黒鉱鉱床を含むグリーンタフ帯の鉱体の分布を北鹿地域を中心に,岩石と鉱体のイオウ同位体比と共に考察した.鉱床は中新世花崗岩類を中心とする累帯配列を示し,北鹿地域では貫入岩の近くに銅鉱脈が,周辺に黒鉱,マンガン,金の鉱床が分布する。グリーンタフ帯花崗岩類に含まれる岩石イオウはδ34S+6パーミル前後の値を示し,鉱石イオウは鉱脈,黒鉱鉱床共に,+4パーミル前後で若干低い.この岩石―鉱石イオウにみられる関係は白亜紀で成因的に関連性がよくわかっている岩石―鉱床ペアと同様なものである.
グリーンタフ帯の鉱床に直接に関係する火成岩類は一般に鉱床近傍の火山岩類と思われているが,上記の大局的な空間的配列とイオウ同位体比にみられる対応性は,これら火山岩類が究極的には花崗岩類と共通の起源を有し,繰返すマグマ活動により生じた個々の現象であることを示している.花崗岩質マグマは深所から運ばれたから,上記は鉱床中のイオウも深所に由来することを意味する.黒鉱鉱床の金属硫化物鉱体のイオウの多くは,生の海水,母岩,その直下の基盤などの表層物質ではなく,より深所からもたらされた可能性が大きい.大規模硫化物鉱床地域は深所からの充分なイオウの供給があった地域である.
抄録全体を表示