企業
風土というように
筆者は、基本的に経営課題について考える際、企業というものは人が創り出すものであるということを大前提に、ウェーバー(Max Weber, 1864-1920, 独・社会学者/経済学者)の<象徴的相互作用論>[1]、すなわち構造を主語とせず、人の理念に基づく行為(したがって人々の相互行為)が社会を創出するという考え方をとる。端的に言えば「ピューリタンの理念と行為が資本主義の形成につながった」ことを類推して想定するものである。 ところが、企業についての諸問題を考える際、<企業風土>といったきわめて地理学に近い捉え方にさしあたることが多い。特にウェーバー的アプローチを取る際、<企業理念>にとって起こる問題は、地理学に於いてと同様の課題と感じられることがある。そこで当の地理学(乃至、地理学的枠組み)に近接すると思われることを挙げてみる。
『風の辞典』,
Le sauvage et l’artifice. 関口武(1985)(『風の事典』 原書房)によれば、同書刊行時点で日本には風の名前が2145個ある。普通の日本人はそのような呼び名を知らないが、
個々の生活実感と結びついたものは<不可視であっても概念として具象化する>のだ。 このことは、地理学者のオギュスタン・ベルク(Augustin Berque、1942- , 仏・地理学者)がたびたび指摘した、「『風景 paysage』に当たる語彙が、絵画の対象と成りえるような美しい景観と触れ合っていた地域の言語にさえ、必ずしも自生的には存在しないこと」[2]とは貴重な対照をなす。こちらは
当たり前のように目の前にあっても、むしろ<浸透しすぎていることによって意識されない>ということだ。 優れた企業理念は以上に述べたような事態に陥ることがよくある。第一に、すなわち現場組織にはいくつもの貴重な実感が見出されているのに組織全体では体系化・一般化されにくいこと。第二に、当たり前のように意識されている貴重な習慣が組織内部では貴重なものとは評価されていないこと、である。これらは長い時間をかけてよい意味でも悪い意味でも<企業風土>を形成し、必ず課題として噴出する。逆にそれぞれを課題と思って対処していけば効果が得られるともいえる。 これらはいずれも地理学による示唆である。
システムの外部にも影響する、地理学の価値
筆者は、地理学という学問体系の外から、実務上の類推をもとに本稿での主旨を問いかける。だからそのシステム内部にいる専門家にとっては、当然に違和感を覚える題材なのかもしれない。しかしそのシステム外にある筆者にとっても地理学の価値は影響を及ぼすということであって、筆者はもう少し、その真価を学び、現業に生かそうと考えるが、同時にシステム内の秩序や安定性に意義を唱えるつもりはない。この点は明確にご理解いただきたい。
[1] Symbolic Interactionism. この整理は定説といってよいが、ここでは
アンソニー
・
ギデンズ
による『社会学』(第六版)の記述体裁にならう。Giddens, A. (2009),
Sociology (6th edition), Polity Press, London, UK.
[2] Augustin Berque. (1986).
Le sauvage et l’artifice. Les Japonais devant la nature.Paris, Gallimard. P154他
抄録全体を表示