Supplement of Association of Next Generation Scientists Seminar in The Japanese Pharmacologigal Society
Online ISSN : 2436-7567
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  • Kazuhiro Kurokawa, Kohei Takahashi, Kazuya Miyagawa, Atsumi Mochida-Sa ...
    Session ID: 2023.1_AG-1
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: March 31, 2023
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    生体は日常様々なストレスに曝露されるが、健常な場合は交感神経系や視床下部-下垂体-副腎系等の一連のストレス応答系が適切に機能することで恒常性が保たれている。一方、過度なストレスやストレスの遷延化は、これらの恒常性維持機構を破綻させることにより情動に影響を及ぼし、精神疾患の発症を助長すると考えられる。我々は以前の研究において、拘束ストレス刺激を負荷したマウスで認められる情動行動の低下が、ストレス負荷24時間前に5-HT1A受容体作動薬を投与することで抑制され、情動的抵抗性が形成されることを見出している。本知見は、ストレスへの適応形成において、5-HT1A受容体が重要な役割を担っている可能性を示唆するものである。また、このストレスへの情動的抵抗性を獲得したマウスの海馬における遺伝子発現の変動についてDNAマイクロアレイを用いて網羅的に解析した結果、白血病阻止因子(leukemia inhibitory factor: LIF)の著明な増加が認められた。LIFは、脳神経細胞の軸索成分であるミエリンの形成を促進する役割を担っていることが明らかにされている。また、ミエリンはオリゴデンドロサイトにより形成され、脳神経伝達の効率や修飾に寄与している。さらに近年、オリゴデンドロサイトおよびミエリンの形成・機能不全が、うつ病などのストレス性精神疾患の病態に関与していることも明らかにされつつある。したがって、LIFがミエリン形成を介して、ストレスに対する適応の形成に深く関与している可能性が考えられる。我々はこれまでに、慢性負荷する拘束ストレス刺激の強度を変えることにより、ストレス刺激が誘発する情動行動の低下が消失するストレス適応モデルマウスと、依然として情動行動の低下を示すストレス非適応モデルマウスを層別作製できることを明らかにしている。本次世代薬理学セミナーでは、これらモデルマウスを用いてストレス適応と5-HT1A受容体を介した髄鞘形成との関連性について検討した研究の成果を紹介し、ストレス性精神疾患の病態解明や新規治療法の開発に向けた今後の展望について考察する。

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  • Kohei Takahashi, Kazuhiro Kurokawa, Kazuya Miyagawa, Atsumi Mochida-Sa ...
    Session ID: 2023.1_AG-2
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: March 31, 2023
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    オリゴデンドロサイトは、脳内において神経軸索でのミエリン形成を担い、脳神経伝導の高速化や修飾に寄与している。近年、うつ病患者の死後脳では様々な脳部位でミエリン構成タンパク質の減少が認められることが明らかにされ、うつ病の病態生理におけるミエリン並びにオリゴデンドロサイトの重要性が注目されている。

     社会的敗北ストレスや社会的孤立ストレスを慢性負荷したうつ病モデルでは、前頭前皮質におけるオリゴデンドロサイトの分化異常、並びに脱髄やランビエ絞輪の形成異常が生じることが報告されている。一方、これら基礎研究で用いられているストレスの強度は多岐に渡るため、その妥当性(臨床におけるどの程度のストレスに当てはまるか)については解釈に難渋することがある。そこで本研究では、前述したストレス負荷うつ病モデルにおける知見を踏まえ、ストレス負荷に起因しないうつ病モデルである嗅球摘出(olfactory bulbectomy: OBX)マウスの脳内におけるオリゴデンドロサイトの分化やミエリン並びにランビエ絞輪形成の変化と、それらに対するイミプラミン及び乳酸菌Enterococcus faecalis 2001(EF-2001)の効果について検討した。

     OBXマウスでは、術後21日目においてうつの指標となる尾懸垂試験での無動時間が延長すると共に、前頭前皮質における成熟オリゴデンドロサイト細胞数及びミエリン構成タンパク質の減少やランビエ絞輪の形成異常が認められたが、これらはイミプラミンを2週間反復投与することで改善した。また、同様の効果は、OBX手術7日前からのEF-2001の予防投与によっても認められた。故に、イミプラミン及びEF-2001の抗うつ効果に、オリゴデンドロサイトによるミエリン形成の正常化が関与している可能性が示唆された。さらに、EF-2001については、オリゴデンドロサイトの分化並びにミエリンの形成に関与していることが報告されているCREB/BDNF及びNF-κB p65/LIF/STAT3経路を活性化する作用を有することも併せて見出した。

     以上の知見より、オリゴデンドロサイトによるミエリン形成の促進が、抗うつ効果の発現に大きく寄与すると考えられる。従って、今後そのメカニズムを詳細に考究することが、うつ病のさらなる病態解明や新規抗うつ薬開発の一助になると期待される。

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  • Risako Fujikawa, Shozo Jinno
    Session ID: 2023.1_AG-3
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: March 31, 2023
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    最近の研究から社会的ストレスの影響を受けにくい人々の存在が示されていて、「ストレス抵抗性」に注目が集まっている。うつ様モデル動物として用いられている社会的敗北ストレスモデルマウスにも、ストレスに対して脆弱な個体と抵抗性を示す個体が存在することが明らかにされている。しかし、ストレス抵抗性の差異を生み出すメカニズムの詳細は不明である。本研究で我々は、脳の免疫細胞であるミクログリアとストレス抵抗性の関連について検討した。実験では、大型のICRマウスに小型のC57BL/6J (B6) マウスを攻撃させ、身体的ストレスを与える社会的敗北ストレスモデルマウスを用いた。ストレスに暴露したB6マウスを、ストレス脆弱性群と抵抗性群に分け、海馬ミクログリアの形態学的検討を実施した。オプティカルダイセクター解析では、脆弱性群のB6マウスでのみ、海馬CA1領域のミクログリア空間分布密度が増加していることが示された。三次元再構築から得られた形態学的パラメータのクラスター解析により、脆弱性群のB6マウスでは、複雑性が低下したamoeboid様のミクログリアが増加していることが明らかとなった。一方で抵抗性群のB6マウスでは、複雑性が増加したhyper-ramified様のミクログリアが増加していた。シナプスとミクログリアのコンタクトは、抵抗性群でのみ増加していた。これらのことから、ストレス抵抗性の違いを生み出すメカニズムには、海馬ミクログリアの形態学的フェノタイプの差異が関わっている可能性が考えられる。

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  • Masayuki Taniguchi
    Session ID: 2023.1_AG-4
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: March 31, 2023
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    社会や孤独から受けるストレスは、抑うつや不安亢進など認知情動変容を引き起こし、精神疾患病態に深く関わる。ストレスを受けた動物や精神疾患患者ではミクログリアを起点とする脳内炎症が生じ、情動変容の原因となることが示唆されている。しかしストレスによるミクログリアの変化の実態は不明である。我々はマウスの社会ストレスモデルを用い、前頭前皮質、側坐核、運動野・体性感覚野、海馬、視床下部からミクログリアを単離し、一細胞RNA-seq解析に供した。その結果、ストレスが複数の脳領域のミクログリアに共通した遺伝子発現変化を誘導すること、この広域的変化の一部はストレス感受性の個体差と相関することを見出した。前頭前皮質と側坐核のミクログリアの遺伝子発現をより深い深度で調べたところ、ストレスによるミクログリアの遺伝子発現変化には、両方の脳領域で生じる広域的変化と脳領域選択的な局所的変化に分類され、この広域的変化には、急性ストレスとストレス感受性に対応して慢性ストレスに応答する変化と、慢性ストレスのみに応答する変化が存在することを見出した。これまで当教室ではミクログリアの活性化における自然免疫受容体TLR2/4の重要性を示していたことから、TLR2/4-DKOにおけるストレスによるミクログリアの遺伝子発現変化を調べたところ、広域的変化のうち、慢性ストレスのみに応答する遺伝子発現変化のみが消失することを見出した。さらに、これらの転写制御のメカニズムに迫るため、スーパーエンハンサーのnucleosome-free領域に濃縮する転写因子結合モチーフを解析したところ、広域的変化と局所的変化には異なる転写因子が関与し、広域的変化のうち急性ストレスとストレス感受性に対応して慢性ストレスに応答する遺伝子発現変化にはグルココルチコイド受容体が関与することを見出した。以上の結果は、血液由来の複数のストレスシグナルが、グルココルチコイド受容体とTLR2/4を経由してミクログリアの転写・エピゲノム状態を変化させ、認知情動変容を促す可能性を示唆している。本シンポジウムでは、これらストレスによるミクログリアの転写・エピゲノム変化について最新の知見を紹介し、精神疾患病態への関連性を議論したい。

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  • Yukari Suda, Naoko Kuzumaki, Minoru Narita
    Session ID: 2023.1_AG-5
    Published: 2023
    Released on J-STAGE: March 31, 2023
    CONFERENCE PROCEEDINGS FREE ACCESS

    がん悪液質は、がん患者の晩期において多く認められ、体重減少や食欲不振、サルコペニア、うつや不安の亢進といった心身の脆弱化に加え、急激な生存不能状態を惹起させるため、治療法の開発が急務である。がん悪液質病態を統合的に理解するためには、がん組織や腫瘍微小環境などの変容ばかりに囚われず、脳を仲介する円環的な末梢-脳-末梢ネットワーク異常による全身病態増悪化機構の解析が求められる。がん悪液質病態下では、血中において炎症性サイトカインの過剰分泌が引き起こされ、全身性炎症状態を呈することが知られている。また、こうした全身性炎症反応には、腸内細菌叢の変化や腸管バリア機能の破綻を伴い、腸管から流出される内毒素である LPS の増加が一部関与していると考えられる。こうした末梢組織における炎症性シグナルは、血液脳関門が比較的ルーズな視床下部領域に伝達され、炎症を伴った脳機能低下を引き起こすことにより、円環的に全身症状の悪化を加速させる可能性が想定される。一方、脳内において神経細胞を取り巻くように豊富に存在するグリア細胞は、免疫担当細胞のようにサイトカインやケモカイン等の発現を誘導、遊離、受容することで神経系細胞間相互作用を調節する役割を担っている。さらに、グリア細胞は、神経細胞とは異なり、増殖能を有していることから、末梢からの炎症性シグナル入力に応答し、形態や機能を動的に変化させ、脳内でのシグナル増幅に寄与する可能性が推察される。そこで、本講演では、がん悪液質病態下における視床下部内グリア細胞変容を中心とした末梢-脳-末梢円環的ネットワーク破綻による全身病態増悪化機構について、細胞分取技術を応用したグリア細胞特異的遺伝子発現変動解析や脳内メタボローム解析など様々なアプローチにより得られた最新の知見について紹介する。

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