国立アイヌ民族博物館研究紀要
Online ISSN : 2758-5611
Print ISSN : 2758-2760
2023 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 八幡 巴絵
    2024 年2023 巻2 号 p. 6-30
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/05/09
    ジャーナル フリー
    北海道白老町内には、複数のコタン(集落)があり、そこではルウンペと呼ばれる木綿の衣服がつくられ着用された。「白老(しらおい)コタン」と呼ばれる集落では、明治期から観光事業でアイヌ文化を紹介していくなかで、現在に至るまでにさまざまな模様や形態のルウンペが伝承されてきている。本稿では、白老地域に伝承されるいわゆる「ルウンペ」について、国立アイヌ民族博物館の収蔵資料を中心に、その製作者たちや着用者、さらにその遺族などの関係者へ聞き取り調査を行い、そこからルウンペをめぐる白老地域の特徴、そして旧アイヌ民族博物館(通称ポロトコタン)を中心とした継承活動、そして衣服の変遷について考察を加えた。また、製作者のアイデンティティや、地域で守られるルウンペが現在どのように製作されているかを述べる。
  • シン ウォンジ
    2024 年2023 巻2 号 p. 31-44
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/05/09
    ジャーナル フリー
    1696 年(元禄9、粛宗22)蝦夷地に8 人の朝鮮人が漂着した。漂流朝鮮人の一人の李志恒が帰国後に漂流の経緯や旅程を述べた『漂舟録』と『李志恒漂海録』が朝鮮側の記録として残っている。両記録は、18 世紀に朝鮮の実学者の間で蝦夷という地域に関する希少情報として流通した。両記録についてはまだその伝来が不明であるが、李志恒の蝦夷地での体験に先立ち、序文に彼の略歴を示した形になっている。本稿では、漂流当事者の李志恒についての関連記録を検討するとともに、当時の社会的背景を踏まえることで、両記録に彼の略歴が序文として加わった形になった時期を推定した。李志恒は1675 年(粛宗元)武科試験に及第したが、漂流当時の1696 年に至っても官職を務めていない「先達」であった。彼は漂流事件から朝鮮に送還された後、1720 年(粛宗46)に6 品の副司果に任命されたことが『承政院日記』から確認できる。『漂舟録』と『李志恒漂海録』の序文では、李志恒が6 品まで上がったことを記しているため、両記録において現在伝わっている序文の形になった時期は1720 年以降であると推定される。
  • 開館までの経緯
    田村 将人, 立石 信一, 関口 由彦, 是澤 櫻子
    2024 年2023 巻2 号 p. 61-69
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/07/15
    ジャーナル フリー
  • ウアイヌコㇿ コタン (ウポポイ) アカㇻ ワ レ パ オカケタ〜ネコン アン クニ ㇷ゚ 「共生」 ネ ヤ〜(ウポポイ3 周年を迎えて ~共生の道をいかに歩むのか~)
    山崎 幸治, 加藤 博文, 佐々木 史郎, 北原 モコットゥナㇱ, 中井 貴規(ナアカイ), 山道 陽輪(ムカㇻ), 北嶋 由紀(イサイカ) ...
    2024 年2023 巻2 号 p. 70-111
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/07/15
    ジャーナル フリー
    2023 年7 月、ウアイヌコㇿ コタン(民族共生象徴空間 愛称:ウポポイ)は3 周年を迎えました。ウポポイが果たすべき役割には「アイヌ文化の振興・創造等の拠点」であること、また「将来に向けて先住民族の尊厳を尊重し、差別のない多様で豊かな文化を持つ活力ある社会を築いていくための象徴」であることがあります。 この大きな役割をどのように果たしていくのかを考えるため、3 周年という筋目を契機に、アイヌ テエタワノアンクㇽ カンピヌイェ チセ(北海道大学アイヌ・先住民族研究センター)と、アヌココㇿ アイヌ イコロマケンル(国立アイヌ民族博物館)の共同シンポジウムを開催しました。 アイヌ テエタワノアンクㇽ カンピヌイェ チセとアヌココㇿ アイヌ イコロマケンルは2020 年11 月に「学術連携・協力に関する協定」を結び、毎年勉強会やシンポジウムを開催しており、2023 年8 月29 日に行われた今回のシンポジウムも同協定による事業の一つとして実施されました。会場(民族共生象徴空間ウポポイ 体験学習館別館3)には50 人、オンラインで150人が参加しました。 第1 部で、先住民族の文化展示について、北海道大学の山崎幸治教授による事例報告をしました。第2 部では、アイヌの歴史と文化がこれまでどのように伝承され、研究されてきたのか、2つの主催団体の代表者が対談形式で振り返りました。そして第3 部では、北海道大学の北原モコットゥナㇱ教授をモデレーターとして、実際に事業に従事しているウポポイの職員である杉本リウ(ラリウ)、山道陽輪(ムカㇻ)、北嶋イサイカ、中井貴規(ナアカイ)がパネリストとなり、文化伝承や文化紹介の場でそのように課題や成果が生まれているかを検討しました。 3 年目にして、ウポポイには様々な課題が見えてきました。一つには、2023 年春、アイヌ テエタワノアンクㇽ カンピヌイェ チセの学術ジャーナル『アイヌ・先住民研究 アイヌ テエタワノアンクㇽ カンピヌイェ』第3 号に特集「アイヌ民族に対するマイクロアグレッション」が組まれ、今回のシンポジウムにも登壇した北嶋イサイカと杉本リウによるウポポイにおける来場者から職員へのマイクロアグレッションの事例と問題性が指摘されました。国連「ビジネスと人権」ワーキンググループは日本での調査結果の記者会見(2023 年8 月4 日)においても、民族共生象徴空間のアイヌ民族の職員が「人種的ハラスメントや心理的ストレス(原文:racial discrimination and psychological distress)」をうけているとの報告を懸念していることを述べました(1)。 今回のシンポジウムをはじめ、ウポポイでは、このような課題を避けることなく、オープンに語り合い、真剣な改善すべき問題として受け止めていきます。同様に、第2 部の加藤センター長と佐々木館長による対談にも、ウポポイのオープン当初から見られてきたアイヌ民族とアイヌ文化に対する悪意をもった差別的な批判への応答が試みられています。シンポジウムのタイトルに「3 周年」が大きく示されたことにより、これまでの3 年間の事業成果と反省、これから目指すべき指標が話されるであろうというイメージを参加者に与えた可能性が大いにあったのかもしれません。特に、パネルディスカッションでは深刻な課題が取り上げられたことについて冷ややかな反応もあったようです。 参加者による事後アンケートには、当日数名のパネリストが報告中に感極まったことについて言及されました。「感情的になってはいけない」というようなコメントが複数ありました。圧倒的な多数者が構成する社会のなかで、人がそれに対して「弱さ」を見せることに対する嫌悪感(ウィークネス・フォビア)も現象として存在していると言われています。また、「こんなに真剣にやらなければ楽になる」「もっと楽しくやるべきだ」といったような反応もあったようです。その意味において、今回のシンポジウムも、ウポポイをさらに楽しくするための前段階として、いまは「3周年を迎えて」こそ、実際に現場で起こっている「マイクロアグレッション」のような注目すべき課題にとりかかったことに大きな意義があったと言えるのではないでしょうか。 ※本報告は、当日の発表内容をもとに加筆・調整し、適宜スライド・写真を加えて構成します。 1) 国連「ビジネスと人権」ワーキンググループ 記者会見 毎日新聞チャンネル 2023 年8 月4 日   https://www.youtube.com/watch?v=wzUwYiYo 54 分25 秒頃より(2023 年11 月21 日閲覧)。
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