会計検査研究
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56 巻
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
会計検査研究
  • 大山 耕輔
    2017 年56 巻 p. 5-11
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー
  • 中東 雅樹
    2017 年56 巻 p. 13-26
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     2012 年12 月の中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故以降,日本の社会資本の老朽化は政治的にも重要な課題として認識されつつあるものの,社会保障向け支出に比べて,公共投資向け支出は,確保するのに苦慮している状況にある。こうしたなかで,国や地方公共団体において,資産を明確に認識する複式簿記ベースの財務書類が作成,公表されるようになったことは,社会資本が資産として明示されることによって,予算確保に苦慮している状況を変える契機になると考えられる。ただし,現在の日本の公会計での社会資本の資産価値は取得原価で評価され,その評価法が経済的価値を適切に反映しているかは検討の余地がある。そこで,本論文は,経済的価値からみた,日本の公会計での社会資本の資産価値評価の妥当性について,社会資本の稼働率を明示的に考慮した生産関数を用いて推計する社会資本の生産力効果から,追加的に実施する公共投資の経済的価値を推計することで評価したものである。

     本論文で新たに採用した,社会資本の稼働率を明示的に考慮したコブ=ダグラス型生産関数による社会資本の生産力効果の推定結果は,有効性の観点から好ましく,推定結果も先行研究の結果とほぼ一致している。また,本論文で得た社会資本の生産力効果の推定値を用いて,2010 年度における2005 年価格で1単位の公共投資による経済的価値の増加額は,推計に用いたデータに依存するが,大都市圏では少なくとも1 を上回り,先行研究と整合的な結果を用いれば全ての地域で1 を上回っていた。これは,経済的価値の観点からみれば,とくに大都市圏では,新たな公共投資を資産として計上する場合,取得原価を上回る価値で評価すべきであることを示しており,現在の日本の公会計において,資産としての社会資本は過少評価になっているともいえよう。

  • 大津 唯
    2017 年56 巻 p. 27-46
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     急速な少子高齢化に伴う医療・介護需要の一層の増大が見込まれるなか,「団塊の世代」が全て75 歳以上となる2025 年を1 つの目安として,「地域医療構想」や「地域包括ケアシステム」の構築,医療・介護人材の確保・養成の強化といった医療・介護の提供体制改革が進められている。

     こうした改革を支える新たな財政支援制度として,2014 年度に各都道府県に設置されたのが「地域医療介護総合確保基金」である。この基金は,都道府県が医療・介護の総合的な確保のために実施する事業の経費を支弁するために造成され,医療分として約904 億円,介護分として約724 億円が,それぞれ毎年積み立てられている。しかし,医療分の対象に,病床の機能分化・連携に関する事業だけでなく「医療従事者の確保に関する事業」も加えられ,医療従事者の確保・養成に関わる多数の国庫補助事業が,新しい基金で引き続き実施可能であるとして廃止されたことは,この新しい基金の性格を曖昧なものにしてしまっている。

     本稿では,このような現状を踏まえ,各都道府県が公表している事業計画を分析し,次の2 つの知見を得た。第一に,医療分のみが実施された2014 年度計画では,看護師確保対策に重点的な予算配分がなされ,医師確保対策の約2 倍に当たる26.0%の予算が充てられていた。第二に,国庫補助からの継続事業が識別可能な10 都府県分の集計では,2014 年度計画分予算の34.2%が継続事業に割り当てられていた。

     このように,継続事業への予算配分は全体の約3 分の1 を占めており,国が国庫補助事業から基金に振り替えられた事業の規模として事前に説明した額(274 億円,904 億円の約30%)が実際に確保された。しかし,2015 年度以降は医療分予算を病床の機能分化・連携に関する事業に重点配分していく方針が示され,国庫補助継続事業は事実上の縮小・廃止を迫られている。国は,地域医療介護総合確保基金で対応可能であるとして国庫補助の廃止された事業の取り扱いについて明確な説明が求められる。

  • 東 信男
    2017 年56 巻 p. 47-65
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     独法減損会計は,①貸借対照表に計上される固定資産の過大な帳簿価額を減額すること,②適切な業務遂行を行わなかった結果生じた減損損失を損益計算書に計上すること,③固定資産の有効利用を促進することを達成するために設定された。これらの目的が達成されているかどうか検証したところ,①と②については,減損処理の影響は貸借対照表にも損益計算書にもほとんど現れていなかった。また,③については,財務諸表に開示された会計情報の大部分は使用しないという決定を行った固定資産に関するもので,当該資産には有効利用の余地がなかった。

     評価結果の要因を明らかにするため,独法減損基準とIPSAS 21 との比較分析を行ったところ,独法減損基準は,使用中止となった固定資産しか減損処理を行わないこと,固定資産に生じた減損額の一部しか損益計算書に計上しないこと,回収可能サービス価額の回復に起因する減損の戻入れを行わないことが,課題となっていた。これらの課題を解決し,減損会計適用の効果を最大限に発揮させるために,会計基準については,IPSAS 21 を包含したIPSAS を基礎に新たな独法会計基準を設定することが考えられる。

     減損損失は,固定資産の将来の経済的便益又はサービス提供能力の損失を意味するため,その計上は,当該資産によって提供されているサービスに対する需要又は必要性の低下を意味する。このため,減損損失は独立行政法人にとっては業務運営の失敗を認めることになるが,財務諸表の利用者にとっては当該法人の業績を評価する上で重要な会計情報となる。独法減損会計が当初の目的を達成するとともに,業務運営の効率化と業績の適正な評価に資する会計情報を提供するためには,独法減損基準だけではなく,独法会計基準も含めて見直す必要がある。

  • 宮本 善仁
    2017 年56 巻 p. 67-96
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     欧米諸国では,経済の低迷や人口の高齢化等による社会保障費支出の増加等により,構造的に支出が収入を上回っている傾向にあり,厳しい財政運営を強いられている。このような財政状況の下,各国においては財政再建を進めたり,財政の健全性を維持したりするためには,一定の拘束力のある中期財政計画や支出の総額上限等を定めた財政ルールに則った財政運営が必要であるとされている。そして,中期財政計画を策定するために中長期の財政の見通しを試算したり,政府が財政ルールを遵守しているかなど,政府の財政健全化の取組や予算作成の全体を分析評価したりする独立財政機関が注目されている。他方で,財政監督機関として伝統的な会計検査院が存在している。

     本稿では,アメリカ,イギリス,ドイツ,フランス及びフィンランドを取り上げ,各国の独立財政機関の制度,組織及び活動状況について概観し,伝統的な財政監督機関として存在している各国の会計検査院は,どのように財政の健全化のための取組を行っているのかについて考察するとともに,独立財政機関と会計検査院の役割の相違,役割分担等について検討を行った。

     独立財政機関と会計検査院の役割分担について考えてみると,一般的に,独立財政機関には,財政計画や予算の策定に使用するマクロ経済の推計を行ったり,財政健全化目標の達成状況を評価したり,個々の政策の財政への影響を具体的に分析評価したり,財政の持続可能性など将来の事象についての分析評価が期待される。一方,伝統的な会計検査院の役割は,主に予算執行の結果である決算の正確性,妥当性など過去の事象についての分析評価や検証を行うことであり,予算の執行について事後的に分析評価や検証を行っていく過程で決算数値を基に,様々な比較検証を行うことにより財政の持続可能性の検証など将来の事象についての分析評価を行っている。

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