TP&Dフォーラム(整理技術・情報管理等研究集会:Technical Processing and Documentation Forum)は,情報科学技術協会(当協会)が長年後援してきた研究集会です。2022年度より当協会との連携を強化し,研究集会で発表された内容や議論を記事としてまとめ,当誌に掲載しています。この研究集会の各セッションでは,司会者の進行のもと,研究発表,続いて討議が行われます。討議の時間は研究発表と同じく45~60分程度設けられており,発表者,参加者ともに深い議論を行うのが特徴となっています。参加者は,図書館員,教員・研究者,システム開発者,出版関係者など,幅広い層が集まり,図書館分類法,Indexing論,情報検索,情報管理,目録法など,整理技術・情報管理の領域について討議・意見交換が行われます。コロナ禍前は合宿形式で寝食を共にし,立場を超えた交流を深める機会となっていました。2021年からはオンライン形式により開催が継続されています。
第33回目となる2024年の研究集会は,「アメリカのCJK目録界の歴史」をテーマに開催されました。CJKとは,中国語・日本語・朝鮮語(Chinese, Japanese, and Korean)の頭文字を取った略称です。海外,特に英語圏の北米で,これらの言語の資料をどのように整理し,利用者に提供してきたのかについて,米国の現場のサブジェクトライブラリアンによる報告を通して活発な議論が行われました。日米から参加者が集まり,オンライン形式のメリットを生かした集会となりました。
本号では,最初に伊藤民雄氏(実践女子大学)に2024年のフォーラム概要をまとめていただきました。その後,各セッションの具体的な報告記事が続きます。
1つ目は,森本英之氏(コロンビア大学)による米国CJK目録界の歴史的動向についての報告です。日本では知ることの難しい北米の東アジア言語資料の書誌コントロールの状況を,1980年代以降から概観し,報告されました。和中幹雄氏(「メタデータ評論」編集委員会)の討議報告では,翻字や文字入力の方式など,森本氏の報告の中から重要と思われる記述目録法の課題を抽出し,議論が展開されています。
2つ目は,シャロン・ドマイヤ氏(
マサチューセッツ大学アマースト校
)の報告です。サブジェクトライブラリアンとして勤務されている米国の大学における日本語目録の活用についての報告です。図書館の利用者である日本語学習者からのフィードバックを通して,有用な検索ポイントを追加していく工程は,日本のライブラリアンにも参考になると思われます。また,ドマイヤ氏の報告は英文であったため,討議報告を担当した中野ひかる氏(関西学院千里国際中等部・高等部)が和訳版も作成してくださいました。併読することで,日本の読者の理解が深まる一助となれば幸いです。
さて,今後,図書館の目録業務は生成AIなどの導入により効率化が進むことが考えられます。しかし,今回の報告を拝読し,多言語の資料を対象とする図書館の目録情報を国際的に共有されるようにするには,効率化だけでは越えられない壁があることを再認識しました。また,人が介することによる付加価値を生み出していくことが,今,図書館のカタロガーに必要とされる挑戦なのかもしれません。読者の皆様におかれましても,整理技術・情報管理の重要性のみならず,これからの図書館のあり方や図書館情報学の方向性を考えるきっかけとなることを願い,本特集をお届けいたします。
(会誌編集担当委員:尾鷲瑞穂(主査),青野正太,野村周平)
シャロン・ドマイヤ氏の事例報告2に関しまして,紙面の都合により一部不鮮明な図表がございます。
つきましては,J-STAGE上で図表ファイルを付録情報として掲載しております。ご参照いただければ幸いです。
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