西日本社会学会年報
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特集
  • 中村 文哉
    2023 年 21 巻 p. 1-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/23
    ジャーナル フリー
  • ―〈動機の社会学〉と〈私の社会学〉―
    中村 文哉
    2023 年 21 巻 p. 11-25
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/23
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、『社会的世界の意味構成』でのシュッツによるウェーバー批判の一節をモチーフに、知覚、意識、行為、主観的意味、自己解釈等、〈主観的な局面〉を照射するシュッツ行為論のカテゴリー群を、「社会的ウムヴェルト」という私の身体を中心に広がる間主観的世界における「行為の主観的意味構成」の視座から捉えることにより、拓かれる行為論の若干の可能性を示すことにある。「持続的な意識の流れ」というシュッツの理論的出立点は、行為の意味構成論と行為の遂行に関わる「時間問題」を開示し、「他者理解」を含む他者問題に行き着く。この過程には、行為の意味構成論を他者問題の文脈に位置づけるシュッツ行為論の、現象学的な狙いが示される。更に、シュッツ行為論は、他者体験の直接・間接性を基点に、その都度の他者の現出位相に基づく、他者理解および他者へと差し向けられた社会的行為の主観的意味構成のあり様から、他者との社会関係の多様な組織化と、それらに基づく私たちの主観的な意味世界の構造化を捉える「社会的世界の構造分析」に帰着する。本稿では、こうした仕方で、シュッツのテクストを追い、社会的行為の主観的意味構成とその理解の問題系には、〈行為者-相手(他者)-観察者〉という三者関係から成る社会的ウムヴェルトの間主観的な関係構造を足場に、件の〈主観的な局面〉に内在する世界性と他者性(社会性)が開示されている点から、「社会的世界の構造分析」におけるシュッツ行為論の可能性を、〈動機の社会学〉と〈私の社会学〉から成るエゴロジーとして、示したい。

  • ―エスノメソドロジーのイマージョン実践の意味について
    山田 富秋
    2023 年 21 巻 p. 27-39
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/23
    ジャーナル フリー

    本稿は2022年度学会大会シンポジウム「「行為論再考」のねらいと、その方法論的射程をめぐって」における発表「フィールドワークの文脈における行為論」を論考としてまとめたものである。社会調査のフールドワークのなかで、予期せぬ事態の創発に対し、調査者はその事態といかに向きあえるのか、そしてそこから何を教訓として引き出せるのかという私に与えられた課題に対して、シュッツの「主観的解釈の公準(Postulate of Subjective Interpretation)」と「適合性の公準(Postulate of Adequacy)」を独特の仕方で継承したエスノメソドロジーのイマージョンというフィールドワークの方法に焦点を当て、そこから引き出された行為論に対するインプリケーションを明らかにした。すなわち、私が長期間携わった薬害エイズ事件の調査経験に照らして、予期せぬ事態は確かに調査を頓挫させる危機であるが、むしろ、それが社会科学者の二次的構築体という匿名的理解の水準を乗り越えていく重要な契機になっていくことを示した。結論として、フィールドワークの文脈における行為論の可能性を追求していくと、対象者から距離を置いた中立的な調査という従来の調査観は、フィールドワークの現実に耐えることができない。むしろ、社会科学者がフィールドワークから得た知見(二次的構築体)は、常に調査対象者による妥当性のテストに委ねられるだけでなく、このテストに委ねるために、社会科学者にはイマージョンを通して身につけた現場感覚が必須である。言い換えれば、調査者は一定期間のフィールドワークを経て、専門的コンピタンスを習得しなければならないのである。

  • 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』のデータ処理の事例による検討
    井腰 圭介
    2023 年 21 巻 p. 41-51
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/23
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、マックス・ヴェーバーによる『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』研究におけるデータ処理を事例にして、行為論的分析に含まれる「経験的実証研究と社会学理論との新たな対話」の可能性を明らかにすることにある。

     行為論的分析の典型的事例として、隣人愛の変容を扱った『プロ倫』の本文と注を検討した。本文では、まず文化的意義をもつ卓越した社会組織が研究対象として設定され、この結果を産み出した信仰者の行為の主観的意味が教義書から定式化され、信仰者が必ずしも意識していない人間に対する無関心によって卓越した社会組織が形成されたことが経験則と観察者の観点との組み合わせで説明されていた。注では、本文で示された隣人愛の特性を例証する事実群が示され、これらが「隣人愛の非人格化」という観点から統一的に理解可能であることを明確にして、断片的事実を典型例に転換するモノグラフ形式の理論の存在を確認した。

     ここで検討した事例に見られる「経験的実証研究と社会学理論」の関係は、R.K. マートンが提唱した「中範囲の理論」のような理論構築上の関係ではなく、多様な事実を具体性のままに統一的に理解可能にする観点の提示を特徴とするものであり、ここにもうひとつの「経験的実証研究と社会学理論との新たな対話」の可能性がみられる。

  • 石橋 潔
    2023 年 21 巻 p. 53-63
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/23
    ジャーナル フリー

     行為論の多くは、生活者の日常的な視点を強調する。そして生活者が日常のなかで出会う、空間的に近接する社会関係、つまり対面的関係に特別な位置づけを与えていることが多い。しかし行為論を、意味の相互作用だけで基礎づけると、対面的な社会関係を十分に説明できない。この論文では、この問題をゴフマンが抱えたアポリア、そして「漂流」(drift)という場からの逸脱がおきる現象に焦点をあてて考察する。

     対面的相互作用では、集団内部に自然発生的に不均一さが生まれる。この現象は、「意味」が共有されていくという相互作用だけでは十分に説明できない。それを説明するためには、表出された感情の相互作用――ここではそれを「表情の相互作用」と呼ぶ――を組み込む必要がある。

     この表情の相互作用は、間身体的、間主観的に作用し、逸脱を増幅させる性質をもつ。そしてこの相互作用は、集団や社会関係の内部にゆらぎを生み出す。この表情の相互作用に着目することで、「出会い」という社会の創発性を説明することができるだろう。

論文
  • 三隅 一人
    2023 年 21 巻 p. 65-76
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/05/23
    ジャーナル フリー

     本稿は、とりわけ長期に及ぶ災害や復興に際して、その対応主体となることが期待されながら現実的な難しさをもつ都市化社会の地域コミュニティに着目し、その現状を分析的に捉える独自の観点を提示する。まず、有限責任コミュニティの概念にもとづき、以下のようにコミュニティ概念枠組みを再考する。地域生活に不可欠な公共財およびコモンプール財を地域共有物とする。地域コミュニティは、地域共有物の供給のための人びとの相互行為の営みがつくる社会システムである。コミュニティには様々な地域共有物があり、住民はそれらの管理に自らの関心に応じて限定的に関与する。すなわち、皆がそれぞれどれかの地域共有物についてフリーライダーとなる。本稿では、こうしたフリーライダーの温存が社会関係資本のストックとフロウの循環を促す積極的な意義をもつこと、その際、便益と負担の公平性を満たす全体の互恵性が論点となること等を論じ、このコミュニティ概念枠組みの意義を示す。

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