1994年9月8日の午後、突風と降雹を伴う強い雷雲が群馬および埼玉県を通過した。埼玉県北西部の美里町立美里中学校では、校舎の窓ガラスが突風で割れ、教師2人と71人の生徒が負傷した。被害調査、地上観測、高層観測、静止衛星、現業レーダーなどのデータを用いて、雷雲とこれに伴う突風の解析を行った結果、この雷雲に伴って少なくとも3つの
ダウンバースト
が発生したことがわかった。主な解析結果は以下の通りである。
3時間以上長続きしたこの雷雲は、約8m/sのスピードで東南東進し、発達期以降はその直下で10度近くの気温低下と発散風を伴っていた。成熟期には雲頂は約15kmに達し、レーダーによる反射強度の分布は進行方向に対してオーバーハング構造を呈していた。
被害調査による雷雲下の降雹域の幅は2ヵ所で顕著な拡がりを示した。この拡がりの見られた場所と時刻は、レーダーで観測された反射強度の核の降下の場所・時刻と一致していた。更に、数地点の地上気象観測データの時空間変換から求めた水平風の分布には、降雹域の拡がりにほぼ対応した場所・時間に明瞭な発散風(
ダウンバースト
AおよびC)が見られた。
ダウンバースト
Aは、児玉環境大気測定局(KD)とそこから約3kmに位置する児玉郡市広域消防本部の中間で生じたことが、両地点の風向風速記録から明瞭に読みとれる。雷雲通過による降温はこの2地点付近で最も大きく、11度以上に達した。
ダウンバースト
Aは最終的には差し渡し40kmの範囲にまで広がった。雷雲は
ダウンバースト
Aを生じた後、急速に衰弱した。
KDの自記紙には
ダウンバースト
Aとは別の更なる気温降下と風の発散が記録されており、近くで
ダウンバースト
Bが発生したことを示している。KDで
ダウンバースト
Bを発生させた雷雲の部分は、被害を引き起こした突風が吹いた時刻には約8km離れた美里中上空をちょうど通過していた。美里中付近の気象観測資料はないが、被害調査やこれらの事実から、美里中近くで第4の
ダウンバースト
が発生した可能性が示唆される。これらの
ダウンバースト
はすべて、ガストフロントの6-10km後方で発生した。
雷雲周辺のCAPEは、雷雲通過前後の3時間で1800m
2/s
2から700m
2/s
2以下に減少した。相当温位の下層の極大値と中層の極小値との差も同様に、26Kから16Kに低下した。
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