂に果たしている役割を明らかにする。ウェリントンで行った教育省職員へのインタビューでは、ESOLを通じて移民・難民生徒をニュージーランド人として受け入れていく政府の姿勢と、彼・彼女らの在籍している学校に対する資金援助のあり方が示された。そして海外出身者が人口のおよそ3分の1を占めるオークランドでは、2つの中等学校においてESOLの参与観察を行った結果、X 校は政府の資金援助を用いてティーチャーエイド(Teacher Aide, 以下TA)などの補助的職員をESOL科に配置し、生徒の授業や学校生活、さらには日常生活における支援を行っていることが明らかになった。補助的職員には移民・難民出身者も多く、家庭と学校といった、出身地の文化とニュージーランドの文化の2つの間で文化を橋渡しする媒介者としての役割も果たしていることも明らかになった。たしかにESOLによって移民・難民生徒の社会的包摂が図られているが、調査から得られた課題もまた明らかになった。主要な課題は、第1 にESOLをメインストリームの授業を補完するものと位置づけ、政府が意図する移民・難民生徒の社会参加に向けた支援という側面をもたない学校があること、第2 に同化主義的な英語による言語教育、第3に英語偏重の教育制度が英語を母語としない生徒を排除する可能性をもっていること、に関する検討である。本論文で言及した、生徒の包摂を目指す政府のリーダーシップや支援を行うTAは、日本の国際教室を検討する上での示唆となろう。
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