大規模なスポーツ大会のレガシーすなわち遺産と,レバレッジすなわち活用化について,この10年間に多くの調査研究がなされてきた。オリンピックを研究対象に含めるものは多いが,パラリンピックについてはほとんど取り上げられていない。パラリンピック大会は,オリンピックに次いで2番目に大規模な複合スポーツ競技会である。2000年のシドニー大会からは「運営パートナーシップ」が設けられ,招致都市にはオリンピックおよびパラリンピック両競技大会の開催が義務付けられるようになった。それでも,これまでにパラリンピック大会がもたらしてきた成果,レガシー,レバレッジに関する評価を行った研究はほとんどみられていない。
本稿では,レガシーの枠組みを提示し,2000年シドニー大会のパラリンピック・レガシーに関するリサーチを再検討することによって,こうした研究の空白を埋めることを意図する。1964年東京パラリンピック大会から50年が経過したこと,2020年に再度東京でパラリンピックが開催されることからも,意義が認められるであろう。レガシーおよびレガシーの枠組みに対する背景理解を深めた上で,リサーチデザインについて論じる。その上で,Preuss(2007年)のレガシー・キューブを用いて所見を述べる。レガシー・キューブとは,計画的/偶発的,有形/無形,ポジティブ/ネガティブの3つの軸でレガシーを概念化したものである。
2020年東京パラリンピック大会に向けてより戦略的にレガシーの課題に取り組むために,2000年シドニー大会から学ぶべきこととして,4つの教訓が挙げられる。すなわち,障害者コミュニティーとの関係促進,リサーチアジェンダの策定,一般市民に対するパラリンピックに関する啓蒙,そして文化的に適切なボランティア募集キャンペーンの準備である。
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