【目的】
下肢の機能障害は加齢や病気,事故などによって引き起こされており,歩行困難となった場合には車いすを用いる.しかし,車いすの使用が多くなると,下肢を動かす頻度が低下し,二次的障害として下肢筋萎縮や骨強度の低下,心肺機能の低下などが生じる可能性がある.そのため,車いす使用者は下肢筋のトレーニングが必要となる.脊髄損傷では損傷レベルによっては,対麻痺となり,下肢を自由に動かすことが出来ない.しかし近年,機能的電気刺激(FES)を用いた下肢筋のトレーニングが有効的であると報告されている.FESを用いたトレーニングには,FESローイングやFESサイクリングなどがあり,これらを使用することで二次的障害を抑えることやQOLの向上も期待できる.今回,筆者は車いすに乗ったままで可能であるFESサイクリングに注目した.これまでFESサイクリングは日本国内でも様々な先行研究がされている.しかし,どのタイミングで刺激すれば効率の良いサイクリング運動が可能であるかは報告されていない.本研究の目的は,FESサイクリングにおける収縮筋のタイミングを検証し,特定することで,実際にFES刺激を行い,サイクリング動作を確認することである.
【方法】
被験者は健常男性1名であり,身長174cm,体重60kgである.サイクリング姿勢のときに実際に収縮している筋を特定する必要がある.サイクリング機器には車いすに乗ったまま測定できるように,Magneciser を用いた.サイクリング動作時の収縮筋とタイミングを特定する必要がある.収縮筋の特定には,MULTI TELEMETER 511,KEYENCE NR-2000を用いて,先行研究を基に大腿四頭筋,ハムストリングスで計測した.筋収縮のタイミングは,Magneciser にロータリー・エンコーダを組み込んだものとVICON370を用いて,関節角度等の位置データを計測した.球体反射マーカの貼付位置は左右ともに大転子,膝関節裂隙,外果,クランク軸,ペダル軸である.計測にあたり,開始前の状態は右側ペダル軸がクランク軸の直上にある状態で開始し,20秒間のサイクリング運動を計測した.収縮筋特定後のFES刺激には,パル
スキュア
ー・プロを用い,タイミングの調整には当大学が製作したリレー・スイッチ回路を用いて,実際にサイクリング運動を確認した.
【説明と同意】
本研究では、世界医師会によるヘルシンキ宣言の趣旨に沿った医の倫理的配慮の下に実施した.
【結果】
収縮筋における筋電は,ハムストリングスは大腿四頭筋の2~3倍の収縮強度がみられた.筋収縮のタイミングは,ペダル軸がクランク軸の直上にある位置を0°とするとペダル軸の位置が-70°~80°の時に大腿四頭筋が収縮し,180°~260°の時にハムストリングスが収縮していた.大腿四頭筋とハムストリングスに対して,算出されたタイミングで刺激したところ,サイクリング運動が可能であった.
【考察】
FESによる刺激筋が大腿四頭筋とハムストリングスの2つの筋でサイクリング運動が出来た理由としては,駆動方法がリカンベルトバイクに近い姿勢であることが考えられる.通常の自転車のペダル行程における前方押しが押し下げで行われるハムストリングスの収縮時間の延長により,代償されていると考えられる.筋収縮のタイミングに関しても,自転車のペダル行程においてハムストリングを使用する引き上げが,重力に対して垂直ではなくなるために,通常のペダル行程と比較して収縮時間が短縮されたと考えられる.今後の展望は,今回は2つの筋に限局して測定したが,ハムストリングスの活動が大きいため,他の行程で収縮する大殿筋や腓骨筋なども確認することで,ハムストリングスに過度な負荷をかけずに,より効率の良いサイクリング運動が出来ると考えられる.また,下肢機能障害の患者に対してFES刺激を行い,サイクリング運動を再現させ,下肢筋力向上や骨密度の改善などを目的に研究を進めていきたい.
【まとめ】
FESサイクリングにおける収縮筋のタイミングを検証し,特定した.実際に,FES刺激を行い,サイクリング運動を確認した.
【理学療法学研究としての意義】
本研究のデータを基に,対麻痺などの下肢機能障害に対するFESサイクリング装置を作成することで,二次的障害やQOLの向上にもつながると考えられる.
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