Streptococcus mutansのH
+ (F
1F
0)-ATPaseが細胞内のpH調節を担うか否かが明らかではない。そこで,
S. mutans GS-5を, 異なる培地pHあるいはイオノフォア (
グラミシジン
D) 存在下で培養した時,
S. mutans GS-5のF
1F
0-ATPase活性がどのように変化するかを明らかにすることにより, 同酵素のもつ
S. mutans細胞内pH調節・補償機構の意義を考察することを試みた。
細胞壁溶解酵素 (Mutanolysin) により調製した
S. mutans GS-5の膜結合性ATPaseの主体が, DCCDおよびN
aN
3で選択的に阻害されるF
1F
0-ATPaseであることを確かめたのち, 培養初期pHの変化 (pH 5.5-7.5), および
グラミシジン
D (2μg/m
l) 存否の条件下で
S. mutans GS-5を培養し, 同菌の増殖およびF
1F
0-ATPase活性の異同を検討した。なお
Enterococcus hirae ATCC 9790を比較の為の対照とした。一方, 細胞内pHとF
1F
0-ATPaseの関連性を,
S. mutans GS-5の対数増殖期初期 (培地pH 7.0) に
グラミシジン
Dを添加・培養後, 同菌の細胞内pHおよびATPase活性を測定することにより調べた。
培養初期pHの低下が,
S. mutans GS-5および
E. hiraeのF
1F
0-ATPase活性を2-3倍上昇させた。
グラミシジン
D存在下の培養で,
E. hiraeのF
1F
0-ATPase活性の上昇 (1.8-3倍) をみたが,
S. mutans GS-5では長時間 (8-20時間) の遅滞期 (lag phase) が発現するのみで, F
1F
0-ATPase活性の上昇は認められなかった。この遅滞期前後の細胞内pHとF
1F
0-ATPaseの関連性を, 対数増殖期初期 (培地pH 7.0) に
グラミシジン
Dを添加した実験により検討した。その結果,
グラミシジン
Dの添加により
S. mutansの細胞内pHが7.5から6.9に低下し, 同菌の増殖が約10時間停止した。一方, 再増殖後の細胞内pHは, 7.3に回復しており, この間F
1F
0-ATPase活性変化および
グラミシジン
Dの失活は認められなかった。
これらの成績から,
S. mutans GS-5のF
1F
0-ATPaseは,
E. hiraeとは異なり
S. mutans GS-5の細胞内pH調節機構に関与する度合いが少ないのではないかと考えられた。
抄録全体を表示