社会学研究
Online ISSN : 2436-5688
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97 巻
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小特集 多文化社会の現在――宮城県における外国人住民と地域社会――
  • 土田 久美子, 菅原 真枝
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 97 巻 p. 1-13
    発行日: 2015/12/18
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー
  • 排外ナショナリズムを「賢明なナショナリズム」ではなく、地域社会の成熟によって乗り越える可能性
    郭 基煥
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 97 巻 p. 15-48
    発行日: 2015/12/18
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー

     東日本大震災のあと、いたるところで国家や民族を含めた社会的カテゴリーが一時中断されるという現象が見られた(災害時ユートピアの一形態)。そこには、外国人と日本人の間の境界を越えた「共生社会」に向けて、ドラスティックな転換が起こり、「想像の共同体」としてのネーションのリアリティが減退した社会が後続する可能性が孕まれていた。しかし、これまでのところ、ヘイトスピーチなどに象徴されるように、特に日韓関係に関する現実は、複数の場面でそうした方向とは正反対の方に向かって進んできたように見える。本稿では、特にコリアンの震災経験を検証することで、こうした「現実」がそれとは別のものになっていたかもしれない可能性を探り、特に在日コリアンを標的とする日本における排外的なナショナリズムを超えるための方策を考察する。

     排外ナショナリズムについては、日本国内の格差が背景にあるとする議論がある。また戦後の日本政府による政策に根本的な問題があるとする議論もある。また特に前者の観点に立って、排外ナショナリズムの克服には、いわば「賢明なナショナリズム」が必要だとする考えもある。本稿ではこれらの議論の検討を通し、最終的には、どのようなナショナリズムによっても排外ナショナリズムは乗り越えられず、問題の解決にはむしろ震災時に見せた〈共生文化〉を現在に継承した地域社会の成熟こそが求められている点を示すことになる。

  • 宮城県外国人県民アンケートの結果から
    永吉 希久子
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 97 巻 p. 49-74
    発行日: 2015/12/18
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、在日外国人の非集住地域である宮城県における、在日外国人住民の社会的ネットワークの類型と、その規定要因を明らかにすることである。在日外国人住民にとって、日本人との、また、同国出身者とのネットワークが、異なる形で物質的、精神的な生活状況に影響することはよく知られている。その一方で、どのような条件のもとでネットワークが形成されるのかについては、十分に検証されていない。本研究では、文化的・社会経済的同質性と接触機会の程度の影響に着目し、外国人住民のネットワークの規定要因を分析する。宮城県の外国籍県民に対する社会調査データの分析の結果、以下のことが明らかになった。第一に、外国籍者のネットワークは、同国出身者を中心とする母国型が全体の七割以上を占め、次いで、日本人を中心とする日本人型の割合が高く、一部に身近な個人とのネットワークではなく公的・民間機関を相談相手とする制度型が存在した。第二に、社会的ネットワークの類型の規定要因について、文化的類似性に基づく同類結合を支持する結果が得られる一方、社会経済的類似性に基づく同類結合は支持されなかった。また、失業率が高い程、制度型になりやすくなる傾向がみられ、経済状態が悪いことによってネットワークが縮小される可能性が示唆された。さらに、非集住地域の人口規模では、地域の外国籍人口の大きさがネットワークの類型には影響を与えないことが示された。

  • 宮城県における社会福祉法人Xの事例
    菅原 真枝, ニ・ヌンガー スアルティニ
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 97 巻 p. 75-103
    発行日: 2015/12/18
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー

     経済連携協定にもとづく外国人看護師・介護福祉士候補者の受け入れが開始され、我が国においてはこれまでに七五四名のインドネシア人介護福祉士候補者を受け入れている。本研究は、そのなかから宮城県の社会福祉法人Xで働く六名の候補者に対する聞き取り調査を実施した。先行研究は「キャリア形成」や「家族に対する経済的支援」という要因に着目しながら候補者の来日動機の分析をおこない、とりわけ「経済的動機」が定住化傾向を強めると指摘している。だが本研究の立場からすれば、候補者たちが日本で働く理由は、たんなるキャリア形成や家族に対する経済的支援という概念では説明できない。日本で働いた経験を帰国後の就業のキャリアアップに直接的に結びつけようとしている候補者はみられず、また、経済的支援といってもそれは母国に残された家族が生活困窮から脱するためのものではないことが明らかになった。候補者たちが来日するにあたってはいくつかの条件が重なっており、母国にはない介護という仕事に携わることでその介護技術をあらためて母国での家族介護に生かそうとする意識を高めている。また、日本語能力を獲得できたことが積極的に評価されている点にも注目する必要がある。こうしたキャリア形成や経済的理由にはおさまりきらない多様な側面にもとづいて候補者たちが日本で働く理由を検討していく作業が求められる。

論説
  • 山形県庄内地方の一事例から
    三須田 善暢
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 97 巻 p. 105-131
    発行日: 2015/12/18
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー

     新規農業参入者の定着過程において障壁とみなされてきた村落は、村落内集団への溶け込み如何によって資源ともなりうるとの指摘がされてきた。しかし、新規参入者が村落に入り込むにつれ、これまで後見人的な存在であった重要人物(村落運営の中心的担い手)らとの関係性に多くの変化が生じ、彼らから「問題」視されるようにもなっている。本稿はその過程を詳細に追うなかから、その「問題」があらわれてきた理由を考え、そこに示唆される現代村落の特性を把握しようとした。

     その結果次のことが明らかになった。参入者の経営規模が拡大し相当程度の信頼を獲得すると、ほかの住民と同等に見られるようになる。この段階で村落「規範」への同調がより強く期待されるようになるが、しかし、参入者は以前の役割期待を持って行動していたため、これまであれば問われなかった行動も「問題」視されるように変化していたのである。この村落「規範」とは、一戸前としての村入りを選択した成員に対して要求される、村人相互のつきあい方および村内諸役割の引き受け方・こなし方に関わる当為則とまとめられよう。

     また、このように生活面での重要性が多く関わっていることに、現在の村落の特性の一端があらわれていると思われる。

  • 四〇歳代女性関節リウマチ患者の生活史から
    山田 香
    原稿種別: 研究論文
    2015 年 97 巻 p. 133-157
    発行日: 2015/12/18
    公開日: 2022/01/14
    ジャーナル フリー

     本稿は、「見えないスティグマ」を持つ四〇歳代女性関節リウマチ(以下RA)患者の経験における、他者との相互行為の特徴とその変化について整理を行い、RA患者の印象操作を中心とした生活技法獲得のプロセスを明らかにするものである。その際、ゴフマンのスティグマの可視性と不可視性をめぐる理論を参考に、RA患者のアイデンティティ管理の様相を解釈する。

     一目で障害があるとわかるような著しい関節の変形や跛行がなく「健康そうに見える」若いRA患者は、スティグマが付与されることと身体への過剰な負担を回避するための戦略として、他者に対してRAの可視性・不可視性を場面に応じてある程度操作できるようになっていく。日々の生活における効果的なまたは非効果的な自己管理の経験は、よりよい疾患管理方法を患者自身に示唆するものであると同時に、RAとともに生きる自己を受容する機会にもなっていた。

     慢性疾患患者のもつスティグマは、それが「見えないスティグマ」であるからこそ、スティグマをめぐる他者との駆け引きは複雑なものとなり、生活空間の分割を通した「見せる/見せない」の選択権の行使がなされることになる。言い換えれば、これらのことを自己のコントロール下に置けるようになることが、多元的な役割を持つ生活者としての慢性疾患患者の生活技法の獲得であるといえる。

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