【目的】フィンランド発祥、ヨーロッパを中心に世界30ヶ国以上でフィットネスツールとして用いられているジ
ムスティ
ックは、ファイバーグラス型の軽量スティックとエラスティックチューブを組み合わせたもので、筋力増強・バランス能力向上等の目的に合わせて、あらゆるシーン、幅広い年代に対応できる万能ツールとして注目されている。海外では、若年者を対象とした効果について科学的に立証されており、特にフィットネス分野で使用されている。当院では運動療法を行う一つのツールとして取り入れ、年齢を問わず高齢者に対しても使用し、運動機能向上を経験している。しかし、運動機能低下を伴う者に対する研究数が少なく客観的な根拠に基づき有効利用するという、Evidence-based Medicine(EBM)が確認されていないまま行われているのが実状である。本研究では、高齢者に対して転倒予防を目的にジ
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ックを用いて集団エクササイズを行い、主観的なアンケート調査及び客観的な運動機能評価による効果判定を行ったので報告する。
【方法】対象は、変形性関節症をはじめとする運動器疾患の治療の為に当院へ通院されている成人男女13名(男性1名、女性12名)とし、平均年齢は72.8歳(65~78歳)であった。ジ
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ックを用いて独自に考案した30分間のエクササイズ(以下、ジ
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ック・エクササイズ)を週2回以上、2ヵ月間実施した。そして実施前後に運動機能評価として、握力・開眼片脚立ち(OLS)・Timed Up&Go Test(TUG)・5m通常歩行時間・5m最大歩行時間・Functional Reach Test(FRT)を行った。また、転倒不安感尺度及びアンケート調査を行った。解析にはSPSSを用いて対応のあるt検定を行い、有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】対象者には、研究の主旨と目的を説明し文書にて同意を得た。そして運動機能評価結果とアンケートの集計結果のみを使用し、個人を特定できないようにした。
【結果】エクササイズ実施後、握力(kg)は19.5±4.5から21.3±4.1、TUG(秒)は7.8±1.8から6.7±1.8、5m通常歩行時間(秒)は4.2±0.6から3.8±1.0、5m最大歩行時間(秒)は3.2±0.6から2.9±0.6、FRT(cm)は28.7±6.6から34.7±5.8、転倒不安感尺度(点)は15.9±6.2から12.5±3.5となり有意な改善が認められた。OLSにおいては有意差が認められなかった。また、継続率は100%で、実施期間中に新たな疾病への罹患、症状の増悪、転倒の発生はなかった。さらに、アンケート調査にて「効果は実感しましたか」「楽しく行えましたか」「今後も続けて実施してみたいですか」という質問に対し「はい」「いいえ」「その他」の選択肢で回答を求めたところ、参加者13名中13名が「はい」と選択した。
【考察】運動機能が低下している高齢者では、筋力・バランス能力・柔軟性など体力の諸要素が独立して低下することは少ない。したがって、一部分にのみに着目するのではなく、体力の諸要素を包括的に向上させる必要がある。本研究で実施したジ
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ック・エクササイズは、エラスティックチューブを装着した状態で歩行やリーチ動作を行うため、個別の筋の収縮だけではなく伸張性収縮を全身の筋群と正しく協調させる必要があり、動的安定性が求められる。それを2ヵ月間行ったことで動的安定性が向上し、有意な改善が認められたのではないかと考える。OLSについては、エクササイズの特性上、静的安定性を向上させる構成ではなかったため、改善が認められなかったと考える。しかし、OLS時間と転倒との相関がないとの報告やADL上で重心位置を支持基底面内に留めておくような静的安定性を向上させるよりも、歩行や移動動作に必要とされる動的安定性向上の方が、転倒リスクを下げられると考えられる。これらを含めて今後は、転倒との関係についても検討すべきであると考える。減少した転倒不安感や満足度の高かったアンケート結果、OLSを除き向上した測定結果を総括すると、ジ
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ック・エクササイズは包括的な運動機能向上により転倒リスクの軽減を安全かつ効果的に行えることが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】介護予防10ヵ年戦略では、高齢者の生活機能低下を予防するとともに、要介護となる転倒等の効果的な予防対策が推進されている。しかし現状では、疾病への罹患後に病院へ受診される方が大部分を占めており、今後は重度者を軽減させるためにも予防の視点で考え、対応するための研究を臨床現場でも行っていく必要があると考える。
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