本稿は,デンマーク王室がエーアスン海峡を航行する船に課した税の記録を刊行した『エーアスン海峡通行税台帳』(STT)を用いて,
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のバルト海貿易におけるハル,
ヨーク
シャの重要性を,16世紀後半と17世紀前半について明らかにする試みである。まず,船舶数の分析により,ハルが
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中第3位の船舶数をバルト海に送り込んだ有力港であったことを示す。貿易の分析では,ハル船が毛織物輸出,亜麻・鉄輸入において,
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内のみならず,全ヨーロッパ的にみても重要な存在であったことを実証し,これとハルの後背地の経済活動(
ヨーク
シャ毛織物工業など)との関連を提起する。本稿の分析は,地域史的・国民経済史観的枠組みのもとで把握されがちであった
ヨーク
シャ経済に対する海外市場の重要性を提起し,同地域を北ヨーロッパ商業圏の一環として見直すよう迫るものである。また,
ヨーク
シャがロンドンを介することなく,ハルを通して北ヨーロッパと結びつき,「ロンドンを頂点とする
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国民経済」とは別個に,ある程度自立的な経済圏を形成していた可能性も論じる。
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